また由孝が可愛い女の子に声をかけている。いつものことだしもう諦めているけどやはり見ていて気持ちのいいものではない。何せ私たちは付き合っているのだから。
確かに私よりあの子の方が何倍も可愛い。だったら私じゃなくてあの子と付き合えばいいじゃないか。そう思うけど私は分かっている。それは無理だと。
だって由孝は顔はいいけど性格は残念だ。由孝の女好きはこの学校では結構有名。だから由孝と付き合おうなんて思う奴私くらいしか居ない。だから私は由孝と付き合っている。きっかけは由孝に告白されたからだけど実は告白される前から私も由孝が好きだった。もちろん女好きということは知っていた。でも由孝は実は努力家で仲間想いで優しい。私はそーゆーところに惹かれた。
『ねぇ笠松ー、なんか由孝をぎゃふんと言わせるいい方法はないかね』
「知らねぇよ」
『ひどいなぁ。私笠松の唯一の女友達じゃん。もっと優しくしてよー』
そう言って笠松の腕を引っ張ると触るなと怒られた。
あ、由孝がこっち見てる。
『ん?んん!?』
「なんだようるせぇな」
『笠松私いいこと考えた!』
今由孝がこっち見てたのって絶対ヤキモチだよね。私が笠松の腕掴んだからだよね。だったらさ、私が笠松ともっと仲良くしてれば由孝もっとヤキモチ妬くんじゃね?
私はそう考えた。でもそれを笠松に伝えると俺を巻き込むな!と言われた。それもそうか。でも今回ばかりは協力してほしい。
『ねぇ笠松ぅ、私たちの仲じゃん』
「どんな仲だよ!」
『お、と、も、だ、ち』
「きめぇんだよ」
『女の子にキモイとか言うなよ。だから笠松彼女できないんだよばーか』
「っ、シバくぞ!」
『痛っ!もうシバいてるって!てか本気で女子叩くとかありえない!』
罰としてやっぱり協力してもらいます!そう笠松に詰め寄ると、分かったから離れろ、と赤い顔で言われた。
え、今分かったって…。
『協力してくれるの!?ありがとー!』
「っ…」
放課後。
さすがに教室で笠松といちゃつくことはできないので部活に行ってからすることにした。奇跡的に今日は自主練だ。
『笠松頑張ってー!』
「……おう」
由孝が不機嫌そうな顔でこっちを見る。
よし、いいそいいぞ。
『笠松おつかれー!はいタオル!』
「お、おう…」
『今日もかっこよかったよ!』
「っ…!」
「名字先輩どーしたんスか?」
『なにが?』
「何がって、さっきから笠松先輩としか話してないじゃないっスか」
『うん。だって笠松かっこいいし』
「えっ……。あっ、森山先輩」
『えっ…?』
由孝がこっちに来た。
「名前、ちょっといいか?」
『うん』
黙って由孝の後に着いていく。由孝は体育館を出てすぐに足を止めて振り返った。
「お前、笠松のこと好きなのか?」
『好きか嫌いかなら好きだけど?』
「そーゆーことじゃねぇよ。男として好きかってことだよ」
『うーん、男としてなら好きじゃない、かな』
「じゃあなんで笠松ばっか構うんだよ」
おっと、これはヤキモチですね。
『自分は?』
「は?」
『由孝だって、他の女の子に声かけてるじゃん。あれはいいの?』
「っ、それは…、あれだ。可愛い女の子には声かけないと失礼だろ」
『じゃあ私もかっこいい人見たら声かけていいってこと?』
「それはダメだ!」
『なんで由孝はよくて私はダメなの?』
由孝がヤキモチを妬いてくれただけでもう充分なんだけどそれだけじゃやっぱり納得できない。私はいつもいろいろ我慢してきたんだから。
『由孝さっき私が笠松といるときどう思った?』
「どうって、…腹が立った」
『はぁ…、私も一緒だよ』
「えっ?」
『由孝が女の子に声かけてるの見て嫌な気持ちになった。ヤキモチかなぁ』
「っ、名前…」
由孝は泣きそうな顔をしている。
『私の辛さ分かった?』
「……分かった。ごめん名前」
『分かればよろしい。これからは女の子に声かける回数減らしてね?』
「えっ…、声かけていいのか?」
『うん、だってそれが由孝だし。それに、由孝がヤキモチ妬くのは私だけでしょう?だったそれでらいい』
「名前…!」
由孝が抱きついてきた。私は由孝の腕の中にすっぽり収まった。
「名前、俺は可愛い子はみんな好きだけど、一番好きなのは名前だけだ」
『うん…』
「だから、もう名前以外の女の子に声かけるのはやめる」
『えっ…、そんなことできるの?』
「っ、努力する」
無理しなくてもいいよ、由孝の腕の中でそうつぶやくと頭上から、頑張る、の一言。
頑張ってくれるのは嬉しいけど、ホントにそんなことできるのかな。
でも、ちょっとだけ期待してみようかな。
必要としていたのは僕のほう
(森山くんおはよう)
(…あ、うん)
(ちょっ、由孝、おはようって言われたらちゃんと返しなよ)
(いや、ダメだ。これは女の子を絶つ練習なんだ)
((由孝が本気だ…))