『幸男くん、私今日課題やりたいから教室にいるね。部活終わるくらいの時間にはそっち行くから』

「おう。課題頑張れよ」

『うん、幸男くんも部活頑張ってね』



幸男くんは手をヒラヒラと振りながら教室を出て行った。

いつもは幸男くんが部活をしているところを見ているのだがやらなければならない課題があったため教室に残ることにした。教室にはまだクラスの人が数人残っている。



『さてと、課題やるか』



数学の教科書をパラパラと捲る。この前風邪で学校を休んだ日があってたまたまその日に抜き打ちテストが行われた。そして次の日先生に呼ばれて一枚のプリントを渡されてのだ。抜き打ちテストの代わりにこれをやれと。

プリントを見る限りそこまで難しい問題ではない。私は安堵の表情を浮かべた。



「ねぇ名字さん」

『っ…』



名前を呼ばれて顔を上げると幸男くんの隣の席の子が立っていた。その手には幸男くんの携帯が握られている。



『あ、それ…』

「笠松くん机の上に携帯置いていっちゃったみたいなんだけど、名字さんこのあと笠松くんに会うよね?」

『うん』

「じゃあ渡してあげて」



彼女はそう告げると小走りで教室から出て行った。あの子は確かテニス部だったはずだ。もう部活が始まるであろう時間だから急いでいたのだろう。急いでるのにわざわざ私に幸男くんの携帯を渡しに来てくれるなんて、あの子はきっといい子だ。そういやクラスでも結構友達が多かった気がする。



彼氏とかいるのかな。可愛くていい子だし、たぶんいるよね。



『あっ』



課題のことをすっかり忘れていた。早く終わらせなければ。



「名字さん残るの?」

『あ、うん。課題あるから』

「そっか、頑張って」

『ありがとう』



声をかけてくれた子は私に手を振ると友達と帰っていった。あの子は数えるほどしか話したことはないが明るくて誰にでも優しいいい子だ。そういえばこのクラスはいい子が多い気がする。こんなクラスになれた私は案外運がいいのかもしれない。



『……』



黙々とプリントをやっていたら30分ほどで終わった。帰る準備をして幸男くんのところに向かおうと思ったのだが、私はふと幸男くんの携帯が気になった。

幸男くんと付き合って結構経つが思い返してみれば彼の携帯を持ったのは初めてだ。幸男くんはロックとかしているのだろうか。待ち受けは何だろうか。

いろいろなことが気になり、つい電源を押してしまった。幸男くんの携帯はロックがかかっていなかった。ディスプレイに映し出される幸男くんの携帯の待ち受け。



『えっ…、わ、たし…?』



そこには笑顔の私が。目線は違うところに向けられているからたぶん友達とお喋りをしているときにでも撮られたものだろう。つまり、盗撮。

いつから私を待ち受けにしているのだろうか。そもそもこの写真はいつ撮られたのだろうか。幸男くん本人が撮ったのだろうか。それとも森山くんや黄瀬くんだろうか。

幸男くんに待ち受けにされて嬉しいという気持ちはあるが今はそれよりもこの写真がどのようにして撮られたのかという方が気になった。

私は帰り支度の続きをし教室を後にした。



『あ、いた。幸男くん』



体育館をひょっこり覗くと部員がシュート練習を行っていた。その中にはもちろん幸男くんの姿もある。

しばらく見ていると休憩になったので体育館に入り幸男くんの元に向かう。



『おつかれー』

「あ、課題終わったのか?」

『うん。あ、そうそう、幸男くん机に携帯置いていったでしょ』

「えっ、…………っ!」



そう言って携帯を差し出すと幸男くんはポカンとした顔をしたあと顔を青くした。



「中、見たか…?」

『うん、待ち受けは見た』

「っ!」

「え、なになに。名前ちゃん笠松の待ち受け見たの?」



横から森山くんが割って入ってきた。ニヤニヤしているからたぶん幸男くんの待ち受けを知っていたのだろう。



「ち、違うんだ!全部森山がやったんだ!」



私はまだ何も言っていないのに勝手に弁解しだす幸男くん。私が怒るとでも思ったのだろうか。それとも自分がやったと思われていたら恥ずかしいと思ったからだろうか。



「確かに写真撮ったのもそれを待ち受けに変えたのも俺だけど、笠松それ変えなかっただろ」

「っ!それはっ…!」

「俺お前が名前ちゃんの写真ニヤニヤしながら見てんの目撃したけど」

「はあっ!?ニヤニヤなんてしてねぇよ!シバくぞ!」

「いやいや、してたから。名前ちゃんこいつ絶対ニヤニヤしてたから」



森山くんがそう言いながら私を見る。そこまで言うということは本当なんだろうか。笠松くんが私の写真を見ながらニヤニヤしていたというのは。それが本当ならこっちがニヤニヤしてしまいそうだ。



「名前の写真を見てたことはあったけどニヤニヤなんてしてねぇからな」

「絶対してたって!」

「っ!………ニヤニヤはしてねぇ、笑ってただけだ」

『えっ…』

「一緒だろそれ」

「ちげぇよ!ニヤニヤとか気持ち悪ぃだろ!」



私も森山くんと同じくニヤニヤと笑ってたの違いがよく分からないが幸男くんが私の写真を見て笑っていたと聞いて嬉しくなった。しかもそれが本人の口から聞けたんだからなおさら嬉しい。



「名前、勝手に待ち受けにして悪かった。今変え、」
『変えなくていいよ』

「えっ?」

『だってさ、幸男くんが携帯開く度に笑ってる私が映るんだよ?そんな嬉しいことないよ』

「っ…」

『それで幸男くんを笑顔にできるんならもっと嬉しい。だから、変えないで?』

「………おう」



幸男くんは恥ずかしそうにそう言った。




携帯の電源は切っておけ
(ねぇ、私も幸男くん待ち受けにしていい?)
(おう…)
(ホント!?やったー!じゃあバスケしてるかっこいい幸男くん待ち受けにしちゃおっと!)
(かっ!?)



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