一週間前、お祭り行こうよ!とキラキラした笑顔で言ってきた友人の言葉に私は頷いた。うん、頷いた。だから今お祭り会場にいる。うん、いるよ、いるんたけどさ。



『迷子…』



私は友達とはぐれ迷子になってしまった。しかも携帯の充電も切れてしまい友人と連絡を取ることができない。

友人の方は二人だろうから私のように寂しい思いはしていないはずだ。それはよかった。もしあっちもひとりだったらあとでこっぴどく叱られていただろう。



『んー…』



帰ったらダメかな。でも帰って携帯充電して連絡した方が早そうだよな。人いっぱいだし広いし見つかる気しないし。



「名字さん」

『えっ?…あ、伊月くん』



振り返ると同じクラスの伊月くんが立っていた。



「ひとり?」

『うん、友達とはぐれちゃって…。伊月くんは?』

「俺も、はぐれたんだ」

『そうなの?あ、じゃあ一緒に友達探さない?』



伊月くんは私の提案に乗ってくれた。そして私たちはお互いの友達を探し始めた。

伊月くんは日向くんと木吉くんと来ているらしい。



『見つからないねー』

「広いからな」



プルルル



「あ、電話だ。ちょっとごめん」



日向くんたちかな?

伊月くんが日向くんたちと合流できたら私またひとりかぁ。



「名字さん、電話、代わってほしいって」

『えっ?』



疑問に思いながら電話にでると私の友達だった。しかしよかったと思ったのもつかの間、二人は急に帰らなくてはいけなくなったためあとは伊月くんと回ってほしいと言われた。日向くんと木吉くんは?と聞くと、男三人と女ひとりじゃ寂しいでしょ?だから伊月くんと二人で楽しんで、と返された。



『私が帰るっていう選択肢は…』



そう言うと、いいから回ってこい!と怒られ電話を切られた。


え、なんで私怒られたの。てゆーか…



『あの、伊月くん。話、どこまで聞いた?』

「あぁ、日向から全部聞いた」

『あ、じゃあ私と一緒に回るのはいいってこと?』

「うん」



そうか、伊月くんがいいなら、いいのかなぁ。



『なんかごめんね。日向くんたちと来てたのに』

「いや、いいんだ。名字さんと回れるのは嬉しいし…」

『ありがとー』



そう言って笑うと顔を逸らされた。


え、あれ?どうしたのかな?



「早く、行こう…」

『え、うん…?』



伊月くんは余程お祭りが好きらしい。でもそんなに急がなくても。



『あっ!伊月くん金魚すくい!』

「金魚すくい、好きなのか?」

『うーん、金魚すくいが好きっていうより金魚が好きかな。きれいだし』

「じゃあ、俺が取っ…」
『伊月くんやろう!』

「あ、うん」



伊月くんが複雑そうな顔をするから金魚すくいが嫌なのかと思ったけどポイを持ったらその顔はやる気に満ちあふれたものに代わった。


伊月くん、すごい真剣だ。てゆーかイケメンの真剣顔とかすご破壊力。さすがイケメン。



『あっ…』



私のポイはものの20秒で破けてしまった。一方伊月くんはというと、正確に金魚を追い込み一匹目をゲットしていた。



『伊月くん頑張って』



小さく応援すると伊月くんは静かに頷いた。



『っ…』



伊月くんはどんどん金魚を取っていき最終的に十匹も取った。しかしもらえる金魚の数が決まっているためもらえたのはその半分の五匹だった。



『伊月くんすごいね!私一匹も取れなかったよ〜』

「はい」

『えっ?』



伊月くんに金魚を差し出された。


え、はいって、えっ?



『くれるの?』

「もちろん。だって元から名字さんのためだったし」

『えっ?』



私のために取ってくれたの?私が金魚好きだって言ったから?



『いいの?』

「うん」

『ありがとう、大切に育てる』



私がそう言うと伊月くんは恥ずかしそうに笑って、それから下を向いてしまった。


どうしたんだろう。私なんか変なこと言ったかな。



『あの、伊月くん?』

「っ……、名字さん、話があるんだけど」

『話?なに?』

「いや、ここだとちょっと言いにくいから、場所変えてもいいか?」

『うん』



歩き始める伊月くんのあとを着いていく。連れてこられたのは人気のない場所。



「名字さん」

『うん、なに?』

「俺、実は…、その…、名字さんのことが、好き、なんだ」

『………は?えっ?……えぇっ!』



なんとおっしゃいましたかこの人は。私が好き?

え、そんな人身近にいたんですねってそーゆーことじゃなくて。



『私の何がいいの?女子力ないしさばさばしてるし可愛くもないよ?』

「俺は名字さんの飾らないところとか、元気なところが好きなんだ。あ、あと可愛いところも」

『っ…』



だから私可愛くないってば。伊月くん目おかしいよ。ってあれ?伊月くんてなんかすごい目持ってるんだっけ?え、それで私のこと可愛いとかえっ?



『伊月くん変わってるね。私が可愛いとか。でも、そんなこと言われたことないからちょっと嬉しい』

「っ…、そうやって恥ずかしそうに笑うとことか、すごい可愛いと思う」

『えっ…』



私今どんな顔してた?可愛いって言われるほどの顔してた自覚ないよ?

やっぱり伊月くん、変だ。



「その、よければ、返事がほしいんだけど…」

『返事…?』



返事って、つまり、付き合えるかどうかってこと?

そりゃあ伊月くんみたいにかっこいい彼氏ができるのは嬉しいけど、でも絶対伊月くんと私じゃ釣り合わないと思うし。



『私、伊月くんが思ってるのと違うよ。たぶん』

「もしそうだとしてもいい。新しい名字さんが知れるのは嬉しいし」

『っ…』



そーゆー考え方もできるのか。って感心してる場合じゃないぞ。



『えっと、ホントにホントに私でいいの?』

「名字さんでいいんじゃなくて名字さんがいいんだ」

『っ…!』



ヤバイ、きゅんとした。

というかホントに私伊月くんと付き合っていいのかな。私は後悔しないと思うけど伊月くんは…。

でも本人がいいって言ってるしなぁ。



『伊月くん、後悔しても知らないよ?』

「いや、それは絶対ない」

『っ、それなら、いいけど…』

「えっ!?いいのか!?」

『うん』



って、おお…。伊月くんのこんな嬉しそうな顔初めて見た。こんな顔もするのか。てかどんな顔でもイケメンだな。



「名字さん、俺、あんまり彼氏らしいことできないかもしれないけど、頑張るから!」

『いや、頑張らなくてもいいよ。ありのままの伊月くんで』

「っ!」



えっ、なんでそこで照れるの。



「名字さん、ホントに俺名字さんのこと好きだ」

『っ、それさっき聞いたから…、もういいよ…』



ぐっ、伊月くんめ、私を照れさせるためにわざと言ったな。私だって。



『みんなにかっこいい彼氏できたって自慢しよーっと』

「えっ!」

『……えっ』



伊月くんは真っ赤な顔で口をパクパクさせて放心状態になった。私は心配して駆け寄ったけどそしたら今度は私の顔を見て倒れた。


え、ごめん。伊月くん。




告白は日曜日に

(えっ!伊月くんはぐれたんじゃないの!?)
(うん、ごめん。実はひとりでいる名字さんを見つけてわざと日向たちと別れたんだ)
(えっ!)
(で、日向たちと名字さんの友達が偶然会って、日向が事情を説明したみたいで)
(じゃあ二人の急用も私と伊月くんを二人にするための嘘!?)
(うん)
((全部仕組まれてたのか!))



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