私には好きな人がいた。その人とは高校で初めて会って、それから仲良くなって、気付いたら好きになっていた。

彼はなんの取り柄もない私にいつも話しかけてくれた。私以外にも話してる女子はいたけど一番話してたのは私だ。私はそんな彼の行動に自惚れちゃいけないと思いつつ心のどこかで自惚れていた。そして彼を好きになって二年とちょっとが経った今日、私は彼に告白した。

しかし結果は最悪なものだった。ただフラれただけなら最悪なんて言葉使わない。私が最悪だと言ったのは彼に言われた言葉が原因である。

名字のことは女子として見てなかった、名字は可愛い友達が多いからその子たちに近づくために仲良くしてた、彼は笑いながら私にそう言った。いつもの優しい彼はそこにはいなかった。私は利用されていたのだ。



『バカみたい…』



放課後の教室でそう呟く。

彼にフラれたあとどうしても帰る気になれず、教室に戻り自分の席で今日起こったことを考えていた。彼にフラれたこと、彼は自分を偽っていたこと、私は利用されていただけだということ。さすがにもう彼のことは好きではないが悔しかった。彼の本性を見抜けなかった自分が憎い。毎日のように会話をしていたのに。



『……っ』



悔しくて悲しくて涙が出た。私の恋は儚く散ったのだ。


ブーブー



『っ!』



机の上の携帯が震えた。ディスプレイに映し出されているのは笠松幸男の文字。幸は私の幼なじみ。



『なんで電話なんて…』



そう言いながら携帯を手に取り通話ボタンを押す。



『もしもし、なんか用?』

「いや、用って訳じゃねぇけど…」

『じゃあなに?』

「も、森山が放課後、お前のこと見たって言うから」

『…見たからなに?』

「いや、なんか落ち込んでるみたいだったって…」

『っ!』



そっか、告白された後森山くんに目撃されたのか。下向いてて全然気付かなかった。



「名前?」

『あぁ、ごめんごめん。えっと、なんでもないから。落ち込んでないし大丈夫だよ』

「っ、お前今どこだ?」

『えっ…、教室』

「今から行くからそこ動くなよ!」

『えっ、ちょっ!』



ブツッ



『切れたし』



てゆーか、今からここに来るって、まずい!こんな顔見られたら死ぬ!

どうしよう、走って逃げる?でも今から行っても昇降口で鉢合わせしそうだし。じゃあ隠れる?…いやいやそんなことしたら後で絶対怒られるよ。どうしよう。



「名前!」

『うわっ!』



廊下には息を切らした幸の姿。


てか来るの早っ!



『なんで来たの?』

「何年一緒だと思ってんだ。ごまかそうとしたって声で分かんだよ」

『っ…』

「何があった」

『幸には教えない』

「っ、言いたくねぇなら無理には聞かねぇ。でもお前がそんなんだと放っておけねぇだろ」



放っておいたって明日にはなおってるよ、きっと。辛いのは今日だけ。



『……幸っ』



そう言うと引っ込んでいた涙がまた出てきた。



「辛いんなら泣け。ここにいてやるから」

『うっ、ん…』



幸は近くのイスに座った。そしてその隣のイスを引いて、ここ座れ、と言った。私はそれに従ってそこに座った。



『幸…、私ね…』

「おう」

『高橋くんに、告白、したの。でもね、ダメだったの』

「……」

『高橋くん、私のこと、女子として見てないんだって。私、可愛い友達多いから、だから私と、仲良くしてたんだって。…私、利用されてたの』

「っ…」

『バカ、だよね。そんなこと知らないで、私…』

「バカじゃねぇよ、お前は」



幸は私の頭を撫でてくれた。ちょっと乱暴だけど幸らしくて私は昔からこれが好きだった。



『幸は昔から優しいね』

「そんなこと、ねぇよ」

『そんなことあるよ。私が困ってるときいつも助けてくれるし、落ち込んでるときは慰めてくれる』

「それは、お前を放っておけねぇから…」

『幼なじみだから?』

「違ぇよ好きだからだよ」

『……えっ?』

「っ、あっ!」



えっ?どういうこと?幸が私を好き?


幸はしまったという顔をしている。

今まで幸とずっと一緒にいたけど幸はそんな素振り一度も見せなかった。それに高橋くんのことも何度か相談していた。なのに私のことが好きとはどういうことか。まさか嘘?でもそれじゃあさっきのしまったという顔の説明がつかない。



『幸、今の本当?』

「……あぁ」

『っ!いつから!?』

「はあっ!?そんなんいちいち覚えてねぇよ!」



幸の顔が真っ赤なのは怒っているからではなく恥ずかしいだろう。

それに比例して私の顔も赤くなる。



『幸、ごめん。私全然気付かなかった』

「なんで謝るんだよ。気付いてないことくらい最初っから知ってんだよ。知ってたらアイツの相談なんてしねぇだろ」

『アイツって、高橋くん?』

「あぁ。…お前、俺がどんな気持ちで相談乗ってたか知らねぇだろ」

『うっ、だって私幸の気持ち知らなかったし…。ごめん』



そう言ったら、だから謝んなって言ってんだろ、と頭を小突かれた。大げさに痛いなんて叫んでみたけど鼻で笑われた。



『もう、幸はすぐ手が出るんだから』

「別に殴った訳じゃねぇだろ」

『女の子はか弱いんだからね』

「他のやつにはやんねぇよ」

『なにそれ私だけ!?』

「好きな奴はいじめたくなるって言うだろ?」

『っ!』



そういうこと普通に言っちゃうんだ。幸のくせに。てか私に対する当たりが強かったのはそーゆー理由だったのか。知らなかった。



『幸、私…』

「帰んぞ」

『えっ?』

「別に付き合ってくれとか言わねぇよ。お前のこと困らせたくねぇしな」

『……』



確かに付き合ってくれとか言われたら困るけど、でも幸はそれでいいの?いつからか分からないくらい私のこと好きだったんでしょ?伝えるだけでいいの?それで、いいの?


私が言えることじゃないけど幸の欲のなさにそう思ってしまった。



『幸、それさ、あとから後悔しない?』

「は?」

『もし私が、他の人と付き合ったら…』

「何言ってんだお前。お前は俺と付き合う気ないんだろ?だったら言っても意味ねぇじゃねぇか」

『っ…、幸が本気で私とつ、付き合いたいって言うんなら、私ちゃんと考えるよ』



最後の方は幸にギリギリ聞こえるくらいの声になってしまった。でも幸にはちゃんと届いたはず。



「それは、付き合える可能性はあるってことか?」

『……うん』

「っ…」



幸が彼氏になることを考えてみた。幸と手をつないで歩いて、そのうちキスをして、それ以上のこともする。考えただけで顔が熱くなる。

幸は優しくてかっこいい。そんな幸が彼氏だったら自慢の彼氏だ。



「名前」

『っ!なに?』

「お、俺と、付き合ってくれ!」

『……』



幸の目には私しか映っていない。そして今私の目にも、幸しか映っていない。だから私の返事は一つに決まってる。



『こんな私でよければ』

「えっ…、いいのか?」

『うん。だって幸かっこいいし、絶対大切にしてくれそうだし。それに、幸には私しかいないでしょ?』

「なんだよその上から目線。まぁ間違っちゃいねぇが」

『でしょ?でも、それはお互い様かもしれない。私にも幸しかいない。私フラれちゃったし』

「そうだな」

『うん。だからね、これからよろしくね、幸』

「こちらこそ」



私が手を差し出すと幸はその手を握った。




私をひとりにしてくれない神様
(お前自分のことバカだって言ったけどバカなのはアイツだろ)
(えっ、高橋くん?)
(あぁ。こんないい女フったんだからな)
(っ!今日の幸なんか変!)



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