気が付いたら目で追っていた。友達と話してるときとか、男と話してるときとか、授業中とか、昼飯を食べているときとか、視界に入る範囲にいる間はずっと見ていた。

名字とは三年間ずっと同じクラスで話したことはほとんどないが席が隣になったことはある。

俺が名字を目で追っていると気が付いたのはつい先週のこと。友達と話しているときにふと、何見てるんだ?と言われた。そのときは何も見てねぇよ、と答えたがそいつがいなくなった後俺の目は名字の方を向いていて、そこで気が付いた。名字を見ていたということに。

俺だってバカじゃねぇ。名字のことが気になっているということくらい分かる。でも気になっているからといってどうにかしようとは思わない。第一俺は女子が苦手だし、話しかけることなんてできない。相手が名字ならなおさらだ。

だからこのまま卒業までずっと名字に話しかけず目で追い続けるのだと思っていた。でも今、俺は名字に話しかけなければならない状況にいる。なぜなら名字の生徒手帳を拾ってしまったからだ。誰だって生徒手帳が落ちてりゃ拾うと思う。俺だってそうだ。だから名字の生徒手帳を拾った。最初はマジかよと思ったが数秒後には、これは名字と話すチャンスなんじゃないかと思っていた。

今は昼休みだ。名字は自分の机で弁当を広げているだろう。ちなみに俺は部室に行く途中だった。昼は森山と小堀と部室に集まって食べているからだ。

俺は行き先を部室から教室へ変更し、来た道を引き返した。教室に行くと案の定名字は自分の席で弁当を食べていた。目の前には仲のいい友達がいる。でもそいつは急いでパンを口に詰め込んでいた。どうやらこのあと何かあるらしい。これはラッキーだ。アイツがいなくなれば名字は一人きりになる。よし、そこを狙おう。

数分後、名字の前の奴が教室から出て行ったので俺は名字に近付いた。



「名字」



思いの外声が出なかった。だか聞こえていないということはなく、名字は、はいと言葉を発した。



「その…」



俺は手にしていた名字の生徒手帳を差し出した。



『っ!えっ!』

「えっ…?」



名字は驚いた顔をしたあと、顔を真っ青にして固まった。


は?なんだその反応は。俺が生徒手帳を拾うと何かマズいのか。まさか俺、名字に嫌われてんのか?



『か、笠松くん』

「っ…」

『中、見た?』

「…?見た、けど」

『っ!しゃ、写真…』



写真?あぁ、自分の顔写真のことか。それなら目に焼き付けた。って何言ってんだ俺変態か。でも確かに名字の写真は見た。名前確認するために開いたしな。

名字はそれを見られたくなかったってことか?まあ確かにそーゆー写真は人に見られたくないよな。



「わ、悪い。名前確認するために、中開いた」

『っ!その、ごめん。気持ち悪いよね…』

「は…?そ、そんなこと、ねぇだろ」

『えっ、だって、でも…』



どんだけ生徒手帳の写真に自信ないんだ。普通にか、可愛かったと思うけどな。



『ホントに気持ち悪いって思ってない?』

「だから、思ってねぇって」

『でも、ストーカーみたいじゃない?私』



ん?ちょっと待て、なんかおかしいぞ。話が噛み合ってない。ストーカー?なんのことだ。さっぱり分からない。



「名字、話がよく、分かんねぇんだけど」

『えっ?』

「ストーカーって、なんだ。何でそんな話になるんだ」



意味が分からなすぎて緊張がほぐれた。さっきまで緊張していたが今はほとんど大丈夫だ。声のトーンも友達と話すくらいの感じだ。

目の前の名字はきょとんとした顔をしている。



『えっ、だって笠松くん、写真見たって…』

「だから、名字の写真を」
『えっ!そっち!?』



そっちってなんだ。写真て言ったら名字の写真しかないだろ。



『ご、ごめん。私ちょっと勘違いしてて、い、今のは忘れて』

「…さっきのストーカーってのは、なんだったんだよ」

『だ、だからそれは忘れてください』



その瞬間名字の持っている生徒手帳から何かが落ちた。名字はそれに気付いていないようなので俺がそれを拾う。


…………えっ?



『あっ!』

「っ!」



名字はそれを俺の手から奪い取った。


おい、それ、俺の写真…。


名字の生徒手帳から落ちたのは俺が部活をしているときの写真だった。なぜ名字がこんなものを持っているのか、さっきの名字の反応と写真から容易に予測ができてしまい、俺は無性に恥ずかしくなった。



『今度こそ、気持ち悪いって、思ったよね?』

「え、いや…」

『ごめん、ストーカーみたいなことして。………笠松くんの写真、欲しくて、こっそり撮りに行ったの』

「っ…」

『ホントに、ごめんね』

「いや、俺は…」



名字は今にも泣きそうだ。でも俺の心は明るい。自惚れてる訳じゃないが、名字は今俺に嫌われると思ってそんな顔をしてるんだ。それで嬉しくないはずがない。



「名字」

『……』

「俺もお前と一緒だ」

『…えっ?』

「俺の場合は写真じゃなくて本人だけど、俺もずっと見てた」

『……………っ…!』



名字と目が合う。


あぁ、やっぱり名字を好きになってよかった。こんなに女子を可愛いと思ったのは初めてだ。



『笠松くん、この写真眺めるの、もうやめる』

「…えっ?」

『これからは写真じゃなくて、笠松くん本人を見る。……いいかな?』




公認ストーカー
(おう…)
(ホント?えへへ、嬉しいな)





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