朝から名前の様子がおかしい。話しかけてもほとんど反応がないし、というかほぼ無視だし、明らかに怒っている。他の奴が話しかけたら普通に話すのに、俺が少しでも近づくと近寄らないでオーラを放つ。だがしかし、俺はアイツに何かした覚えはない。昨日は普通に話していたし、おかしな様子は何一つ無かった。強いて言えば、アイツが用事があると言って先に帰ってしまったことくらいだ。別にそのときは避けられてるという感じはなかったと思う。
黒子にも聞いてみたが分かりませんと言われた。黒子なら何か知っているんじゃないかと結構期待していただけにがっかりだ。
「なぁ、名前」
返事が返ってこないことを承知で再度話しかける。だがやはり名前はピクリとも反応せず、さらに話しかけるなオーラを強めるばかりだ。
なんなんだよ。
「おい、俺なんかしたか?」
その言葉に名前が少しだけ反応した。どうやら俺が何かしてしまったらしい。心当たりは全くないが。
俺は何をしたんだ一体。名前がここまで怒るのは初めてだ。自分で気付いてないだけで名前にひどいことをしてしまったのだろうか。
「なぁ、言いたいことがあるならはっきり言えよ」
『別にないけど』
「じゃあなんで無視すんだよ」
『ちょっとイライラしてるだけ』
「他の奴とは話してんだろ」
『…うるさいなぁ、もうあっち行って』
なんでそんな怒ってんだよ。全然分かんねぇよ。つかさっきから全く目合わせねぇしよ。
俺はこれ以上名前を怒らせたらまずいと思い、渋々自分の席に戻った。
「火神くん、どうでしたか?」
「見りゃ分かんだろ」
「ダメでしたか」
黒子はそう呟くと何かを考え始めた。そしてしばらくすると手に持っていた本を机にしまいスッと立ち上がり、ちょっと行ってきます、と行って名前の席に向かった。どうやら黒子からアイツになんで怒っているのか聞いてくれるらしい。いつもは影の薄いだけの奴だがこういうときは結構役に立つ。アイツが相手じゃ名前もそう簡単に怒れないだろう。
黒子と名前が話し始めてすぐ、二人は教室から出て行った。
なんだ?教室じゃできない話なのか?
とりあえず今は黒子に任せるしかない。俺は二人が戻ってくるのを静かに待った。
「あっ」
数分後、二人が戻ってきた。が、名前の顔が遠くからでも分かるほどに赤い。でも怒って赤くなったとかそういう感じではない。どちらかというと照れている、という感じだ。
「火神くん、名字さんが話があるみたいです」
「えっ」
いつの間にか目の前まで来ていた黒子。それに少し驚いていると黒子の後ろから名前がひょっこり顔を出した。
『あのね、大我。ごめん』
「は?」
『私、その…』
名前は助けてと言わんばかりに黒子の方を見た。
「火神くん、名字さんはヤキモチを妬いて怒っていたみたいです」
「は?ヤキモチ?」
『き、昨日、大我友田さんの頭触ったから…』
「昨日?」
『友田さんにぶつかったでしょ。そのとき小さくて見えなかったとか言って友田さんの頭ポンポンしてたじゃん』
「……」
おいおい、なんだよそんなことで怒ってたのかよ。俺なんかしたかと思ってあんなに考えたのに。
「俺なんかひでぇこと言ったのかと思って悩んだんだぞ」
『私はひどいこと言われたくらい傷ついたんだから』
「っ…」
『もう私以外の女の子にあんなことしないでね?』
名前は泣きそうな顔をしながら上目遣いでそう言った。これをされて何も感じない男はいないだろう。
つか、可愛いすぎんだろ。
『大我、聞いてる?』
「名前」
『っ…』
俺は名前の頭に手を乗せた。ホントは抱きしめたいところだがあいにくここは教室だ。そんなことをしたら周りの視線が全部こちらに向けられてしまう。それはさすがに恥ずかしい。
「もうお前以外の奴にはやらねぇ」
『うん、絶対だよ?』
「っ…」
だからその上目遣いやめろ我慢できなくなるだろ。あー、もう無理だ。
『ちょっ、大我!?』
俺は名前の手を掴んで走り出した。そして誰もいない空き教室まで来ると名前を抱きしめた。
『っ!な、なにっ、大我』
「なんでもねぇ」
『えっ、なんでもなかったらこんなことしないでしょう』
「好きだからした。そんだけだ」
『っ…わ、私も…、好き』
「…名前」
『っ、んっ…』
俺は名前の唇に自分のそれを合わせた。
『やっ、大我ここ学校』
「誰も見てねぇよ」
『そーゆー問題じゃない』
「じゃあどーゆー問題だよ」
『それは…………、んっ…』
名前が黙ったのをいいことに俺はまた名前にキスをした。名前は最初手で俺を押しのけようとしていたがすぐに諦めおとなしくなった。
『んっ、はぅ…っ……、たい、が…』
「名前…」
『っ、はぁ、ちょっと、待って…』
どうやら苦しかったようで名前は肩で息をしている。だがやめてほしいようではないらしい。名前はちょっと待ってと言った。つまりそれは落ち着いたらまたしてもいいということだ。
『大我、長いよ』
「わりぃ、今度は短くする」
『うん…』
名前はそう呟くと上を向いて目を閉じた。短くすると言ったがこれを見てやっぱり無理だと思った。キスを待つ名前があまりに愛おしすぎて俺はまた名前を困らせた。
『っ、大我、短くするって言ったじゃん』
「無理だったわ。お前の顔見ると止められなくなる」
『っ…、今日の大我変。いつもより素直』
「なんだよ悪いか」
『ううん、悪くない。いつもそうならいいのに』
「っ…」
名前がいきなり抱きついてきた。しばらく何も言わずそのままにしていると不意に名前を呼ばれた。そして返事をすると、大好き、と一言。
今度は俺が困る番だった。
キミ攻略マニュアル
(大我、顔真っ赤)
(うるせぇ)
(そーゆーところも好きだよ)