お母さんに頼まれて、おばあちゃんが送ってくれたイチゴを幸男の家に届けることになった。

幸男というのは私の幼なじみで、高校が違うから会うことは少ないが、ちょくちょく連絡を取り合ったりしている。

幸男の家は私の家から数メートルしか離れてないからすぐに着いた。インターホンを押すと階段を駆け下りる音がして、ドアが開くのを待っていると、中から出てきたのは見たことのない男の子だった。



『えっ…、あの、どちら様ですか?』



その人は私の言葉を無視して私の手を握った。私が、えっ?なんて思っていると、これは運命だ、とか訳の分からないことを言い出して、この人ヤバい人だ、と思った。



『あの、私はどちら様ですかって聞いてるんですけど』

「あぁ、俺は笠松のチームメイトだ。君は?」

『幸男の幼なじみですけど』

「っ!笠松の幼なじみ!?」

『はい』



彼はもの凄く驚いたような顔をしている。というかこの人幸男のチームメイトだったのか、それにしても変な人だなぁ。



『えっと』
「森山センパイ」

『ん?』



階段の方から声がして、まだ誰かいるのか、なんて思いながらそっちを見ると、そこにいたのは私の知っている人物だった。



『あ、黄瀬くん』

「森山センパイその人誰っスか?」

「笠松の幼なじみだ!」

「えっ!?笠松センパイに女の子の幼なじみなんていたんスか!?」



黄瀬くんは雑誌で見るよりもずっと子どもっぽそうな人で、だいぶ印象が変わった。



『ねぇ、幸男いないの?』

「センパイ今飲み物買いに行ってるんスよ」

『そう、じゃあこれ渡しといて』



そう言ってイチゴを渡し帰ろうとしたら止められた。



『え、なに?』

「いやー、笠松の話とか聞きたいなぁと思って」



なるほど、この人たちは昔の幸男が知りたいのか。あと、女子が苦手な幸男がなんで私と仲がいいのかも。


正直帰ってもする事がなかったし、どうせなら幸男に会いたいと思い、幸男が帰ってくるまでこの家にいることにした。



『そういえば名前言ってなかったね。私名字名前』

「名前ちゃんか、可愛い名前だな。あ、俺は森山、よろしく」

『よろしく。てか今日部活休みなの?』

「あぁ、テスト前だからな」

「それでみんなで勉強会する事になったんスよ」

『へぇ、そうなんだ』



幸男が帰ってくるまで3人でいろいろなことを話した。まぁ主に幸男の話だけど。

森山くんは最初変な人だと思ったけど、話してみると案外普通だった。黄瀬くんは、うん、うるさかった。



「名前ちゃんは笠松のこと好きだったりしないのか?」

『うーん、どうなんだろう?好きなのかなぁ?よく分かんない。でももし幸男に告白されたら付き合うと思うよ。まぁそれは絶対ないと思うけどね』

「なんで決めつけるんすか?笠松センパイ名字センパイのこと好きかもしれないっスよ?」

『いやいや、ないよ。私女子だと思われてないもん』

「そうなんスか?」



うん、私がそう返すと、一階から音がした。と思ったらそれは階段を一気に駆け上がって来る音に変わって…

ドンと部屋のドアが開けられ、そこにいる幸男と目があった。



『幸男久しぶ、』
「お前なんでいんだよ!」

『え、イチゴ届けに来たから?てか私が来てるって分かったの?』

「靴見りゃわかんだよ」

「笠松センパイなに怒ってんスか、てゆーか名字センパイは俺たちが引き止めたがらここにいるんスよ」

「なんで引き止めてんだよ」

「え、だって笠松センパイの幼なじみって言うから、なんか面白い話聞けるかなぁと思って」



キッと幸男に睨まれた。



『え、やっ、変なこととか言ってないからね!』

「嘘じゃねぇだろうなぁ」

『嘘じゃないよ!』



幸男は信じてくれたようで私から視線を逸らした。と思ったらまた私の方に顔を向けてきて、え?と思っていたら、もう帰れ、と言われた。



「いいじゃないか笠松、名前ちゃんがいても」

「よくねぇよ!」

『なんで?なんでよくないの?』

「っ、それは…」

「もしかしてセンパイ、名字センパイが俺たちに取られると思ってるんじゃないスか?」

「なっ!んなわけねぇだろシバくぞ!」

『そうだよ黄瀬くん、幸男がそんなこと思うわけないじゃん』



てかもし私が黄瀬くんや森山くんと付き合っても幸男はなにも困らないし。だって別に私のことが好きな訳じゃないし。



「笠松センパイって名字センパイのことどう思ってんスか?」

『えっ、ちょ』



なにを言い出すんだい君は。バカか。


幸男答えなくていいからね、そう言おうと思って口を開いたが私はなにも発することができなかった。

だって幸男の顔が真っ赤だったから。



「っ、どうって、それは…」

「聞かなくてもその顔見れば見れば分かるっス」

「なっ!」

「どうやら俺らはお邪魔なようだな。黄瀬、帰るぞ」

「はいっス!」



え、えっ?と思っている間に2人は帰ってしまった。黄瀬くんは帰り際幸男に頑張ってくださいっス、なんて言っていて、もしかしたらもしかするのではないかと思ってなんだか急に緊張してきた。



『ええと…』

「その、もう、分かってるかもしれねぇけど」

『う、うん』

「俺は、お前が好きだ」

『っ…』



こうなることは予測できていたがいざ言われるとやはり恥ずかしいものだ。

まさか告白のきっかけが今日初めて会った黄瀬くんになるだなんて思いもしなかった。もしかしたら今日私がここに来なかったら一生告白されることはなかったかもしれない。


私は今確信していることがある。それは私も幸男のことが好きだということだ。森山くんに聞かれたときは分からないなんて言ったけど、告白されて分かった。私は幸男が好きなんだと。



『幸男』

「っ…!」



私は背伸びをして幸男の頬にキスをした。



『これが私の答えです』

「っ、名前…」



えへへ、なんて照れ笑いをしていたら思いっきり抱きしめられた。苦しいよ、なんて言ったら、うるせぇ、だなんて…



『幸男、顔隠したいだけでしょ?』

「ち、違ぇよ」

『そんな自信ない声で言われても信じられないよ?』

「っ!」

『幸男、大好き』

「なっ!」



その瞬間幸男は私を解放したのだが自分の真っ赤な顔が丸見えだということに気がついてサッと後ろを向いた。

私はその背中を見つめて幸男にバレないように小さく笑った。





キミを、想う


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