『黒子くん、一緒に帰ろ』
「名字さん。もしかして、部活が終わるの待っててくれたんですか?」
『うん。で、でも!読書できたし、全然大丈夫だから!』
「そう、ですか…」
黒子くんは本当に優しいと思う。いつも、待ってる間退屈じゃないかとかすごい心配してくれるから。あ、でも、いつもって言っても一緒に帰るのは週3回くらいなんだけどね。
本当は毎日一緒に帰りたいけど、
鬱陶しいと思われるのは嫌だからそうしてる。
「名字さん、今日もマジバ寄っていいですか?」
『もちろん!』
その後マジバに行って、二人ともバニラシェイクを頼んだ。本当はハンバーガーも食べたかったけど、彼氏の黒子くんがバニラシェイクだけなのに、彼女の私がハンバーガーを食べるわけにはいかない。食い意地の張った女だと思われるのは嫌だし。
「あの、名字さん」
『ん?』
「えっと、嫌だったらいいんですけど、今日みたいに一緒に帰る日は、体育館で待ってるっていうのはどうですか?」
え?体育館?
えっと、それはつまり、黒子くんが部活をやってるのを見ながら待ってると。そういうことですか?
え、てかそれって…
『いいの!?』
「当たり前じゃないですか。むしろどうしてダメなんですか」
『え、だって、ずっと私に見られてたら鬱陶しくない?』
「そんなわけないじゃないですか。 ボクはいつでも名字さんといたいと思ってるんですから」
『っ!』
黒子くんにこんなことを言われたのは初めてで、すごく驚いた。
まさか黒子くんの口からこんなことが聞けるとは…。って、あれ?
『じゃあ、毎日一緒に帰ってもいいの?』
「はい。って、もしかして名字さん、ボクが鬱陶しがると思って週3回しか誘ってくれなかったんですか?」
『うん』
「そうだったんですか」
どうやら私は大きな勘違いをしていたようだ。黒子くんは私が思っている以上に私のことを大事に思ってくれていた。ちょっと恥ずかしいけど、もの凄く嬉しい。
『あ、そういえば、黒子くんから誘ってくれたことって無いよね』
「あぁ、それは、帰りが遅くなるのに待っててもらうのは悪いと思ったからです」
『そんなこと気にしなくていいのに。私は黒子くんといられれば幸せなんだから』
私がそう言うと、黒子くんの顔が少しだけ赤くなった。もしかしたら、照れてるのかもしれない。
照れてる黒子くん、もの凄いレアだ。告白してくれたとき以来かもしれない。
「お前、黒子と一緒じゃねぇのか?」
『っ!』
いきなり頭上から声がして、驚いて顔を上げると、大量のハンバーガーを持った火神くんが立っていた。
『びっくりさせないでよ、火神くん。てか私の目の前にいるでしょ黒子くん』
「は?…うわっ!お前いつの間に!」
「最初からいました」
「あ、席空いてねぇから隣座るぞ」
『え?』
私が気付いたときにはもう、火神くんが隣に座っていて…
『えーっと…』
「火神くん、相席はしょうがないですが、名字さんの隣に座らないでください。ボクと席を変わりましょう」
「なんだよ、別にいいだろ?」
「よくないです。 火神くんが名字さんの隣に座るなんて許せません」
「…分かったよ。変わりゃいいんだろ」
その後二人は席を入れ替えて、私の隣は黒子くんになった。
もの凄く嬉しいはずなのに、目の前で火神くんががハンバーガーをむしゃむしゃ食べてるせいで台無しだ。
本当にこの人は人間か?まるで獣のようだ。
「名字さん、火神くんは無視して、話を続けましょう」
『あ、うん』
とは言ったものの、火神のせいで話に集中できなかった私たちは、その後すぐマジバを出た。
『火神くんて、ちょっと空気読めないとこあるよね…』
「ちょっとどころじゃないです」
黒子くんはそう言いながら少しだけ怒ったような顔をした。でも黒子くんのそんな顔を見れるのはとても珍しいことだから、私は笑ってしまった。
そしたら黒子くんが、なんで笑ってるんですか?と不思議そうに聞いてきた。
『黒子くんがそんな顔するの珍しいから、つい』
「僕だって怒ります」
『うん、でもたまにでしょ?黒子くん、優しいもんね』
「そんなことないです」
『そんなことあるよ。黒子くんは優しいよ?私、黒子くんの優しいところ、すごく好きだよ?』
「っ…」
私がそう言うと、黒子くんは照れたような顔をした。
「……名字さんがそういうなら…、それでいいです」
『うん。あ、そうだ。黒子くん、手繋がない?』
「僕も同じこと考えてました」
黒子くんが私の手を握る。私は繋がれた手を見ながら、こんな幸せがいつまでも続きますようにと願った。
お邪魔虫
(火神くんって、空気読めないですよね)
(は!?黒子てめぇ!)
((えぇっ!黒子くん、それ本人に言う!?))