委員会の仕事をしていたら外が真っ暗になっていた。ひとりで帰るのは少し怖いくらいだ。でも同じ方向の人はいないし、ひとりで帰るしかない。
だが思ったとき、同じクラスの男の子に声をかけられた。家まで送ると。
『え、でもさすがにそれは悪いし、それに…』
私には笠松くんという彼氏がいる。だから彼と一緒に帰るのはまずいのではないかと思う。もし一緒に帰っているところを見られて浮気だとか言われたら面倒だし、フラれてしまうかもしれない。それは絶対に嫌だ。なぜなら私は笠松くんのことが大好きだから。
「真っ暗だし何かあったら大変だし」
『……』
どうしよう。でもやっぱりひとりで帰るのは怖いし。でもでも笠松くんが…。
うーん。
「名字さん送ってもらいなよ。なにかあったらどうするの?」
『…………わ、分かった。じゃあ、お願いします』
結局私は送ってもらうことにした。
校門で他の委員の人と別れ、反対方向を彼と一緒に歩く。
「名字さんってさ、彼氏とかいるの?」
『えっ?』
あ、そっか。私と笠松くんは教室でもそんなに話さないし、あんまり一緒に帰ることも無いから私たちが付き合ってるって知らないんだ。
でもどうしよう。笠松くん、みんなに知られるの嫌そうだし…。黙ってた方がいいのかな?
『えっと…』
「あのさ!もしいないんだったら、俺と付き合わない?」
『えっ…』
「俺ずっと名字さんのこと見てたんだ。名字さん可愛いし優しいし、頭もいいし」
『そんなこと、ないけど…』
「ねぇ、付き合おうよ」
『えっ、っ!』
彼は私の肩を掴んで壁際に押し付けた。
『や、めて…』
「ずっとずっと名字さんに触れたいと思ってたんだ」
『いやっ…』
どうしよう、怖くて大声が出せない。助けて、笠松くん。笠松くん!
「お前!何してやがる!」
『っ!』
「なっ!笠松!」
『笠松くん!』
笠松くんは私を彼から引き離して私を抱きしめた。
「っ!てめぇ何してんだ!俺の名字さんに触るな!」
「ふざけんじゃねぇ!コイツは俺の女だ!」
「なっ!」
彼はありえないと言った顔で私を見ている。
「名字さん、嘘だろ?こんなやつが名字さんの彼氏なんて…」
『ホントだよ…』
「っ!意味わかんねぇ、なんだよそれ」
もしかしたら彼が襲ってくるんじゃないかと思ったが、彼はブツブツ呟きながら行ってしまった。
「名字!大丈夫か!?」
『かさ、まつ、く…怖かっ、た…よぉ…』
「わりぃ、早く来てやれなくて」
『ううん、笠松くんは、悪くない、よ』
私がいけないんだ。男の子となんて一緒に帰ったりしたから。
『笠松、くん…』
「っ!」
私は笠松くんの背中に手を回して、思いっきり抱きしめた。
『少しだけ、こうさせて…』
「あぁ…」
笠松くんはそっと私の肩を抱いた。
数分後、やっと落ち着いた私はずっと、疑問に思っていたことを問いかけた。
『そういえば、他のみんなは?』
「…置いてかれた」
『えっ、そうなの?』
みんなひどいな、笠松くんを置いていくなんて。そういえば…
『笠松くん、走ってきたの?』
「え?…あ、あぁ。ジョギングだ」
『えっ、部活終わりなのに?』
「今日はあんまり疲れてなかったからな」
『そう、なんだ』
すごいなぁ、笠松くんは。部活やって疲れないなんて。さすがキャプテン。
「名字。…その、今日みたいに委員会で遅くなる日は俺に連絡しろ。送るから」
『う、うん。ありがとう。…あれ?何で笠松くん私が委員会だって…』
「いいから早く帰るぞ!」
『えっ、ちょっ!』
何で笠松くんが委員会のことを知っていたのかは気になるけど、笠松くんが私の手を握ってくれたから今は黙っておくことにした。
次の日。
『黄瀬くん、昨日笠松くんのこと置いてったでしょ?』
「えっ?昨日?昨日は笠松先輩先に帰りましたけど」
『えっ?』
「なんか名字先輩の友達に名字先輩が男と歩いてるの見たって聞いて、それで笠松先輩ダッシュで走ってったんスよ。むしろ置いてかれたのはこっちっス!」
『えっ…、じゃあ私のために…。か、笠松くん!』
私は笠松くんを呼んで黄瀬くんが言ったことが本当か確認した。
「おい、黄瀬ー!!お前何ベラベラ喋ってんだ!」
「えー!」
その後黄瀬くんは笠松くんに跳び蹴りされていた。
なんかごめん、黄瀬くん。でも本当のことが聞けてよかったです。ありがとう、黄瀬くん。
追いかける
(笠松くん、なんで昨日のこと隠そうとしたの?)
(別に、なんとなくだ)
((嫉妬したからとか恥ずかしくていえねぇ))