日向くんと付き合ってどれくらいたっただろう。私の記憶が正しければ、確か3ヶ月だと思う。

なのにだ、日向くんは未だ私にキスをしてくれない。実は愛されていないとか、他に好きな人ができたからとかそういう理由で無いことは確かだ。たぶん私はちゃんと愛されてる。日向くんは私のことを一番に考えてくれるし、手をつなげば顔を赤くする。

私の考えが正しければ、きっと日向くんは恥ずかしくてキスができないのではないか。そう思う。

しかしだ、恥ずかしいのは分かるがいい加減して欲しい。友達には笑われるし、日向くんがヘタレだとバカにされる。確かに日向くんはヘタレなのかもしれない。でもバスケをしている日向くんからはそんなもの全く感じられない。すごくかっこいい。



「もう直接頼むしかないんじゃない?」



リコちゃんに相談したらそんなことを言われた。直接頼むなんて、そんなことできるんならもうやってる。というかキスしてと女の方から頼むなんて少し気が引ける。



「そんなこと言ってたらいつになってもできないわよ?」

『そんなぁ』



何かいい方法はないですか、と聞いてみてもリコちゃんは興味なさそうな顔をしてそうねぇ、と呟くだけ。絶対まともに考えてくれてない。私たち親友じゃなかったっけ?



「名字さん、俺で良かったら相談に乗るよ」

『伊月くん!』



救世主様登場。伊月くんならきっと真剣に相談に乗ってくれるはず。私は伊月くんにリコちゃんに話したのと同じように話した。伊月くんは私の話を聞き終わるとふっと笑った。なんてイケメンなんだ。



「名字さん、今から言うことは日向には内緒な」

『?うん』

「日向も同じことで悩んでるよ」

『えっ!日向くん私がキスしてくれないって悩んでるの!?』

「あんたはバカか。そうじゃないでしょ」

『リコちゃん聞いてたの?』



聞いてたわよ、そう言ってリコちゃんは私の隣に来た。



『で、なにがそうじゃないの?』

「日向は名字さんにキスしたいけどできないって悩んでるんだよ」

『えっ…』



日向くんも私とキスしたいって思ってくれてたってこと?キスのタイミングとかで悩んでくれてたってこと?



『日向くん、なんて?』

「んー?名字とキスしたいけどどのタイミングでいけばいいのかわかんねぇ、って」

『っ…』

「しかも顔真っ赤にしながら」

『えっ!』



日向くんが顔真っ赤にしながら伊月くんに私のこと相談してるとか、どうしよう、嬉しい。私の知らないところでそんなこと言ってたのか。



『伊月くん、教えてくれてありがとう!私日向くんのところ行ってくる!』

「日向なら部室だから」



ありがとう!そう叫んで教室を出た。早く日向くんに会いたい。会って好きだと言いたい。キスしたい。ホントは日向くんからして欲しいけどもうそんなことはどうでもいい。

私は急いで部室に向かった。



『日向くん!』



名前を呼びながら部室に突撃すると日向くんが驚いた顔で私を見た。



「名字」

『日向くん、好き』

「っ!なんっ、なんだよいきなり…」

『伊月くんに聞いたの。日向くんが、私のこと伊月くんに相談してたって』

「っ!ま、さか…、内容も…」

『聞いちゃった』

「っ…!」



日向くんはこの世の終わりみたいな顔をしている。相談してたことがバレたのがそんなに嫌なんだろうか。別に私はそんなことで日向くんを嫌いになったりしないのに。



『私、嬉しかった』

「えっ…」

『伊月くんに相談するほど日向くんが悩んでくれてたって知って…。私もね、リコちゃんに相談してたんだ』

「っ、名字…」

『………えっ』



日向くんが私を抱きしめた。苦しいくらいにぎゅっとされて、日向くんとの距離が近すぎて、心臓の音が聞こえてしまうんじゃないかと思った。



「悪い、おれヘタレで」

『っ、そんなこと…』



ないよ、そう言って顔を上げると日向くんと目が合った。今がキスするチャンスかもしれない。

私からキスをしたら日向くんはどんな反応をするかな。驚くかな。



『日向く…、んっ…』



えっ…。


目の前には日向くんの顔があって、私からキスしようとしたはずなのに、私は動いていないはずなのに。なぜ私たちはキスをしているのだろうか。まさか日向くんが。それとも気付かない間に私が?



『……』

「っ…」


顔が離れて、私は日向くんを見つめた。そしたら日向くんは赤い顔を更に赤くして手で顔を覆った。見るな、なんて言われたけど無理。私はさっきあったことをまだちゃんと理解できていない。その説明をお願いしたい。



『日向くん、今……、私にキス、した…?』

「し、たよ。そんなこと、聞かなくても分かるだろっ」

『え、だって、私から キスしようって考えてて、気付いたらキスしてて、だからもしかしたら私からしたのかと…』

「お前そんなこと考えてたのかよ。女からするって、おかしいだろ」

『だって、日向くんしてくれないと思ったから…』
 
「さすがに俺だって、あそこまでいけばするわ」



ちょっと強めにそう言うけれど、そんな赤い顔で言われたって怖くない。私が小さく笑うと日向くんはちょっとだけこっちを見て笑うな、と言った。笑うなって言われても無理だ。だっておかしいもん。



『っ…』



一瞬、本当に一瞬だけ私たちの唇が重なった。触れるだけのキス。



「笑いすぎだ」

『っ、ごめ、ん』



いや、それどころじゃない。だって今…。なんで日向くんは何事もなかったかのような顔をしているんだろう。私はすごく恥ずかしいというのに。不意打ちのキスとかずるいよ。



「ふっ」

『な、に…』

「いや、別に」



絶対笑った。さっき私が笑ったからそのお返しだ、きっと。二回目だから日向くんは恥ずかしく無いのかな。

と思ってちらっと日向くんを見るとさっきと同様に顔を赤くしていた。なんだ、やっぱり日向くんも恥ずかしいんじゃん。

でも私は優しいからそれは気付かなかったことにしてあげる。





好きで、好きで。




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