さよなら


「和希先輩、夕暮れ時ってなんだか悲しくなってきません?」


そんな言葉がポロッと口から零れた。


「…え?」
「あ、すいませんっ…」


無意識だった。
刻々と太陽が沈んでいくのが、無性に空虚に感じられた。


「何に謝ってるんだよ。…というか、俺がいるからさみしくないだろう?」


そんな時はいつも先輩が笑いかけてくれた。いつも隣にいてくれた。



高校生だった僕はまだ幼くて、それが素直に嬉しかった。
だけど、この感情の意味に気付いてしまっていた。

その想いは永遠に変わらないものだと信じていたかったけれど…












+++++++++



あれからかれこれ10数年。

僕は高校、大学を卒業し、念願の教師となった。
先輩はどうかというと、僕が大学を卒業した後ぐらいからメディアなどに取り上げられる有名人になっていた。





…そして、本日は先輩の結婚式。

彼は今日人気女優と結婚する。
先輩と関わった有名人の方も沢山くるらしい。

そんな絢爛豪華な結婚式に僕は招待された。
それがどうしようもなく嫌で仕方がなかった。
だけど先輩だ。断れない。
素直に祝う事にした。






招待状を片手に足を踏み入れる、すると先輩が出迎えてくれた。


「…日向汰っ!来てくれたんだな。」


久しぶりに見る先輩の顔。
声も雰囲気もあの頃よりもさらに落ち着いていた。テレビや雑誌で見るよりも、何倍もかっこよかった。
やっぱり、気持ちが揺らいでしまう。


「…あ、当たり前ですよ!先輩の結婚式ですよ?行かないわけないじゃないですか!!」


だけど僕はそんな想いを飲み込んで、ぎこちない笑みと共にそう言ってのけた。




…それでも先輩の顔を見るのが辛くなって僕はお手洗いへ駆け込んだ。











鏡の前で自分に問い掛ける。


「ねぇ、笑って。笑ってみせてよ…」


それでも悲しそうなまんま。
悔しくなって、息を止めて笑ってみた。
でも、やっぱり苦しくて涙が出た。

口を開いても出るのはため息ばかりで…



いつからか僕は、人の幸せを祝うことさえも出来なくなってしまっていた。











待合室に戻ると、列席者達が教会の方へと歩き出していた。

どうやら今から式場に入るみたいだ。
僕は急いでそれを追いかけた。




式場に入り椅子に座る。ひと息つく。
僕が先輩のお嫁さんみたいに可愛らしい女性だったらなぁ、だなんてどうしようもないことを考えてしまう。
周りを見渡せば、テレビで見たことがある有名人。
先輩からすれば、僕なんてただの後輩で一般人。
そんな自分があまりに惨めに思える。
…今のうちに、笑顔の練習でもしておこうか









周りがざわざわしだし、音楽が流れる。
どうやらもうすぐ人前式が始まるみたいだ。

拍手と共に扉が開き、新郎である先輩が入ってくる。


「今日は僕たち二人の結婚披露宴にご出席いただきまし…」


そして、マイクを片手に話し始めた。


「ありがとうござい……ああ、めんどくさいっ!とりあえず、来てくれてありがとう!!」


ニコッと爽やかな笑みを浮かべ話をする。
あの頃と一切変わらない笑顔。
こちらもつられて笑ってしまう。
練習なんて必要無かった。

「二人っていってもまだ新婦の方が入ってきてないんで、ぼっちでやり放題!…よし、1人一言ずつ面白い事でも言ってもらおう!!……いや、冗談だよ、はははっ!」


こういうのは皆んなに人気な先輩だから許されるのだろう。

先輩が話す度に会場に笑いが起きた。






「…よしっ!一頻り笑いをとったし、新婦も扉の前で待ってるだろうから、もうそろそろ始めます!!」


先輩のその言葉と同時に扉が開き、新婦とお父さんが入場する。

永遠の純白を纏う新婦さんと先輩…誰が見ても惚れるぐらい、とても綺麗だった。
















…ズキッ

痛い。とても痛い。
心が千切れそうだ。

僕はまたここで後悔するつもりか?

我儘な子供のままでいるつもりか?

心に蟠りを貯めていくつもりか?

過去の弱い自分から抜け出したいんだろ?




『先輩の事が好きなんだろ…?』


過去の僕がそう囁いた。











祝福の鐘が鳴り響く。



「「皆様方の前で今、私た…「和希先輩っ!!」


そんな中僕は、誓いの言葉を交わそうとしていた2人の声を遮りその場で立ち上がる。


「……日向汰っ!?」



周りの視線が痛いが気にしない。

今からでもいい。手遅れでもいい。




それでも僕は、












『ずっと前から和希先輩のことが好きでした…!!』


































…なんて、そんなかっこいいことが言えたら良かったのに。

僕には勇気も甲斐性もありゃしない。




「…和希先輩、おめでとうございます。邪魔してしまってすいません。」



涙をぬぐって、そう先輩へ微笑みかける。

最低なことをしてしまった、そんな僕に先輩は太陽みたいな笑顔で

「全然大丈夫……それより有難う。次は日向汰の番だよ!」

って言ってくれた。

もう一度、その笑顔を僕だけに向けて欲しかったなぁ。









結婚式が終盤になってきた頃には、先輩が嬉しそうに泣いていた。

先輩を中心に会場全体が幸せに包まれていた。
それを見て僕もつられて泣いてしまった。



この涙は、嬉しいからか




それとも…



















そんなことはとっくに気づいているのにね。







『…さよなら、僕よ』


涙目な過去の自分がそう呟いた。





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buzzGさんの「ピーターパン・シンドローム」という楽曲を元に書いてみました。
『口を衝いて出た「おめでとう」に 彼女は太陽みたいな笑顔で 「次はあなたの番だよ。」って言うんだ』のところが特に好きです。再現出来てたらいいなっ…




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