▼肺の奥まで(企画:お蕎麦)
10/14 19:28(0

私と曽良くんは、師弟の関係でもあり、色恋の仲でもある。

今は共に旅をしていて、寝泊まりも一緒だし、嵐の日も、カンカン照りの日も、体を凍らせようと風がびゅうびゅう吹く日も、ずっと一緒。

隙ならいくらでもあった。
ずっと一緒なのに、恋人らしいことなんて、したことがない。
私は老いて、色気のいの字もない。
だから、『そういう』相手になんてなれないのだろうか。
彼は私には生々しい性欲なぞ、抱いてないんだろう。
こういうのを、あれだ、プラトニックラブって言うの?
勿論、それでも私は満足だけど。
でも、私は時々不安になる。
彼は私に思いの丈を伝えようとしない。私が、好き、と言っても、そうですか、と返ってくるだけ。
サバサバ系にもほどがある。

しかしながら、老いて枯れた体と言えど、若く美しい彼に情を抱いたときは、体に潤いが戻って、君が心へと鮮やかに染み渡っていくようだった。
恋、なんてものは久々だから。まさかこんな年になって、するなんて。
しかも、同性で、弟子で、年も離れた人に。
曽良くんは恋人、という言葉が頭を支配すると、君と目が合うだけで、私の体は沸騰してしまう。
そんな私を見て、君は呆れてしまったけれど。
「生娘みたいですね。オッサンのくせに。」
交わす言葉も、態度も変わらず。
「な、何をお!いいじゃないか、別に!」

恋人なんだから、照れたっていいじゃないか。

私がいくらふてくされても、君はどんどん先に行ってしまう。
頼むから、振り向くくらいして欲しい。このひど男め。
視界がぼやけるのは気のせいだ、きっと。
「君はなんとも思わないの?」
「…何がです。」
曽良くんは立ち止まり、編み笠を手でクイ、と上げた。ああ、まだ目が見えないよ。
というかこっち向けよ、この弟子男。横顔だけなんて。
あむあ〜い囁きもないなんて。
優しい包容もないなんて。
私ばかりが盛って、恥ずかしいよ、虚しいよ。
物足りないよ。
「もっと君に染まりたい。」
そう言ってから、後悔の波が私を襲った。
本人の目の前で、何を言ってるんだ、私は。
ああもう、恥ずかしいし、欲がすっぽんぽんだし、恥ずかしいし、恥ずかしいし。
ハンサオらしい思考ではない。
しかし、曽良くんは私の方へゆっくりと歩いてくる。表情が見えないのが余計に怖い。
よくわからないけど、怒ってるように見える(気がする)。
ざしり、ざしりと砂を踏みしめ歩く姿は、さながら鬼。いや、鬼のドン。
「ひいぃ、ごめんなさいごめんなさい!!」
涙目になりながら頭を何度も下げるが、曽良くんの進攻は止まらない。
とうとう目の前まで来た。
やっと顔が見えたと思ったら、いつもの仏頂面。
もう今の状況は、曽良くんがどんな表情をしていても、私は怖がっていたと思う。
発する殺気がいつもより三割り増しなんだよ!

追記

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