過去企画 | ナノ


二十万記念SS
凛太郎と遥の一月一日

***

「りんちゃん、何お参りしたの」

「一年お世話になりました。今年一年またみんなが健康に過ごせます様に、って」

「それ、俺も入ってる?」

「入ってるよ」

「へへ、良かった。嬉しい」

寒さの所為で赤くなった鼻が、やたら可愛くて笑ってしまった。初詣なんてきちんと来たことなかったから、無意識にテンションが上がっているのかもしれない。それを見られるのが恥ずかしくて、ぐるぐる巻きにしたマフラーに顎を埋めて、緩んだ口元を隠した。

「あ、甘酒飲みたい」

「飲もっか」

「俺ね、子供の頃甘酒って苦手だったんだ」

「僕も。あんまり好きじゃなかった」

「今は好きだけど」

「ね、僕もいつのまにか」

温かい甘酒を啜りながら、明けたばかりの新年の夜空を見上げた。残念ながら星は見えないし、たくさんの人でもみくちゃにされそうで落ち着けない。それでも志乃と繋いだ手にひどく安心して、また一口甘酒を含んだ。

「あー雪!」

「わっ、ほんとだ」

「りん、寒くない?俺の上着いる?」

「平気。遥こそ、大丈夫?」

「りんがいるから大丈夫だよ」

もう、困る。恥ずかしくて、嬉しい。

「人、たくさんいて良かったかも」

「へ」

「外でこんなに近くにいられるんだもん、嬉しい」

どさくさに紛れて、と言った感じか。まあ確かにこれだけ人でごった返していれば、誰も僕らに注目はしない…いや、普通ならしない。けど、志乃は普通じゃなかった。誰もが振り向く男前だった。それでもあまり注目を浴びないくらいには、大勢の人で賑わっていて、みんな自分のことで精一杯のようだった。

「雪、積もるかな」

「どうかなあ」

「雪だるまつくりたいな」

えらく可愛らしいことを言う。
「一緒に作ろう」と返せばもう眩しいくらいの笑顔で頷くから、本当に困ったものだ。

「遥、おみくじ、ひいてこよう」

「うん!」

甘酒を飲みきり、もうパンパンのゴミかごへ紙コップを押し込み大行列となっているおみくじにならんだ。長い時間並ぶうちに、はぐれてしまわないように繋いだ手がお互いの体温でじわりと暖かくなっていた。

「俺、おみくじ引くの初めて」

「え、そうなの?」

「うん。ドキドキする」

志乃みたいな人って、何度引いても大吉を引きそうだなあと思った。僕のそんな予想は的中して、志乃は人生初のおみくじで大吉を引き当てた。
「すごいすごい」と何度も嬉しそうに言うから、中吉だった僕まで嬉しくなってしまう。

「これ、記念に持って帰っていいの?」

「好きにすればいいよ」

「お守りにしてもいい?」

どこまでピュアなのか。あんなに並んだのに文句のひとつも言わず、ここまで楽しそうにするなんて。これを可愛くて仕方がないと思い、どうしようもなく抱き締めたくなる僕も僕なのだけど。
そんなことを考える僕の横で、開いた紙を綺麗に折り畳み、無くさないように財布に挟んだ志乃はまたにこりと微笑んだ。

「もう帰る?」

「他にはない?したいこと」

「うん。今は。りんちゃんと年越せて、初詣これて、もう満足したよ」

「そう、良かった」

「今年もずっとりんちゃんといるんだから、またしたいことが見つかったら、その時に言うね」

さらりと、すごいことを。眩しくて直視できない志乃から目をそらし、恐らく真っ赤になっている顔を見られないように俯いた。それでもしっかりと手は繋がれているため、手のひらに滲んだ汗には気づかれているだろう。

「あ、りん」

「、 うん?」

「今年も一年よろしくお願いします」

この一年はすごくいろんなことが変わった。いや、もう去年になってしまったけれど。そんなことはおいといて、とにかく僕にとって今までで一番濃い一年になったと思う。

「こちらこそ、よろしくね」

手を繋いで、人混みを離れ、家についてすぐキスをするなんて、想像もしていなかった。きっと自分にはまだずっと先のことだと、まるで他人事みたいに、思っていたんだと思う。


僕にとっての幸福が、ひとつ増えたことに気づいた日。
(今年ってなに年?)
(ひつじだよ)
(ふーん、じゃあ今年はひつじ見に行こうね)







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