「それ、ずるい」

少しふて腐れ気味に言ってみたのに、虎は「なにが?」なんて涼しい顔をしてまた目を細める。その顔のままゆらりと立ち上がって、わざとらしく丁寧な動作で羽織っていたカーディガンを床に落とした。シャツも脱いで晒された体が昼間の光にいやらしく当てられ、思わず手をのばした。
硬い胸、硬い腕、確かめるように指先でなぞると、虎が小さく息をのんだ。
虎に触られるのは気持ち良い。性的な意味だけでなく、不意に手を握られたり頭を撫でられたり、そういうもの全てが気持ち良い。虎も同じように感じていてくれたらいいのに、と熱を孕んで揺れる黒い瞳に願った。

「手、熱いな」

「虎の体温が低いんだよ」

いつものことだけどねと付け加えてすぐ、ベッドへ柔らかく押し戻された。
そして「とら」と、僕を見下ろす彼に呟けば分かってるよと言うようにキスが落ちてくる。それを分かっていて、期待しながら求める僕を虎は見透かしているんだ、きっと。

一度触れただけの唇ははだけた僕のシャツをわって、軽く胸に吸い付いた。おそらく痕は残らない、それくらいの。

「、蓮?」

大きな手が僕の胸板を撫でるその下で、カチャリと虎のベルトを外す。露になった下着は、それこそ洗濯等で毎日見ている筈なのに、何故か恥ずかしくなる。中心が盛り上がっている所為か、下着越しでもその熱さや硬さが分かる所為か、そんなことはどっちでもいい。とにかく僕まで恥ずかしくて虎の肩口に顔を埋めた。

「どうした」と、きっとニヤニヤしているであろう虎は耳元で囁いて、ゆっくり僕の下着を取り去ってしまった。

そのままするすると足を撫でて、もどかしくなるほど丁寧に後孔を解された。ローションと精液でどろどろになった下半身を、それでもまだもっと柔らかくと、虎の指が。

「とら、ん…も、」

「まだ無理だろ」

「無理じゃな…いっ、あ」

いい加減にしてよと言いたくなるほど丁寧に前戯をするのはいつものことだけど、今日はそれにプラスして少し久しぶりだから、というのがついているのだろう。僕だって決して痛いくらいの方が良いとは思わないけど、ここまでされるなら多少痛くたっていい。とにかく恥ずかしいし、僕ばかりがあんあん喘いでイッて、頭がおかしくなりそうだ。

「はぁ、虎、んああ」

ぼんやりと滲む視界で、虎がローションと一緒に引っ張り出して枕元に置いたゴムを手に取る。色とか匂いとか、正直なんでもいい。早く繋がりたくて、適当にひとつ箱から出し、力の入らない手で包装を破った。

「、」

虎にそれをつけようと背中を浮かせると、どろどろになった自分の下半身も目に入ってしまい顔が熱くなった。

「付けてくれるんじゃないの」

片方の手で数回虎のものを扱き、先端からとぷりと出てきた先走りを親指で撫でた。

「…付けた方がいい?」

この、0.02ミリの壁。あるのとないので気持ちが変わるわけじゃないけれど。それでも直に虎を感じるのとは全然違う。

「いいよ、自分で─」

「そうじゃなくて」

手の中から拐われそうになったそれを握り締め、「そのままがいい」と伝えると、少し強引にベッドに押し付けられてずるずると体の位置を変えられた。


「え、な…」

あっ、と思わず声が漏れた。
空が見えたのだ。日の光が注ぐベッドの上、僕と虎の裸体はそれに惜しげもなく晒されていて。思わず嫌だと溢したら、「このままやめれんの」と意地悪な言葉が返ってきた。

「でも、外から…」

「俺にもよく見えるけど」

「っ!」

腰を持ち上げられて、足を開かれて、その隙間に虎のものが宛がわれていて、あっあっと短く息が漏れた。でもその隙に手を開かれ、コンドームが呆気なく奪われた。

「と─」

「蓮、力抜け」

「っ、ふ…う、」

指より圧倒的な熱量をもったそれが、ゆっくりゆっくり中に入ってくる。眉間にシワを寄せた虎が、やんわりとお尻を揉んだ。

「あ…」

入った。ぴたりと自分のお尻と虎の腰が重なるのが分かり、目頭が熱くなった。もう何度も体を重ねてきたのに、それでも感動する。今一つになっているのだと、そう思うと。
そんな僕を、形が馴染むまで虎は荒く息を吐いて見下ろしていた。

「はぁ、はぁ…」

虎が腰を動かし始めると、充分に慣らされた僕のそこは卑猥な音をたてて、耳を犯された気分だった。虎の腰が打ち付けられる度、シーツがくしゃりくしゃりとシワになるのが背中から伝わってくる。

「んっ、ん…、虎っと、ら」

気持ち良い。
ぽとりぽとりと、虎の顎から落ちてくる汗にも興奮する。それに触れようと虎の頬に手を当てると、ぐりぐりと奥を擦られて背中が反れた。

あ、ほんとに、外から丸見え…もしかしたら繋がっているところまで見えてしまうかもしれない…いつもなら覆い被さってくる虎が、今は僕の腰を掴んで見下ろしながら突いているから、余計に。

「虎、口」

「ん?」

キスがしたいとせがむと、緩く口元が弧を描いた。ずるい。そんな顔。でも、それを口にすることはなく、重ねらた唇に全てを取られてしまった。
キスをしながら時折名前を呼んで、感じる場所を擦られて突かれて、僕だけがまたいきそうになる。虎の背中に指を食い込ませた瞬間、虎もそれを悟ったのか動きが激しくなった。

でも外から見えるかもという不安は拭えず、なのにそれにさえ興奮しているのも事実で。

「れん、そんな締めるな」

「虎っあ、ごめ…も、」

「ん、いいよ」

「あっ、いく…いっ、」

ポタポタと、もう水みたいな精液が自分の腹部を濡らし、その二拍ほど後に中で虎のものがピクピクと震えた。

「虎、とら…」

痙攣が治まり、ずるりと虎が出ていこうと腰を引いた。

「、蓮、力…」

引き留めたのは無意識だったけれど、抜くのをやめた虎が綿毛布を手繰り寄せてそれごと僕の上に被さった。

「虎?」

「カーテン、閉めればよかったな。こんな蓮誰かに見られたらどうすんの」

「そっ…」

「でも、興奮してたか」

「してない」

光を遮断しつつも、ちゃんとお互いの顔は見えている。少し反抗的に否定すると、虎は楽しそうに僕の唇に吸い付いた。

「俺はしたけど」

「……」

やっぱりずるい。
僕は爪を立ててしまった虎の背中を撫でながら、ちゅっちゅと軽くキスを落としてくる唇を舌先でつついた。
僕より温度の低いそれが離れたのは、お昼を少しだけ過ぎた頃だった。体を拭きあってから、虎は宣言通り二人分のオムライスを作ってくれた。

それから夕方まで掃除をしたり本を読んだりして、それぞれの時間をすごし、いつもより早くから夕食作りを開始した。
餃子とビール。明日からまた一週間頑張ろうねと、微笑みあって。ホットプレートを挟んで座りながら、それでも手を重ねあったりなんかして。

「虎」

「ん?」

「好きだよ」

この幸せがいつまでも続けばいいのに。「俺も好きだよ」と、言い返してくれる虎が永遠ならいいのに。


幸福な休日

(君が隣にいること)







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