虎が近い。
ぴたりとくっついた胸からお腹までが、お互いの呼吸で苦しいくらいに圧迫されている。
僕の両脇に差し込まれた虎の腕が肩を抱き、首筋に押し付けられた彼の唇がやわやわとそこを食む。ゆっくり、じわじわと追い込むように奥を突かれながら僕も虎の首に唇を押し付ける。
少し汗ばんだ手をその首に回して髪をすくと僕を食んでいた唇が離れた。
「とら、」
顔をあげた虎はそのまま額にキスを落とし、丁寧に愛撫するみたいに頬、鼻先と順番にキスをした。黒い瞳が欲に濡れて、僕だけを見ている。
「んっ…んぁ、あっ」
「蓮、ん」
「あっあ、ぁ…」
掠れるだけの唇の隙間から、自分のもどかしそうな声が漏れていく。キスしたい。見つめあった目から、それが伝わってしまいそうで、けれど伝わってほしくて、虎の頬を撫でる。
たっぷり時間をかけて挿入して、挿入してからももうかなりの時間が経った気がする。早くイきたいのと、まだダメなのと、いつもその両方を思って戸惑ってしまう。でも、今は、まだイきたくない。そういう気分だ。
「っ、とらっ…ん」
やっと唇がちゃんと重なって、頭の中が急速に酸欠になるようだった。虎の舌に触れたいのに、僕が舌を出そうとすると意地悪く離れていく。耐えきれずに後頭部を押さえるけれど楽しそうに口元を緩めるだけで、もどかしいキスしかされない。
絡んだ視線だけで気持ちよくなるのは、僕だけなのかもしれない。でも仕方がないのだ。虎の目には抗えない。その目が僕を見て、僕に欲情して、僕だけを映す。もうそれだけでセックスが成立している気さえする。
「、目、閉じて、」
「なんで」
「なんとなく」
「だめ」
甘い声。だめと言いながら、奥を緩く擦る動きを与える。僕がほしいところを避けて、何度も。
少しも視線を逸らさない虎に、でもこれは彼の性癖みたいなものだとも思う。恥ずかしさに顔を背けても、快楽に流されて目を開く余裕がなくても、無理矢理にでも目を開けさせて「見ろ」と言う。ずるい。虎がそれで気持ち良くなるならいい。でも、良くなるのは僕ばかりで、僕ばかりが虎の目に囚われて痴態を晒している。
「お願い」
「ねだり方なんて、誰に聞いたわけ」
「っ、んあ!、んん…おねがい」
「自分で隠せば」
「……」
はいどうぞと、顔を差し出した虎は、けれどしっかり僕を見ている。他の人と目を見て話すことはなんとも思わないのに、どうして虎の目には劣情を抱くんだろうか。
僕は涼しげな虎の目元に手を宛て、両目を塞いだ。
「顔、下げて」
「ん」
虎に見られていない。
触れた唇を割って舌を差し出すと温度の低い虎の舌が誘導されるように僕に触れた。静かな律動に軋むベッドと共鳴するみたいに、ちゅっちゅっとキスの音が響く。手の中で、虎の睫が瞬きのタイミングを教えてくる。
「ふっ…ぅ、ん、あ…とら、」
虎に見られていないと思うと、少し大胆にキスができる気がした。舌を動かして、吸って、絡めて、自分でも下品なキスをしている自覚はあった。気持ち良い。でも、足りない。足りないものが何かすぐに分かってしまい、泣きたくなったところで虎の片手が僕の顎を掴んだ。
ぐっとそこを上げられ、苦しさに視界が歪む。同時に、虎の目隠しが外れて情けない顔を晒してしまった。
「っ、まっ…」
「待たねぇって」
「あ、」
至近距離で射ぬかれ、きゅっと繋がった部分に力が入った。その締め付けに虎のものがぴくりと揺れて圧迫感が増す。
「蓮、舌」
「……ぅ、ん、」
見つめあったままキスをして、セックスみたいなキスをして、じりじりと射精感が込み上げてくる。
「とら、も…いき、そ…」
「ん、れん、」
「っ、あ……っ」
吐精する瞬間でさえ見つめあって、中で、虎のものがぴくぴくと射精する感覚を感じながら鼻先を擦りあった。意識が飛びそうなほどの快感は、虎が出ていく感覚だけでまた勃ってしまうほどだった。長時間繋がっていた場所が、ぽっかり穴が開いたみたいに寂しくなり、ひくひくと収縮する。
「とら」
「ん、」
「…ス、して」
「なに?」
「……キス」
「まだするのかよ」
「嫌ならいいよ」
「嫌じゃないよ」
コンドームを外してから、もう一度覆い被さってきた虎は、もう既に硬くなっているお互いのものを押し付け合うみたいに体を密着させた。そのまま体の向きを変えて僕を上にして「ん」と目を閉じた。
「……」
「しねぇの」
キスをするときは目を閉じてしまう。反射的に、無意識に、恥じらって。でも、それは目を開けたときに虎が見ていることを知っているから、たぶん、甘えているのだ。虎が同じように思ってくれたらと思うと、少し楽しくなってそっとキスをした。
虎も僕と同じようにと、最近たくさん考えるようになってしまった。図々しい、煩わしい人間になっていっている。虎には言えないことが出来てしまった。
でも、キスをするときに目を逸らさない虎が好きだということは、教えてあげてもいい。
「ね、目。あけて」
キスの日