「どれがいい?」

「?」

「コンドーム」

「、どれでも…」

「決めろ」

「……じゃあ、それ」

散らばったコンドームの中から、最初に目に入ったお菓子みたいなパッケージのものを指差す。虎は無言でそれとチューブに入ったローションを取り、僕のズボンを下げた。

「虎、待って、ベッド」

「だから、行かない」

「ひっ、ぅ…」

エプロン越しに僕のものを少し撫で、すぐにそこから手を離すと今度はさっきの続きみたいに執拗に胸を触る。じりじりと詰め寄るみたいに、もどかしい快感を与えてくるその顔は、もう可哀想には見えない。

「んっん…、とら、エプロン、とって」

「いい、着けたままで」

「でも」

「何でも言うこときくんじゃなかったっけ」

「っや、虎、それ…」

それは意味が違うんだと、言おうとする口を塞がれて僕の言葉は虎に飲み込まれた。覆い被さる重みと、おしつけられる下半身の熱に目の奥が熱くなる。興奮しているんだ。
お腹まで捲りあげたエプロンの下で、片手で器用にローションが垂らされる。ソファーが汚れないだろうかと思ったのが伝わったのか、虎は着ていた服を脱いで僕の腰の下に押し込んだ。それも汚れては困るだろうと反論したものの、聞き入れてもらえることはなく、ゆっくり指が侵入してきた。

「あっ、ぅ…んっん…あぁ」

「あのDVD見て、何でもしてやるとか言ったわけ?」

「っん、ちが…本当に、辛そうだったから…何か、してあげたかった、だけ」

「蓮さ、分かってねぇの?」

「、え?あっ…」

「俺が蓮にしか勃たないって。わざわざそんなの見なくても、蓮のこと考えれば済むことだろ。蓮、ちょっと、そう、起きて」

すごいことを言われた気がする。けれど頭が処理する前に抱き起こされ、箱から出されたゴムを渡される。つけて、ということかと察して見た目を裏切らない甘い匂いを放つそれを、硬くなった虎のものに宛がう。肩に引っ掛かっているだけのエプロンが邪魔だったけれど、それごと抱き寄せられて虎の唇が耳たぶを食んだ。今日はやたらと耳を触られる。耳へのキスって、どんな意味だったっけ。

「持って……ん、自分で入れて」

自分でエプロンの裾を持ち、腰を支えられて、充分に慣らされた場所で虎を受け入れる。時間をかけて挿入したところがぴりぴりと熱い。それでも容赦なく中をぐりぐりと抉られ、下唇を噛んでも声が逃げていく。虎は意地悪く結合部を見せようと、体勢を少しずらして僕の背中を背もたれに縫い付け、太ももを開いて持ち上げた。

「とらっ!」

「悪い、無理」

「っむ…あっ、やっ…だ、め…とら、あっあっ…待って、い、」

「はぁ、やばい、出そう」

静かなリビングに、ローションのぬちぬちという卑猥な音と腰を打ち付ける肌と肌のぶつかる音が響く。虎にキスされ続けた耳は、もうその音と感覚だけで達しそうになるほどだ。
僕はもう服をまくる余裕も、繋がった場所を見る余裕もなく、ただただ虎の背中に指を食い込ませるしか出来なくなってしまった。たぶん、虎の服は大袈裟なくらい濡れてしまっただろう。床に捨てられたDVDは役目を果たすことなく高牧さんに返却され、無駄に買い揃えられたセックスの道具だけが消費されるのだろう。

「とら、い、く…んっ、」

「ん、れん」

虎の熱い息が耳にかかり、背中が震える。それと同時に扱かれた自分のもが精液を溢した。荒い呼吸を数回繰り返し、ゆっくりと虎が僕の中から出ていく。その感覚に自分で虎をきゅっと締め付けるのが分かった。

「もう一回」

「ん、はぁ、あ…」

素早くコンドームを取り替え、やっと体に絡まっていたエプロンを取り去り、虎が再び中に収まった。捲れ上がった服を更に押し上げ、先程散々弄った胸に虎の舌が触れた。上手に形をなぞり、硬く突きだした先を押し潰して、胸と脇の間にキスマークを残していく。ほんの少しだけ柔らかいそこに、相当久しぶりに赤い痕がついた。
いつもより興奮している虎は、僕の二の腕に噛みついて歯形をつけた。それさえ気持ちよく感じてしまう自分の方がよっぽど興奮していて、虎の頭をかき抱いた。

「んっとら、ぁ…あっ」

二人で座るには充分にスペースのあるソファーも、セックスするには狭い。密着した体が僅かに汗ばんでいて、すぐそこにある虎の耳に意思気が向く。“甘い匂い”と、虎はさっき言っていたけれど…虎も良い匂いがする。ずっと昔から変わらない、好きな匂い。それが耳の後ろからも感じる。たまらなくなってそこにキスをすると、くすぐったそうに虎は顔をあげた。

「ん?」

「、ううん、なんでも…っな、い」

二度目の射精感が込み上げてくる。
達するまで、激しく突き上げる体とは裏腹に、優しすぎるキスをされた。今日はもう、一日分のキスをしてしまった気がする。これ以上したら唇が腫れてしまいそうだ。

「あっあぁ…ぅ、虎、も、だめ……いく」

「っ、はぁ…んん」

「っ、んあ!……はぁ、はぁ…くる、し…」

二人して、あられもない姿のまま抱き合って、コンドームとAVの散らばったリビングで息を切らして、やっと出た言葉は虎の「すげー興奮してる」だった。

「エロビデオなんか意味無いって分かった?」

「え…それ、今、関係ある?」

「あるだろ」

「……」

「蓮で興奮してんの。蓮にしか興奮しないわけ。わかんねぇなら分かるまで続けるけど」

耳へのキスは誘惑、という意味があるらしい。起きてからずっと誘惑されていたのは僕の方で、そういう気分にさせたのは紛れもなく彼だ。
すっかり二日酔いの気なんて消えていて、風邪とは違う、弱ったところをもう見れないのがちょっとだけ残念に思えた。

高牧さんのイタズラは、僕を怒らせて虎と喧嘩させることが目的だったのだと、僕が聞いたのは翌日の夜だった。期待に添えなくてごめんなさいと、虎に言付けすると「俺がショックだから」と言って、歯形のついた僕の二の腕を撫でた。









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