照明を落とした蓮の寝室で、男が二人で寝るには少し小さいベッドで、甘くて柔い声が響く。

「い、ぁ…とら」

「、ん?」

「んっ…んあぁっ」

「れん」

「はぁ、ふ…」

蓮の鼻から抜ける声が、ゆるやかに寝息に近いものに変わっていることには気づいていた。触れ合う前から眠そうにしていたし、触れ始めてからも何度か寝るかと問うた。それでも首を振り、猫みたいに体を摺り寄せて「する」と少し強情に俺の首筋に鼻を押し付けてきたのは蓮だ。抜きあうだけにしようとベッドに横になって一緒に扱いたものの、イききれない蓮に強請られて挿入まで致してしまった。けれど“気持ちいい”と“眠い”の感覚はかなり近いもので、蓮の目は今にも瞬きをやめて伏せられたままになりそうだ。

「蓮、」

「ぁ、とら…ん、」

このまま寝てしまっても構わないけれど、どちらにしても一度出してしまえば次の瞬間には眠りに落ちるだろう。ならば急速に動きを速めて早く楽にしてやりたいという考えもあったけれど、なんとなくそういう処理的なセックスはしたくないと思ってしまうのだからダメだ。

「いく?」

「ん、んん、…き、そう」

「分かった」

じんわりと汗ばんだ額にかかる髪を退けてそこに唇を押し付けながら腰の動きを少しだけ早める。

「っ、あ、ぁ…ん、ま…まっ、て…」

「、れん?」

「や…だ、」

「いや?」

もう達しそうで、眠気も限界で、意識も曖昧なくせに。

まだ終わりたくないと目を潤ませる。背中にまわされていた蓮の指が肩甲骨に食い込んだ。ここまでしてセックスがしたい理由を分かっているだけに、もう寝ろとは言えない。俺が社員旅行で一週間海外に行き、帰ってくるのと入れ違いで蓮が二泊三日の研修に出ていった。一度荷物を置いて、今度は部活の合宿でまた一泊家を空け、さすがに疲れて深い眠りについた蓮を横目に今度は俺が溜まった仕事のせいで3日間会社に拘束された。
まともに顔を合わせたのも二週間以上ぶりで、今日は昼間から何度も抱き合った。明日も仕事だから今日はもう休もうとベッドに入ったものの、結局我慢できず今に至る。

「はぁ、あ…あ、だ…」

「れん、そのまま、掴まってろ、よ」

「っ、とらっ、 」

「ん─」

「う…」

今にも寝落ちしそうな蓮を抱き上げ、そのまま座った自分の上に跨らせる。視界の端で、テーブルライトに照らされた時計が12時を回ったのがちらついた。寝ているときもあれば、テレビを見ていることも仕事をしているときもある時間。まだ夜更かしというほどではないけれど、なんとか俺にしがみつくのが精一杯の今の蓮には辛い時間かもしれない。

「とら、」

「なに」

「……お疲れ、さま」

「蓮の方が疲れてるだろ」

「ううん、疲れては、ない…んだけど」

ゆっくり、とても緩やかに突き上げられながら、蓮は声を切れ切れにして「虎が、いないと…あんまり、寝られなくて」と続けた。同じ家に住んでいても毎日一緒に寝ているわけではない。寝室は二つ、ベッドも二つ。正直俺は寝室なんて一つで良いしそれこそベッドもダブルベッド一つで充分だと思っていた。けれど、蓮が当然のように寝室は二つと考えていた。大学時代からの延長、だからかもしれない。そのくせ俺の存在がないというだけで落ち着いて眠れないと言うのだからずるい。

「寝る?」

「……ううん、」

「これは?このまま?」

「うん…」

「出さねえの?」

「……イき、たい、けど…もう少し」

「なに?」

もう少しこのままが良いと言うから、抱っこしたままうとうと頭を揺らす蓮に従った。一瞬意識を飛ばし、すぐに睫毛を揺らしたり、自分から動いてみたり、しばらくされるがままにしていたけれど、これでは俺が耐えられない。

「もういい?」

「ん、」

俺が止めなければ寝落ちするまでこうしていそうだ。それでも構わないと言えば嘘になるけれど、蓮がそうしたいなら俺もそうしたい。ただ、明日も仕事で、ましてやここまで眠そうにしているのだから疲れもたまっているに違いない。それを差し置いて無理をさせるわけにはいかない。
しっかり抱きついた蓮の腰と尻を掴み、一度打ち付けると声にならない声が熱っぽい寝室に溢され、もうほとんど出るものがなかったらしい蓮のものからは、サラサラの精液が吐き出された。

「はぁ、あ……ん、」

「蓮、手」

「とら、寝よう」

射精の脱力感でそのまま眠りにつくと思っていた蓮は、意外としっかりした口調で俺の首に腕を回したまた倒れ込んだ。片手でティッシュを数枚引っ張り、蓮の腹部を拭き、自分の付けていたコンドームを縛ってそのティッシュに包み込んで捨てる。蓮はそれを器用だと言って笑うことがあるけれど、今はそれを口にする力も残っていないらしい。
力なく腰を浮かせた蓮に下着をはかせ、しっかり布団を被って肌と肌を重ねると一気に眠気に襲われた。

「あした、おべんと…」

「俺が作る日」

「そう、だっけ?」

「うん」

「……」

「おやすみ」

「おやすみ、」

鼻先が触れるほど近く。暗闇に包まれたそこで、それでも蓮の輪郭が分かるのは、たぶん自分の頭が勝手に補正をしているからだ。本当はぼんやりとしか見えていないのに、目を閉じても蓮の目の形、眉の形、唇のしわ、小鼻の膨らみ方、ほくろの位置、全てを鮮明に記憶しているから、だから、分かるのだろう。

おやすみ、ともう一度小さく呟くと蓮からもおやすみともう一度声が返ってきて、すぐそこにあった唇に自分の唇をやんわりと押し付けて目を閉じた。目が覚めたときには体勢が崩れているだろう、一番最初に見えるのは顔じゃないかもしれない、そんなことは分かっていたけれど、それでも、明けた夜が見せたのは、ちゃんと、蓮の寝顔だった。息をのむほど近く、蓮が安らかに眠る顔だった。

睡蓮
(寝息と吐息)








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