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あれは、運命の出会いだったのだと思う。


「みそラーメン野菜大盛りに炒飯と餃子二人前と唐揚げと」

「どんだけ食うんだよ」

「おじさんが好きなだけって食えって」

「お兄さんな」

お腹が空いて道端で寝てたら知らないおじさんがご飯を食べさせてくれた。高そうなスーツを着てるのに安いラーメン屋に連れていかれて、おじさんはタバコに火をつけてけだるげに煙を吐き出した。狭くて油の臭いが染み付いた店内で、むしろその煙は新鮮な空気のようだった。俺は細く上がってすぐに見えなくなったそれを追い、天井を仰いだ。よく分からない変な柄の天井が、とても印象的だった。

「君いくつ?お腹すいてたって親は?」

「ははひ」

「あ?」

「おやあいあい」

「食うか喋るかどっちかにしろ」

「ん、だから、はたち。親はいないの」

「二十歳!?嘘だろ、てっきり15、16かと…はぁ〜まじかよ、失敗」

「そんな変わんないじゃん。あ、店員さん、餃子追加で。失敗ってなに?」

「なんで俺が二十歳にもなった野郎に飯食わせなきゃなんねぇんだよ。てっきり親に食わせてもらってねぇ家出学生だと思ったんだよ」

「見た目で判断した方が悪いでしょ。あ、餃子食べなよ、めっちゃうまいよ」

「払うの俺だけどな。つーか二十歳だろ、お前なにやってんの」

「んー、フリーター?」

「フリーター?」

「うん、パソコン教室で先生するバイト」

「は、あー」

「知ったかぶりじゃん。おじさんは?何やってんの。あ、もしかしてあれ?児童養護施設の人?」

「まあ、そんなようなもんだよ」

「人相悪すぎ。それじゃ子供も泣くでしょ」

「余計なお世話。つーか、おじさんじゃなくてお兄さんな」

「じゃあ俺も。お前じゃなくて、ノア」

運ばれてきた料理を全て平らげ、デザートに杏仁豆腐を二つ。ぺろりと腹に収める頃、おじさんは俺があげた餃子を二つ、同時に口に押し込んだ。灰皿で、灰になれなかったタバコが転がった。

「ノア?どう書くの」

「カタカナ。俺ハーフなんだよね」

「ハーフ?」

「日本語しかしゃべれない残念なハーフ」

ちなみに、二十歳、は嘘。三つサバを読んだ。親が居ないのも嘘。正確には居るけど刑務所。ハーフも嘘。生まれがアメリカなだけで両親ともに日本人。英語はそこそこ。フリーターは本当だけど、パソコン教室の先生は嘘。

「あー食った食ったー!お兄さんご馳走さま!」

「うーわ、ラーメン屋で見たことねぇ値段だわ」

おじさんはそう言いながら会計を済ませ「もう道で倒れんなよ」と言い残して去っていった。高そうに見えたスーツの後ろは少しヨレていて、三十くらいかな、独身ぽいな、なんて勝手なことを考えた。俺って学生に見えるほど童顔かよ、なんて勝手に緩んだ口を引き締めるようにポケットで仕事用スマホが鳴った。

「……はい」

「ノア?」

「ん」

「お疲れ。上手くいった。金は振り込んどく」

「はーい」

「次の仕事送っといたから。明日の朝八時までにデータ盗んでこっちに送って」

「りょーかい」

本当は成人してから三年経った立派な大人、両親ともに薬で逮捕。俺の仕事はたぶん、犯罪者。お金をもらって大きな企業や政治家、それから警察の情報を盗んだり、たまに大金をつまれて人を殺すこともある。おじさんについた嘘は四つ。

パーカーのポケットに両手を突っ込んで、おじさんが消えた方とは反対側へ足を向かわせた。

俺は闇に両足突っ込んだ立派な犯罪者で、おじさんはエリート刑事。それを知るのはずっと先の話で、そのラーメン屋の前でおじさんと再会するのは三日後の話。季節は五月だった。






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