ひざにキス*


四十万打企画
リクエスト:虎蓮、高校生、ラブラブエッチ

***

高い天井に広いバスタブ。青いライトでお湯は綺麗なブルーに染まっていて、石鹸の爽やかな匂いが漂う。湯気で白く霞むそんなバスルームで、湿気で濡れた髪を後ろに撫で付けた虎がゆっくりまばたきをして僕を見た。
初めて訪れたラブホテルは、高校生でしかも男同士の僕らにとってドキドキするものだった。緊張と、危機感と、それから広いお風呂や大きなベッド、暗い落ち着いた照明への好奇心。そんな色んな葛藤を抱えながら、それでも目の前の虎に意識は奪われてしまう。

「なに」

「、ううん、広いなって」

男二人、余裕で浸かれるバスタブで向かいあって、僕は膝を抱えた。冷えていた体は爪先から暖まり始めていて、虎の唇の血色も良くなっている。高校三年生のクリスマス、受験を控えた僕らにとって一番大事な時期だ。そんな時期だけど、少し息抜きにお昼を食べに行こうと外に出た。
町はどこもクリスマスソングと甘い匂いで溢れていて、お店も人で一杯で、雪も降り始めてしまい、せっかくだけど帰ろうかと駅に戻ろうとしたところでホテルに目がいった。勉強から切り離された場所で虎と二人、一時間でも静かに過ごせたら良いなと思ったのは確かに僕で。クリスマスの色が白く染まっていくなかで、手を引いたのも僕だ。そのくせ、今二人でお風呂に浸かるだけでドキドキしている。
考えてみればこんな日に部屋が空いているのも奇跡で、そう思ったら虎に触れない方がいけない気がして濡れた手を伸ばす。

「来る?こっち」

「……ん」

ちゃぷんと揺れたお湯が頬を濡らす。虎の手に腰を引き寄せられ、僕は体の向きを変えて背中を固い胸に預けた。とくとくと、少し早い鼓動を感じながら、お腹で組まれた虎の指を撫でる。裸は何度も見ていてセックスもしている。けれど一緒にお風呂に入るのは恥ずかしくて、目のやり場に困る。こうやって背中を預ければ良いのかと今さらになって思ったけれど、耳の裏にキスされた感覚に思考が途切れる。

「ふふ、くすぐったいよ」

耳の形をたどり、首筋へ滑ったその唇が肩に軽く歯をあててやんわりと噛み付いた。そのまま舌が触れて、吸い付いて、ちゅっと疚しい音が浴室に響いた。肩を上げた僕に、虎は少し笑いを漏らしてお湯の中で手を滑らせた。下腹部を撫でられ、内腿を揉まれ、爪先に力が入る。反応してしまっている下半身がバレないよう、少し前に体を傾けて名前を呼ぶと「ん?」と、心地良い声が無駄にいやらしく響く。

「……のぼせそう」

僕の精一杯の誘いに、虎はキスで返事をして口元を緩めた。バスタブから出てガウンを羽織り、自分の似合わなさに笑って深い青色のライトで統一された部屋に戻る。白い間接照明とのコントラストが綺麗で、海の中にいるようだ。天井には小さなキラキラがいくつもあって、ベッドに横になると本当に非現実的で不思議な感覚に囚われた。

天井まで綺麗だと呟いた僕のガウンが脱がせながら、虎は優しくキスをした。暖房が効いた部屋は快適で、体はすでに乾いている。簡単に肌から落ちたそれは、もうお役ごめんでベッドの下へ捨てられ、虎の手はヘッドボードからローションを探りだした。
この雰囲気だけで、充分前戯になっている気がする。甘い匂いのするローションがとろりと足の間を滑り、虎の大きな手が這う。

「ん、」

「蓮、足」

「あ…」

体を起こした虎は膝を掴んで足を開かせた。恥ずかしい。そんな僕をよそに、虎は膝頭にわざとらしく音をたててキスをした。マイクでもつけているみたいに音が響いて、頭の中が音に犯されていくみたいだ。その音に紛れ、ローションで濡れた後ろに指が触れる。ぬちぬちと卑猥な音をたてながら、丁寧にそこを柔らかくしていく虎の指だ。

「あっ、あ…ん、とら…」

「うん」

「ふっぅ…」

ローションが温かいのか、肌の温度が高いだけなのか、いつもより触れられている場所が熱くてたまらない。長い指が触れてほしいところをやわやわと擦りながら本数を増やす。
たくさん時間をかけて、どろどろに溶かされて、身体中に落とされたキスは数えきれない。鼻から抜けていく熱を帯びた自分の声と息に、ゆっくり指が引き抜かれる。虎は緩やかな動作でコンドームをつけ、もう一度ローションを垂らした。

「大丈夫か?」

「ん、うん…」

「すげー熱い」

「っあ、んん、ん…はぁ、」

「蓮、」

キスをねだればしてくれる、手を伸ばせば握ってくれる、抱き締めれば抱き締め返してくれる。少し前まで叶わなかった、“気持ち”の部分の繋がりだけで、感じ方までも変わった気がする。虎が中に入り、腰を揺らして、気持ち良くて頭がおかしくなりそうで、抱き締めて何度も名前を呼ぶ。
それに答えるみたいに繰り返されるキス。首に腕を回して、しがみつくみたいにすがるとそのまま抱き起こされて虎の上に座らせられた。

「とら」

「暗くてよく見えねぇな」

「ん、ん…」

昼間にしては確かに暗い。
部屋が暗いだけで、外はそんなことないのだろう。僕をだっこしたままゆるゆると足を揺らし、僕の腰をしっかり抱いた虎は暗いと言いながら「気持ちい?」と、しっかり僕の目を見て問うた。

「きも、ち…いいよ」

「そう」

肌と肌が吸い付く感触が気持ちいい。キスをしながら気持ちいいともう一度呟いて、でもこの緩やかな律動ではお互いに達するまではいかないだろうなと思う。それでももっと繋がっていたくて、虎に股がって突かれる体を虎にくっつける。本当に、こんなに気持ち良くて大丈夫なのかと不安に思うほどの快感だ。
ここを出てしまえば雪の降るクリスマスで、受験を控えた僕らは真っ直ぐ帰って机に向かう。残りわずかな高校生活を、指定の制服を身に纏って大切にするのだ。それを考えたくないわけじゃないのに、今、この瞬間、それを考えるのはとても勿体ない気がして、結局目の前の快楽に負けてしまった。

「とら、ぅ…あっ、んん、きも、ち?」

「はぁ、すげー気持ち良い」

「、ん、」

「はは、締まった」

初めてのラブホテル、滞在時間は二時間。防犯カメラには映ってしまっているだろうけれど、呼び止められることはなかった。帰り道、買ったお弁当を片手に僕はまだドキドキしていた。最後にもう一度シャワーを浴びて、部屋を出る直前にキスをして、雪が舞う道を肩を並べて歩いた。

ひざにキス
( 君 に だ け)







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