わがまま
四十万打企画
リクエスト:虎蓮、大学生、虎の我が儘
***
「あ、迎え?」
虎が飲み会に参加することは、まあ、珍しくはない。それこそ友達とご飯を食べに行く、じゃあ飲もう、くらいの話は大学生なりにある。けれど、“迎えに来て”という連絡が来たのは初めてだった。
メッセージがきて、具合が悪いのかと心配になって電話をしてみれば、いつもの声で「終電乗りそこねた」と返された。場所はそう遠くはないものの、虎の車を運転するのは少し不安だ。
「すぐ行くから、ちょっと待ってて」
「ん」と、短い返事のあと電話は切れ、僕は慌てて車のキーを握って部屋を出た。時間は既に一時をまわっている。
慎重に車を走らせ、待っているという駅前のコンビニに滑り込んだ。財布を掴んで店内に入ると、気だるげな店員のいらっしゃいませが向けられる。その声に反応してこちらを向いた虎は、雑誌をラックに戻して目を細めた。
あ、これは、相当飲んだな、と駆け寄るとアルコールのにおいが鼻の奥に突き刺さった。
「大丈夫?」
「ん…」
やんわりと腕に触れると、虎の後ろから友達らしき人が顔を覗かせた。
「虎の迎え?」
「あ、はい」
「良かった〜。虎、この時間なのに迎え呼ぶとか言い出して。他のやつらはカラオケ移動したんだけど、待ってるって聞かなくて」
その人も、虎がこんな風に酔うの初めて見たから心配だったと良いながら困ったように笑った。当の本人は黙って僕の手をとり、指を遊ばせながら絡ませてきた。
「すみません、迷惑かけて…連れて帰ります」
「いえいえ、お願いします。虎、あんま迷惑かけんなよ」
それじゃあ、とその人は店を出てすぐ近くのカラオケ店へ消えた。
「虎、帰ろう。歩ける?」
「歩ける」
しっかりとした足取りで、虎は車に乗り込みシートベルトを絞めた。アパートに着くまで特に話しはしなかったけれど、どうしても帰りたかったことと、迷惑かけてごめんということは申し訳なさそうに言われた。
「何もなくて良かったよ。安心した。はい、入って」
「……」
「虎?どうしたの、やっぱり具合悪い?」
ガチャンと音をたててドアがしまる。
虎は僕が靴を脱いだのを確認してゆっくり手を引いた。
「虎?」
「風呂」
「えっ、大丈夫?明日にした方が」
「そんなに、飲んでねぇから」
「でも」
「お願い」
すっごく飲んでる。
意識ははっきりしているのか、虎は自分でお風呂の用意をして半ば強引に僕をお風呂に導いた。もちろんとっくにお風呂は済ませているし、寝る格好のまま飛び出してしまったから着替える必要もない。そんな僕の服を剥ぎ、虎は濡れた目でキスをねだった。
「ほんとに、どうしたの」
「どうもしてないって」
唇を合わせながら、シャワーの蛇口を捻る。
少しぬるいそれは足元を流れていくうちに熱くなり、浴室は一気に白く霞んだ。
「ただ」
「ただ?」
「したくなっただけ」
「っへ、」
「カラオケでオールしても、別に、良かったけど…やっぱり、蓮に会いたくなった」
さらりと、何でもないように言われ、顔が熱くなった。蓮とセックスしたくなったと、恥じらいもなく言い放った虎に腰を抱かれ、下半身が密着する。しっかり固くなっているのが見なくても分かり、僕も虎の首に腕を回した。
終電の時間がすぎても帰ってこないのだから、今夜はこのまま帰ってこないのだろうと、正直思っていた。そんな予想に反して帰って来たこの体温を愛しく思うのは仕方がなくて、何時でも迎えにいくのにと言いそうになる。
「結構飲んだでしょ」
「…飲んでねぇって」
「こんな風に酔っぱらってくれるなら、むしろ嬉しいけど」
「は?」
「虎に我が儘言われるの、良いなって」
我が儘というほどではない。
「夜中に迎えに来てって言われるのも、もうお風呂入ったのにこうやってシャワー浴びるのも。一緒に住んでるのに僕に会いたいって言ってくれるのも。嬉しいよ」
虎の我が儘ならなんでも聞くのに。駄々をこねられても、拗ねられても、僕はきっと全部愛しくてたまらない。
「…頭、洗って」
「ふふ、うん、座って」
「適当でいい」
ささっと洗って、あがったら軽く体を拭いて、そのまま縺れるように虎のベッドに倒れ込んで。明るくなるまで虎のおねだりに答えて。キスをしながら、眠りについた。
可愛い我が儘
(今夜限りなんて言わないで)