疲れた日には

百万打企画
リクエスト : TigerxLotus 甘々 激甘

***

生徒が夏休みに入り、平日は朝ゆっくりめに出勤して定時に帰る。虎より二、三時間は早く自宅に着くからと夕食を作って彼の帰りを待つのがここ数週間の日課。
夏バテ気味の虎はそれでも完食して「美味い」と言ってたくさん食べてくれるから、正直料理は楽しくて仕方がない。土日もどこかで練習試合があれば引率に、なければ午前の部活が終わりそのまま正午過ぎには帰ることが出来る日々。

『ガチャン』


「ただいま」

「あれ、おかえりなさい」

Tiger x Lotus

( 疲れた日には )

そんな八月の日曜日、休日出勤をすると朝出ていった虎がお昼を過ぎてすぐに帰って来た。

「早かったね」

「ん…」

「お昼は食べた?何か作ろうか」

「食ってきた」


「そっか、お疲れ様」

スーツを脱ぎながら玄関から自室へ入り、部屋着に着替えてリビングに戻ってき虎はベランダから洗濯物を取り込んで窓を閉めた僕の手を引き「ありがと」と返してくれた。

「疲れてるね」

「少し」

「部活の帰りにシュークリーム買ってきたから、あとでコーヒー入れて食べよう」

「ん」

「これ畳むからちょっと待っ─」

Tシャツから覗く虎の首筋が近付き、そのまま抱き寄せられて手からカゴが落ちた。少し高い体温に外は暑いし仕事で疲れているんだなと思い、その背中に手を回してやんわりと擦った。

「ちょっと待ってて」

「蓮、」

「うん?、わ、」

部屋にはエアコンが小さく唸る音だけが響いていて、自分達がフローリングの上に倒れ込んだ騒がしい音はすぐに消えた。尻餅をついた僕に覆い被さるように虎が倒れ、そのまま唇を重ねるために顔が寄せられた。
く、と喉がなり次の瞬間には、はむりと唇が触れる。僅かに感じた汗の匂いに頭の奥がじんわり痺れ、至近距離で絡まった視線が一気に温度を上げた。

「、ん…ぁ、」

いつもより熱い虎の手が僕の頬を捕らえ、もう片方の手が服の上からゆっくり胸を撫でる。形を確かめるように、とてもゆっくり。その指先が服の裾を捲り、直に触れるのを一瞬躊躇ってから服の中に入り込んできた。
差し込む日差しが暑いからと、閉めていることが多いカーテンは今、僕がベランダに出ていたことでしっかり閉めきれていない。そこから入ってくる光が、働き始める少し前に短くしてからずっと短いままの虎の黒い髪を照らしている。学生時代、カットモデルや練習台だといろんな髪型をタダ同然でしていた頃が懐かしい。あの頃の虎はそれはもうモテていただろう。何処をどう切り取っても格好良くて、でも、僕はこの元々の黒い髪が好きだ。少し長くて邪魔そうなのも、今みたいにさっぱりしているのも。
深い黒の瞳に一番似合うと思うのだ。

「なに」

「ふふ、ううん、懐かしくて」

「はあ?」

「なんでもないよ」

眉間にシワを寄せたり、すぐにため息をついたり、テンションが上がっても声のトーンが低いままなのも、僕にとってはとても愛しい。僕の肌を撫でながら、なんとなくどうしようか迷っているような彼の手に自分の手を重ねて「秘密」と呟くと、虎は怪訝そうに目を細めた。

「眠い?」

「……あんまり。早く帰りたくて急ぎで済ませてきたから疲れただけ」

「そっか」

「蓮が帰ってたら」

「うん?」

「したかったから」

「え?」

「セックス」

「せ、あ…」

「いい?」

「ま、って…ん、とら」

セックスをする前の甘い空気が、瞬間に広がった。キスした唇の隙間で舌を擦りながら、虎は僕の服を完全に繰り上げて部屋用の緩いパンツを腰から下ろした。床に広がるカラリと乾いた洗濯物を横目に、けれど顎をしっかり固定されて意識はすぐにそこから逸れてしまった。
暑くて食欲が無くても僕が作ったものを食べてくれて、体力だって奪われているはずなのにこうして欲情してくれる。きっと他の誰もこんな虎を知らない。夏はクーラーを効かせて部屋から出ないでアイスばかり食べる、そんなイメージではないだろうか。強ち間違ってはいないけれど、なんというか、一緒に住むようになってからの虎は、結構僕に歩み寄って生活してくれている気がする。

「ぁ、ん…」

「れん」

「ん、」

温度も感触も覚えてしまった虎の唇を食んで、言葉を飲み込むように舌を絡め「とら」と僅かな隙間で何度も溢した。その度に虎の目が睫毛を揺らして僕を見る。深く、真っ直ぐに。

「は、ぁ…」

もう少し待ってと言いながら、自分だって完全にその気になってしまい離れた虎の顔を追うように体を起こした。やんわりと頬から後頭部を撫でられ、そのまま頭を引かれて再び唇が触れる。僅かに湿ったキスの最中の感触が胸をざわつかせ、縋るように虎の肩に腕をまわした。

ちゅ、ちゅ、と短いリップ音が小さく響くリビングで虎に誘導されるままその足を跨ぐ。カーテンの隙間からベランダの塀が見え、雲一つない夏の真っ青な空がその上に広がっている。ぽつりと浮かぶ太陽だけはこっちを見ているようで、なんとなく恥ずかしくて夏用に、と取り替えた薄い青地のカーテンに手を伸ばした。

「なに、」

「カーテン」

「あ?ああ…」

「っわ、え、」

「いい、そのままで」

「でも」

「ベッド行く」

僕の手がそこに触れることはなく、あっさり子供みたいに抱き上げられてしまった。そのまま運ばれた虎の寝室はリビングよりずっと暑く、だっこされた状態で戯れようなキスをするだけで汗が滲んだ。
よく晴れた日曜日の昼間、今からセックスをするのは誰に対してか分からないけれど後ろめたくて、けれど、虎に触れられて「したい」と言われればそんな罪悪感のようなものも簡単に消えてしまう。

キスをやめられないで、ベッドに下ろされる途中もずっと唇をくっつけて。リビングよりずっと暗い虎の寝室で、僕はキスをねだって幾度も虎の名前を呼んだ。世界から切り取られた場所で、肌を重ねて名前を繰り返して、指先を絡めて吐息のような笑いを頬で感じるほど、今僕は虎を独り占めしているのだ、と胸が一杯になる。とてつもなく、どうしようもなく、虎の事が好きで、愛しくて堪らない気持ちになる。

「虎、」

「ん」

「顔色よくなったね」

「そう?」

「うん」

「興奮してるから」

「、ん…」

ぐ、と足を開かれ虎の体がその間に入り込むと、反応して硬くなったものが足の付け根に当たった。半分脱げていたTシャツもズボンも取り払われ、僕らは世間が夏休みを演じる中二人きりで部屋に籠ってセックスをした。

甘いシュークリームに香りの良いコーヒーを添えて、目の前にそれよりも甘くて幸せな匂いのする恋人を眺めて、疲れた日の午後を過ごした。







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