深夜、それぞれの寝室に入って寝入った後。
虎が僕の部屋に来て、狭いベッドに忍び込んだ。
「とら?」
「ん、」
「こっちで寝る?」
「ああ…」
「ん、どうぞ」
「ありがと」
梅雨に入ってから温度も湿度も高くなり、夜も急に寝苦しく感じるようになった。けれどクーラーをつけるほどではないだろうと、僕は自分の部屋に入って一人で眠りについた。そんな僕の布団に潜り込んできた虎の腕はひんやりしていて、おそらくクーラーを付けっぱなしで寝て冷えたのだろうなと察する。
僕には気持ちいいくらいだったけれど、このまま寝たら寝たで暑くなりそうだ。それでもぴたりと体を寄せられ、肌がこすれる感触は気持ちよくてそのままもう一度目を閉じた。
そのあと目が覚めたのはいつもより随分早い時間だった。案の定、暑くて目が覚めた。「暑い…」と、首元にかいた汗を手の甲で拭うと、その僅かな振動で虎も目を覚ましてしまった。
「あ、ごめん」
「んー…」
「まだ寝てていいよ、早いから」
「…蓮は」
「シャワー浴びてくる」
「……」
「すごい汗かいてて」
虎も暑そうだけどそれよりもまだ眠いのだろう。僕の返事に曖昧に頷いてから「んん」と唸るだけの返事をした。乱れた髪の隙間から覗く額を軽く撫でてから体を起こすと、そのまま手を掴まれてベッドに転がされてしまった。
「虎?」
「れん」
「、ま、とら」
「ん」
「っ…ん」
汗で湿った首元を虎の鼻が撫で上げ、耳に唇が押し付けられる。起き抜けの熱い吐息と、気だるげな掠れた声。それを触れられる距離で感じると、どうしようもなく頭の奥が痺れてシャワーを浴びるよりこのまま触れていたいなと思ってしまった。
ちゅ、っとわざと音をたてているのか、静かでまだ明るくなりきっていない朝だから余計に大きく聞こえるのか、どっちだろう。自分の感覚も曖昧で、耳株から耳たぶへ、やわやわと唇で食んだ後その後ろに執拗にキスが落とされる感触を追うので精一杯だった。くすぐったいを通り過ぎ、体は期待を孕んでいる。
上に覆いかぶさってきた虎の肩に腕をまわすと、再び首筋に唇が吸い付いた。
「虎、」
「ん」
「待って、くび…」
「んん」
「汗、かいてるから」
「濡れてるな」
「ひ、ぅ…とら、ダメ、やめて」
そういう気分になっている体に力は入らず、虎の顔を両手で挟んで「待って」と溢す。虎の耳の後ろから襟足までもしっとりと濡れているのが分かった。
「シャワー浴びてくるから」
「……」
「虎も浴びない?寝る?」
いつもはキリっとしている目元がまだ眠さを感じてとろんとしているのがたまらなく可愛い。その目に見下ろされながら親指で虎の頬を擦ると、鼻先が触れるほど近くで「浴びる」と答えが聞こえた。それに僕が何か言うより先に抱き上げられ、そのままバスルームへ連れて行かれた。
洗面台の前でおろされ、顔を洗って口をゆすぐとすぐに後ろから顎を掴まれ、傾いた虎の顔が近づき唇が重ねられた。苦しさに情けない声を漏らすとさっきまで眠そうにしていた目に欲が滲むのが見えた。すっと、一瞬で。表情と目付きがが変わり男の顔になる。それにもまたドキリとして、僕は慌てて視線を逸らしたけれど、目の前の鏡越し、虎が僕を見て、今度は体ごと向きを変えられてキスを落とされた。
「ん、ぁ、ふ…」
「はぁ…れん、」
「、あっ」
唇を押し付け合いながら服を脱いで浴室に入ると露わになった体を虎の手に撫でられ、すでに反応していたものを握りこまれた。他に見たことがないような色気を滲ませ、視線だけで獲物を捕食するような目に射止められる。僕はされるがまま虎の首に腕を回して扱かれる快楽に目を伏せた。
寝起きの熱とは違う熱を含んだ息が耳たぶを掠め、シャワーを体に当てながらお互いのものを擦り合わせると、すぐに絶頂が近づき虎の肩を押した。
「はぁ、待って、もう」
「出す?」
「ん、でも、虎は」
「俺も」
「っ、あ、んん…」
「ナカ、していい?」
「えっ、ぁ、」
キュッとシャワーが音を立てて止まる。
湯気のたった浴室で舌を絡めるキスをして、そのままもつれるように脱衣所で体を拭いた。髪からはまだぽたりぽたりと水滴が落ちていたけれど、興奮しきった頭では冷静に判断できず、クーラーがつけっぱなしにされていた虎の寝室へ促されるまま雪崩れ込んだ。
寒いくらいの部屋では、けれど熱を帯びた体には気持ちがよかった。ひんやりと肌に触れたシーツの感触も、僕を押し倒して素早くローションとコンドームを用意した虎に足を開かれるのも、朝だという感覚を僕から奪って。おかけで、これから仕事だとか、今日がまだ火曜日だとか、全部意識から抜け落ち、セックスに夢中になってしまった。
「あっ、あ…と、ら」
「ん」
「は、ぁ…ん、ん」
じんわりと、熱を奥へ押し広げられながらキスをねだり、せっかくシャワーを浴びたのにまた汗をかいて、肌も唇もふやけそうだった。気持ちよくて、虎が達した後、お腹にそのまま欲しいなんてはしたないこと思うほど。
「ぅ、あ…い、く…とら、あっ」
「、ああ、」
「ひぅ、ん…んんぁ、あっ、はぁ」
「はー…」
「ん、く…とら、」
「あーやばい…」
「…どうしたの」
「全然おさまんねぇ」
「へ、あ…」
ずるりと僕の中から出でいった虎は精液の溜まったコンドームを外し、そのまま僕の足を合わせて左に倒し、腿の隙間に熱の消えないものを押し込んだ。
「や、あっ、とらっ」
怖くなるほど虎が興奮することはたまにあって、けれど、こんな…カーテンに朝日が当たり始めるこんな時間に…
このままずっとセックスしていたくなってしまう、そんな恥ずかしいことが一瞬頭を掠めたものの、素股されながら前を擦られ、肩を揺らして呼吸する虎を見上げてしまうともうダメだった。
「ふ、っぅ、ん…あ、い、く…と、や、い…」
「っ、はぁ、」
「あ、ぅ…ん」
足が解放されるとお腹に、虎の吐き出したものが落とされた。
中に欲しいなんて言えるわけもなく、それでも精液を出し切ったあと数回擦りつけられる感触はたまらなく気持ちよかった。
「わるい、」
「ん、?」
「シャワーせっかく浴びたのに」
「…うん……まだ時間あるし、もう一回浴びてくる…」
「……もう六時だぞ」
「えっ」
「朝飯と洗濯やるからシャワー浴びてこい」
「や、でも、」
「俺の方が出るの遅いし」
「ごめん…」
「なんでだよ」
「や、だって…」
夢中になりすぎた…朝から。我にかえるととんでもなく恥ずかしくなり、虎にお腹と足を拭かれながら顔を覆った。
「朝から最高にいい気分だけど、俺は」
「そ、そういうこと言わないで…恥ずかしい」
「蓮」
「あ、やめ、」
「おはよ」
清々しい顔で、外ではまず見せない心臓を抉るような優しい鋭利な微笑みを浮かべた虎に、その日一日失敗だらけだったことは絶対に言わないことにした。
火曜日の早朝