短い廊下の壁に押し付けられ、「待ってって、言ってあるから」と、虎は低い声で僕に囁いて下着に手を入れた。どんなに声を潜めても、自分の耳には聞こえてしまう息づかいや吐息、衣擦れの音、それが薄いドアの向こうまで漏れているのでは、と不安になる。

「、とら、だめ、ほんとに…」

「出せって」

「で、でも…ぁ、や、待って、と─」

「ほら、声」

「ん…ぁ…」

虎の肩に口を押し付けて、しっかりその背中を抱き締めて、指を食い込ませて、導かれるまま精液を吐き出す。その後の倦怠感と、クリアになる思考の中で何度かキスをして、呼吸を整えようと体を離すと、汚れたそこを虎が口で綺麗にしてしまった。

「ん、ズボン」

「……ごめん、ありがとう…」

力の入らない足になんとかズボンを通す為視線を落とすと、自分の出したものが床に垂れていて、それだけでまだ体の芯がじくりと熱を孕んだ。

「蓮ー?」

「、あ、ごめん、ちょっと待って」

「いい、拭くから。顔出してやれば」

「、ごめん、あとで拭くから、口濯いできて」

ドアチェーンを外してドアを開けると、連絡をくれた友人が少し不安そうな顔でこっちを見つめていた。僕が「ごめん、お待たせ」と口を開くとやっと安堵の表情を浮かべ「良かった〜ごめんな、突然」とその場にしゃがみこんでしまった。

「ううん、僕の方こそごめん、電話気づかなくて…」

「風呂入ってた?」

「え?あ、うん…」

「ちょっとさ、今から出れる?」

「今、から…」

「あー…近くにさ、公園あるじゃん、そこまで」

何だろうと首をかしげた僕に、彼は取り繕うようにあっち、と公園の方を指差した。彼は唯一僕のアパートを知っていて、けれどルームシェアしていることを伝えていたから部屋の中に入ったことはない。僕は一度、床を拭き終えてしまった虎を見て、こんな体のまま大丈夫だろうかと目で問うた。というか、この雰囲気で外に出たら、虎は怒らないだろうか…いやでも、基本的に怒るってことがあまりない気がする…

そんなことを考えた僕に、虎は「出るなら上着羽織ってけ」と、抑揚のない声で言っただけ。僕は言われるまま友人に待ってもらい、薄手のパーカーを羽織った。

「ごめん、ちょっとだけ出てくる」

「ああ」

「ほんとにごめん、先、寝てて」

「寝ていいの」

「……」

寝ないでほしい。でもそんなことも言えず口をつぐむと、虎はキャップを僕の頭に乗せながら「待ってるからいいよ」と、低く掠れた声で囁いた。ぐ、とツバを下げて。夜道をこんな、顔を隠すみたいに帽子を深く被って歩くのはなんだか怪しい気がしたけれど、やんわりと首筋にキスを落とされてどうでもよくなってしまった。

「でも顔はあんまり見せるなよ」

「……はい」

キャップから漂う虎の匂いで、くらりと視界が揺れ、けれど、それ以上待たせるのも不自然で、僕は誘われるまま近くの公園までついていった。するとそこには他にも何人かの友人が居て、それはもう盛大にお祝いをしてくれた。こんな時間に集まってくれたのも、ケーキとプレゼントまで用意してくれたのも、全部嬉しくて、あまり顔を見せるなと言われたのにたくさん写真まで撮ってしまった。
でもこのままカラオケでオールするから一緒に、という、誘いはちゃんと断って、虎の待つ部屋まで慌てて帰った。

こんな風に誕生日をお祝いされたのは初めてで胸は一杯なのに、体は虎を求めてひどく興奮している。今何時だろう。どれだけ待たせてしまったんだろう。せっかくお風呂に入ったのに汗ばんでしまったからもう一度シャワーを浴びたい。ごちゃごちゃと考えながら玄関のドアを開けると、すぐに虎が玄関まできて出迎えたくれた。

「おかえり」

「た、ただいま」

「すげー荷物」

「あ、うん…プレゼント、って」

「汗もすごいな」

「だよね、ちょっと、待って、シャワー…」

「まだ待たせんのかよ」

「っ、ごめ…」

「どうせまた汗かくしいいよそのままで。ん、」

「……」

「部屋」

「あ…でも、」

差し出された手をとって、ローションもゴムもタオルもティッシュも用意された虎の広いベッドに誘導されると、そのまますぐに押し倒されてしまった。夜風に当たって少し冷えても、こんなにすぐ熱を取り戻してしまうものなのか、もう、服越しでも分かるほど硬くなったお互いのものが擦れ、僕は我慢出来ずに腰を押し付けた。みっともないと笑ってくれればいいのに、虎は目を少し細めただけで、その腰を抱いて、丁寧に丁寧に僕の体を暴いた。
もう出るものなんてないくらい何度も抱き合って、外が明るむ頃シャワーを浴びて、ほんの二時間ほど、お互いの体を抱き締めたまま眠りについた。
意識を手放したのは横になってすぐだったと思うけれど、それまでに虎の唇が額に触れるのを幾度か感じた。迎えた朝は、いつも通りの、幸せなものだった。



秘 め 事

「自分の誕生日なのに俺の好きなもん作ってどうすんだよ」
「虎が美味しいって言ってくれるのが嬉しいから」
「そうじゃなくて、」
「あ、そうだ、見て、これ。夜の」
「……はぁ〜」
「え、変?」
「ドえろい顔したままじゃねーか馬鹿」
「ええっ」







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