もう役目を果たしていない帯を蓮の腰からほどき、浴衣を切り離してしっかり抱き直すと、温度の高い肌がぴたりと重なって自分の体温も上がるのが分かった。外は雪が降っているのに、今この腕の中は暑いくらいで、蓮の背中もしっとりしている。
「特別だよ」
「…ん?」
「虎の誕生日は、特別大切な日だよ」
「……」
「その大事な日を、虎が僕と過ごしてくれてるのが、ほんとに、嬉しくて」
「なに…どうした、」
「わからな、なんか…」
「ん、」
「胸が一杯で。…伝わってるか不安になる」
「はあ?」
「僕が楽しいならそれでいい、って言われると…僕が虎の事好きな気持ち、伝わってないのかなって、思う。少し」
突然打ち明けられたことに驚いたけれど、その台詞はお互いに言葉にしたことだってあるはずで。思いもよらなかったそれに、俺は何も言い返せなかった。
「頭の中、見せてあげられたらいいのに」
「虎が僕のこと考えてくれる以上に、僕は虎の事ばっかりだよ」なんて、そんなはずがない。自分でも狂ってると思う時があるのだ。それくらい俺は蓮のことばかり考えていて、けらどどちらが、なんてはかれないのも事実で。
「蓮」
珍しくぐずぐずな蓮だって愛しいし、枕元の照明に照らされる快楽に負けそうな、ギリギリのところで歪む顔だって綺麗だ。
「蓮が居なかったら俺は一生クズのまま一人だったよ。景色が綺麗とか、蟹が美味いとか、誰か一人の事がこんなに大切とか、知らないままで」
「虎は、」
「俺は蓮が思ってるよりずっと、一人じゃダメな奴─」
「クズじゃない」
「いひゃ、」
「虎の事悪く言わないで」
むにりと頬をつままれ、なかなかに恥ずかしいことを言ってしまった事に気付いた。蓮は裸で、俺の浴衣もほとんど意味を成していない。避妊具を被せたものはひくひくと揺れているし、それは蓮の尻にあたっている。こんな状況で何を言っているのか…
でも、俺が言いたかったことは本当にそういうことで、この人生自体蓮が居なければ成り立たないのだ。それを、蓮にちゃんと理解してほしい。
「じゃあ、伝わってないかもとか不安になるのやめろよ」
「……」
「蓮に大事にされてる自覚も、好いてもらってる自覚もあるから」
「もっとだよ」
「分かってる。蓮にとってそれがどれだけのことかも、俺多分蓮より分かってる。でも、頭の中見せたら俺の方がよっぽど酷いからな」
「……ごめん。言い合いがしたいわけじゃなかったんだ」
「ん、知ってる」
「単純に、虎に楽しんで欲しかっただけで…いつも、僕の誕生日すごくお祝いしてくれるから、僕も何か」
そこを比べられてしまうと、俺が圧倒的に悪い。蓮は行きたい場所したいこと食べたいものを明確にするから。誕生日、という言葉を借りて俺がそれを送るだけのこと。逆に、俺にはそういうものがないから。俺は楽しめているのだろうかと、蓮が不安になるのも分かる気がした。でもこればっかりは仕方がない。俺には蓮しか居ないのだから。
「じゃあ、俺の事もっと好きになって」
「っ、聞いてた?僕は─」
「もっと。たまにはそうやって不満とか言って、俺の事好きなんだなってもっと自覚して」
「……これ以上?」
「ああ」
「……やっぱり分かってない」
「分かってるって。分かってるけどもっと」
「それ、僕も言って良い?」
「……いいよ」
「じゃあ、分かった」
これはたぶん、三ヶ月後の蓮の誕生日に「もっと僕のこと好きになって」って言われるんだろうなと、口元が緩んだ。どうやったって俺は蓮しか特別がないのだから、もちろんと頷いて抱き締めることになる。
「続き、していい?」
「、」
「爆発しそう…でかくなりすぎて、はいんねぇかも」
「う、えっ、と…」
「ほら」
「あ、」と頬を真っ赤にして目を見開いた蓮は、しっかり俺の首に手をまわして腰を浮かせて挿入するのに協力してくれた。おっさんが二人でなに恥ずかしい愛の言葉を言い合っているのかと笑われてもおかしくない。
俺だって他人のこんな場面を見たらブーイングするだろう。
「はいっ、た」
「ん、んん、」
「あー…失神しそう」
「ふ、ぅん」
目がチカチカして、頭の奥もびりっと電気が走ったみたいに痺れる。蓮の腰を抱いたまま後ろに倒れると、蓮は俺に馬乗りになったままゆっくり自分で腰を動かした。高い天井には一本太い梁みたいな飾りの木が渡っていた。もう一本あるかもしれない、小さな電気では光が届かないだけで。
「あっ、ん、うぁっ」
「は、ぁ…れん、」
「ん、んん?」
「綺麗だな」
「、え、?なに、が」
「蓮が」と答えれば当の本人は「虎の方が綺麗だよ」と言って笑った。どうしたって一つにはなれないから、俺も蓮も少しの不満や小さな不安をそれぞれ抱えて、それでも言葉にしたらどっちも怒りながら笑って「一番特別」だと言うから。
蓮の特別になれた自分は、きっと他の誰より幸せだ。
不安定な夜
(不安定ささえも綺麗な蓮を)
(俺だけが知っていて、)
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