キスをしながら押し倒され、そういう雰囲気になった。ソファーの上、暖房の効いた暖かいリビング、ぎゅむ、とソファーの生地が窮屈そうに音をたてた。
外は雪。買い物は昨日済ませて正解だった。今日はもう出掛けないでゆっくりしようと、数秒前まで録画していた映画を観ていた。外国のアクションものだ。なんとなく薄暗くした部屋で、寄り添って、コーヒーを飲みながら。

「ふふ、眠そう」

「……少し」

「寝る?」

「寝ない」

ん、と眠気を孕んだ息が唇を掠める。虎の背後で激しい爆発音が聞こえた。物語の一番盛り上がる場面を見逃してしまったなと、視線をテレビの方へ向けると画面がCMに切り替わった。

「コーヒーのおかわりは?」

「……いい」

「じゃあ、ベッド行こう」

CMの間に停止ボタンを押し、僕を見下ろしている虎の背中に腕を回して起き上がる。その瞬間虎の首元に触れた鼻先が彼の匂いを掬い、じん、と喉の奥が熱くなった。

「とら、」

立ち上がった僕に反して、虎は動かないで僕を見上げた。獲物を狩る肉食獣みたいな目をしながら、それでも瞬きはゆっくりでやっぱり眠そうに見える。
その気になったのは自分だけだったのかも、と少し恥ずかしくなって口をつぐむと虎の腕に導かれて体が傾く。ソファーがまた苦しそうに軋み、座る彼の足の間にぴたりと収まった。
虎は小さな子供みたいに額を胸に擦り付けながら、僕の服の中に手を忍ばせた。暖房の効いた部屋で温かくなった指先が背骨の窪みを上へ向かって撫で、視線をあげる。くすぐったくて小さく笑った僕に「ベッド?」と虎は問うたけれど、移動する気はないように見える。

ソファーを買い換えたのは少し前で、長く使っていた前のものとは色も形も違う。まだこのソファーで行為に及んだことはなく、なんとなく、汚してしまうのがもったいないな、なんてことを一瞬考えて、すぐにやめた。虎が上に乗るよう誘導するから。

「座って」

「重いよ」

「俺重いって言った?」

「ううん」

「何それ」と、呆れたように息を吐いた虎の手から逃れ、そのまま膝を床について彼の太ももへ手を置く。何をされるか察した彼の目が少し見開かれる。
その気になりはじめた虎のものを部屋着の上から軽く揉み、やわやわと撫でると「座れ」と少々強引に立つよう促された。口でしていいかなんて聞いたらダメだと言われるのは分かっていて、だから「うん」とだけ言ってズボンに指を引っかけた。硬いお腹に指が触れ、虎が小さく息を漏らす。

「れん」

「ん、」

まだ少し柔らかいそれを片手で握り込み、もう片方の手で股関節へ続く筋をなぞる。この、男性特有の線が、筋肉質な線が、色っぽくて触れるとドキドキする。

濡れ始めた先端を指の腹で押しながら足の付け根にキスをして、誰にも見えないようなそこに小さく吸い付く。きっとすぐに消えてしまうような小さな跡を舌でなぞり、握りこんでいたものを扱きながら根元へ唇を移動させた。
年末の大掃除は今月に入ってから少しずつ進めていて、休みに入った初日にすべて終えてしまった。おかげで買い出しは昨日のうちに行けて今日はゆっくり過ごせる。明日は朝からおせちと夕食を仕込んで、元旦はだらだらして初詣に行く。そんなのんびりな予定をたてて、師走の忙しさに押し退けられていた二人きりの時間を満喫しているのだ。僕だって少しでも長く触れていたいし、出来る事ならずっと抱き合っていたい。昨夜だってたくさん抱き合ったのにそんな不純なことを考えている。

「っ、ん、む…」

壊れ物を扱うみたいに頭を撫でてくれる手がゆっくりと髪をすく。少しだけ視線を上げてその顔を見上げると、虎の目は欲情したまま僕を見下ろしていた。

肩が震える。
頭に触れていた虎の手が、今度は肩を撫でてくれて「もういい」と溢す。まだ、もう少し、僕は裏筋を舐め上げてから口の奥へと全てを押し込んだ。口内でぴくりと揺れたものを舌で撫でながら唇で扱く。
鼻から抜けていく情けない声を救うように顎を持たれ、「終わり」と言われて口を離すと、つつっ、と唾液の糸が伸びた。充分に硬くなったそれを最後に手で数回扱いてから腰を上げる。

「舐めながら興奮した?」なんて、お決まりみたいな台詞を吐いた虎に下着の中で窮屈にしていたものを撫でられる。ずるいな、色っぽい顔だなとその頬をやんわり摘まむけれど、整った顔は多少歪んでも綺麗なままだ。再生を止めたテレビ画面はバラエティーの特番に切り替わり、賑やかな笑い声が部屋に響いた。

「とら、」

腰を引かれ、部屋着のズボンがずるりと下げられる。晒されたお尻をやわやわと揉みながら、再び上に乗るよう今度は少し強引に体を誘導された。体勢を整え、出されたもの同士をぴたりと合わせた虎は僕を見上げてキスをねだった。

ん、と軽くその唇に自分の唇を重ねて顔を離す。なんとか仕事納めをしたものの、年末の激務ですっかり疲れきってしまった虎の顔には隈が出来ている。それにもキスを落として重ね合わせたものへ片手を下ろす。

「あ、つ…」

「勃って良かった」

「え?」

「昨夜たくさんしたから勃たないかと思った」

真顔で、虎はそう言うとぐっと首を伸ばして僕の顎にキスをした。昨夜のセックスを思い出して顔が熱くなる。仕事に追われて疲れ、勃たないと思うくらいたくさんエッチなことをして、余計に疲れさせてしまったんだ…このままセックスをしては余計に疲れるだろうなと、握り込んだものに視線を落とす。

「やっぱり少し寝る?」

「寝ない。勿体ないだろ、せっかく蓮と居れる時間あるのに」

「……」

「なにその顔」

「変な顔してる?」

「すげー可愛い顔してる」

「見ないで」

可愛い可愛いと馬鹿にしたように続けた上唇をぱくりと口で挟んで軽く引っ張っぱっても格好良くて、撫でられる臀部にぶるりと背中が震えた。だらしなく濡れた自分のものが扱かれる度卑猥な音をたて、恥ずかしさに目眩がする。
ぎゅ、と目を閉じて彼に抱きつくと当たり前だけど仕事場のにおいも整髪料のせず、胸の奥がちり、と焼けるような感覚を覚えた。首元と同じ、耳の後ろも虎の匂いがする。もう随分香水の類いは使っていない。虎自身の匂いだ。

「蓮」

「、ん?」

「良い匂いするな」

「…なんだろう、食べ物?」

「そういうのじゃない」

「っそんな、嗅がないで」

「興奮する」と小さな声を耳元で溢して、扱くペースが早くなる。ただ一緒に扱いているだけなのに気持ち良くて頭の中が白くなっていく。
虎だっていつも良い匂いがする。“興奮”する。虎が僕の匂いが好きだと言ってくれるのは嬉しいし、その匂いに興奮するというなら安心する。汗をかいても良い匂いだと感じる。でも、もし他の誰かも同じことを言っていたら困ってしまう。その人も虎のことが好きなんだなと、浅はかにも思ってしまうから。

「あっ、ぁ…んん、」

「はぁ、れん…」

「ん、ぅん」

「悪い、出そう」

「ぃ、ん、ぼくも…イ、きそ……でも、」

はぁはぁと、少しも色っぽくない息を漏らす僕に、虎はもぞりと頭を動かして何度目かのキスをした。熱い息の隙間でそこに吸い付いて、キスに答えると一気に扱く手が早くなった。

「んあっ、とら…!い、く…も、で…」

「んっ」

「る、……ぅ、ん」

とぷりと二人分の精液が虎のお腹に溢れた。それを拭こうと慌てて体を離すと、お尻を擦っていた虎の手が僕の腰を引き戻した。

「虎、服、汚れるから」

「着替えれば良いよ。洗濯も俺がするし」

「でもお腹も。拭かないと気持ち悪いでしょ」

「……風呂」

「まだ昼間だよ?」

「知ってる。でも一緒に入りたいなって」

どうかな、なんて試すような目で問われ、ピカピカに掃除した湯船にお湯を張ったのはそれから数分後だった。
年が明けるまで、年が明けてから。虎と何度目かの年越しだ。深夜に年越しそばを食べて、夜が明けたらお節とお雑煮を食べる。暖かくした部屋で、肩を寄せあって話をして、キスをして、「今年もよろしくお願いします」と笑い合う、穏やかなお正月がくる。


一年の終わりに
( 2017 - 2018 )


「セックスしたい」
「っ、なに、どうしたの」
「いや、足りないなと思って」
「…ベッドいかないって言ったのは虎だよ」
「言ってない」
「……あ、ほんとだ」
「でも今ベッドいったらそのまま寝そう」
「寝ていいのに」
「起きたとき蓮が居てくれるなら寝る」
「なにそれ、可愛い」
可愛い可愛い。たまらなく可愛いと、お返しの可愛い攻撃をしたらばしゃばしゃと顔にお湯を掛けられた。良い大人の男が二人、お風呂で何をしているのかと、思わず笑ってしまった。






×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -