「ごめん」
ズズ、と布団の衣擦れの音が耳元で響き、自分の小さな鼻息はかき消された。ごめん、と溢された蓮の声もその体の重みに誤魔化される。じくりと熱を帯びていた者同士がスエットパンツ越しに擦れ、仰向けになった自分の頬に蓮の髪が触れた。
「すげー勃ってる」
「ごめん」
「俺が。これ、寝れないかも」
「…いい?触っても」
「触って」
温度の上がった布団の中で体勢を整えた蓮はお互いのズボンと下着をずらし、丁寧にそこを握りこんだ。
眠れなかっただけなのか、夜這いなのか、本当に寝るつもりだったのにこういう気分になってしまったのか、俺には何でもよくて。でも、この時間まで一人で迷って蓮からしてみれば常識的ではない時間に他のベッドに潜り込んだ、それだけで俺にはとても意味がある様に思えたし、何より蓮に求められるのは単純に嬉しい。
「はぁ…」
「蓮、顔。あげろ」
「ん、とら」
何も付いていない柔らかい髪を梳きながら触れるだけのキスをして、蓮に与えられるだけの感覚でこみ上げる射精感に目を細める。
「れん、離して」
「ぅ、ん…」
「汚れるから」
最後までしたい気持ちを抑え、布団ごと蓮を抱いて起き上がりそのまのティッシュに手を伸ばすと肩に蓮の額がぶつかった。ん、と押し殺しきれないで唇の隙間から洩れる声に脳みそが痺れる。じくりと、深いところから熱いものが溢れてくるような。
「こっちは」
「っ、や、」
「前だけでイけんの」
「…ん、」
「そう」
完全に顔が見えない状態なのが惜しい。耳の裏と首筋に唇を這わせながらこっちを向くよう促してみたけれどダメで、そのまま両手でお互いのものを扱いて「とら」と甘い声を漏らした。
「蓮、もう出るから、」
「……僕も…」
「はぁ、」
「んっ、ぁ……」
達する寸前で何とかこっちを向かせてキスをすると、前を触っただけにしては随分とろんとした目をしていた。その目にじんわりと滲んでいた涙を舐めとってやっと舌先を擦り合わせて絡めるキスをして、ほとんど同じタイミングで射精した。
「はぁ、は…ん、」
「れん、」
「あ…」
「したかった?」
「えっ、あ…ごめん」
「なんで謝んの」
「明日、僕は休みだけど、虎はそうじゃないから、誘えないなって…思ってたのにごめんね、結局…こんな時間になっちゃって」
蓮を抱いて寝る方が、蓮に抱かれて眠る方が、一人で朝を迎えるよりずっと気持ちが良い。眠りの質も、頭のすっきり感も、起きたときの幸福感も。セックスして寝ても、それは変わらない。疲れていたってその疲労感さえ俺には愛しい。それを言葉にしたら蓮ははにかむのだろう。はにかんで、「僕も」と俺の髪を撫でるのだ。
「俺は嬉しいけど」
「え?」
「蓮が一人でしないでこっち来たの。一緒に寝れるのも」
「……虎?え、あ…」
蓮を股がらせたまま服を脱がせ、自分も乱雑に脱いでまとめてベッドの下にそれを落として肌を重ねる。これだけで気持ち良いのだから、もうどうやったって一人にはなれない。
脱いだパジャマは朝まとめて洗濯すればいい。今は、肌と肌の合わさる感覚を布団で包み込んで、眠りにつくまでキスをしていたい。
「明日」
「うん?」
「帰ってきたらする」
「ふふ、なに?」
「続き」
「あ…」
「最後まで。だから、待ってて」
「ん、うん、」
「眠くなってきた」
「うん…おやすみ」
おやすみ。
掠れた自分の声は蓮の唇に吸い込まれて消えた。