「っ、ん…」

「暑い?」

「少し…汗、かいてる?」

「ちょっとな」

まだ体が火照っているうえに、こんなことをしたらそりゃ汗もかくか、としっとりした額に唇を滑らせる。なんとなく、ゆっくり焦らすセックスがしたいなと思いながら、それでも蓮の疲れや時間を考えるとそうもいかないだろうかとベッド下の引き出しを手探りで開く。コンドームとローションを引っ張りだし、体を起こすとつられてか蓮も起き上がって、キスの続きをせがむみたいにシャツを掴まれた。

「キス?」

「する…」

ちゅっちゅっと可愛い音をたててキスをしたあと、蓮に押し倒されるように再び横になった。片手を枕に縫い付けられ、もう片方の手にシャツを捲られる。ヘソの下と脚の付け根の線をなぞるように撫でる蓮は、顎から首へ舌を這わせながらキスをしていく。そのまま体を下へずらし、片手で下着ごとズボンを下げた。するりと、俺を押さえ付けていた手が離れ、両手で熱を帯びたそこを握る。

「れん、」

「待って、僕がする」

蓮はそう言って遠慮がちに舌先を触れさせた。上手いか下手かで聞かれてもどうかは分からない。それでも、触られれば気持ち良いし、充分に唾液で濡らされて唇で扱かれれば感じるし見た目にも刺激的だ。形の良い柔らかい唇が、いつも正しいことばかり吐く、世界で一番優しく綻ぶその口が、俺なんかに触れていると思うだけで。

「ん…ん、」

丁寧に根元を舐め、裏を食んで、先をグリグリと舌で押し付けて、歯を当てないようにゆっくり、その口の中に収められる。フェラが好きじゃないからあまりして欲しくないのではなくて、蓮に無理してこういうことをさせたくないなと俺が勝手に思っているだけだ。だから、ふわふわと揺れる髪をすいて、頬を撫でて、蓮が気持ち良さそうに目を細めるのを見てしまったら、そんな理性もどこかにいってしまう。

「蓮、離せ」

「、んあっ、」

「脱いで」

「あっ、」

「ガチガチじゃん」

せっかくシャワー浴びたのにな、と小さく溢すと、薄いスエットを脱ぎ去った蓮が肩を揺らしながら再び覆い被さってきた。胸が大きく揺れている。蓮の荒い呼吸を感じるだけで興奮している自分も大概で、漏らされる甘い声を一つ一つ掬うみたいにべろを突きだして蓮の唇を撫でた。
その体勢のままローションを掌に溢し、露になった蓮の下半身に触れる。固さと柔らかさの両方を感じられる蓮の体は触れるだけれで気持ちよくて、窄まりに指を滑らせるとじわりと熱くなっていたそこがひくりと震えた。

「……風呂で慣らした?」

「っ、」

「いつもより柔らかいけど」

「……少し」

恥ずかしいのか、俺の頬に頭を擦りながら「ごめん」と呟く。何がごめんなのか問うてみたいなと思いながら、その頭にキスをして指を押し込んだ。

「ぅ、あ…んん、」

「れん」

「んっ、」

「顔」

おずおずと持ち上げられた蓮の顔は、少し気まずそうに俯いたまま。もう一度「蓮」と呼んで促すと、とろんと下がった目尻には涙が滲んでいた。

「泣いてんの」

「ううん、なん、か…」

「気持ち良い?」

「……ん」

クーラーの効き始めた部屋で、蓮は布団を押し退けて起き上がった。引っ張り出したコンドームの箱から中身を出し、俺の足に股がったままそれを丁寧につけると、それを手で支えながら腰を浮かせた。入るだろうか…ついた膝から太ももを撫でて、力の入っている臀部を柔らかく揉む。

「っ、と、ら…」

「ん」

「うぁ…あ、あっ…つ、」

ゆっくりゆっくり俺を飲み込み、硬い胸を大きく揺らしながら俺の腹に手を付いた蓮は自分で腰を揺らし始めた。Tシャツで隠れている蓮の前をその下から手を忍ばせて触り、静かに響く声に頭の中が痺れるのを感じた。
旅行中、送られてきた写真の中の蓮はいつもと変わらない顔で笑っていた。俺はこんなに綺麗に笑う人間を他に知らないし、この先も見ることはないのだろうと盲目的なことを思っている。その顔が、快楽に緩んで悶えるように歪む様はとても色っぽい。妖艶、だ。

短い喘ぎをきゅっと閉じた筈の唇の端から溢して、呼吸の合間に俺の名前を呼んで、中をぎゅうぎゅうと締め付ける蓮はイきそうになる度俺の手を止める。このままじゃお互いイけないだろうに。
それでも制止に従って蓮のものから手を離し、ゆるゆると動く腰を掴んだ。

「はぁ、」

「とら、んっん…」

「すげー気持ち良さそうな顔」

「気持ち、いいよ…」

「風呂。一人でしたのか」

「っ、」

「でもそんなに長くなかったよな…」

「してない…けど、ん、」

「じゃあ、準備?」

「あっ、待っ…うご…」

蓮がそんな準備を独断でするなんて今までなかった。そんなどすけべな場面、是非見たかったのにという感想は黙っておいた。代わりに下から突き上げると何度目かのそれに蓮の体がくたりと前に倒れてきた。
胸を突きだして腰を動かし、快楽に負けて泣きそうな声でよがる顔が伏せられてしまい、もう一度強く突き上げた。

「んんっ!はー…はぁ、はー、」

「イく?」

「ん、ぅ…ん、も」

「れん、」

「あっ、ぁ…んん、い…」

「っ、」

「ひ、ぁ…っ、んぅ」

自分で前を少し扱き、その中で射精した蓮は服を汚さないようにか体を起こして汚れていない方の手でシャツを捲った。まだはあはあと上下する肩を撫でてやると、ぴくりと中が締まった。
体の熱が冷めていないのは俺も同じで、精液で濡れた蓮の手を捕まえてそれを舐めとると「とら」と、最中のような甘い声が寝室に小さく響いた。

「やっぱ準備、か」

「え、?」

「濃い」

「っ、そういうこと…言わ─」

「何で自分でするんだよ。さっさとあがってしたいって言えば俺がしたのに」

「……」

「先に寝てたらどうしたわけ」

「それ、は」

「まあ、寝ないけど。蓮、空港着いたときからしたそうだったし」

「えっ」

虎!と、とても弾んだ声に抱き締めたくなったのは言うまでもなくて、でも、鞄持つからと触れた指先だけで蓮の体温が分かってしまった。抱き締めてキスしたいという下心を孕んだこの気持ちは家まで我慢しないと車の中で手を出しそうだった。

「汗かいたし着替える」

「……」

「Tシャツ」

深夜二時、蓮が買ってきた白に紺色のジンベイザメの絵が大きくプリントされた可愛らしいTシャツに着替えて、蓮が満足するまでキスをした。






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