長い長い夏休みの序盤、蓮は大学の友人と旅行に出かけていった。行先は沖縄。
このくそ暑い中沖縄とはなかなか勇気がある。もちろん、三泊四日プラス帰ってきた翌日なんて休みは長期休暇中じゃなければとれないしそれなりに旅費もかかるから気軽にはいけない。前々から計画を立てて、それにむけれきちんと準備していた蓮を見送ったのが三日前。この三日間で海やウエットスーツ姿の写真、観光スポットの写真が数枚送られてきた。頻繁にやりとりはしていないものの、俺にはそれで充分だったし蓮が楽しんでいるのなら良かったなと写真を眺めながら思っていた。
俺は俺でバイトを詰め込んでいいて、それでも蓮が帰ってくる日の夜と、その翌日だけは空けていた。

その蓮が、無事に帰ってきた。大きなスーツケースをひいて、少し日に焼けて。

夏休みの始まり


一緒に行っていた五人のうち三人は電車で、もう一人はそのまま実家に帰るため家族の迎えが来ることになっていた。蓮も電車で途中まで帰ってくると言ったけれど、俺は結局空港まで迎えに行った。

「虎!」

「おかえり」

「ただいま。ごめんね、待った?」

「いや、そんなに。ん、カバン」

「いいよ、ありがとう」

「いいから」

スーツケースとリュック、それから派手な柄のこれもまた大きなトートバッグを肩にかけた蓮からスーツケースをさらい、空港を出た。旅行帰りってだけで疲れているだろうに、蓮は「ちょっと涼しい」なんて機嫌よく言いながら停めていた車まで歩いた。

「ん、」

「ありがとう」

「飯は?食った?」

「向こう出る前に食べたけど、ちょっとお腹すいたかも」

「どっか寄る?あ、チャーハンなら少し残ってるけど」

「虎の夜ご飯?」

「ああ、食べたけど量多くて残した」

「じゃあチャーハン食べる」

「ん。トイレは」

「大丈夫」

じゃあ行くかと車を走らせ、すぐに高速に乗った。
夜の高速ってわくわくするよね、と楽しそうに溢した蓮は少し眠そうな声で土産話をしてくれた。たぶん相当眠いのだろう、段々話すスピードが遅くなりついに声が途絶えたのは高速を降りてアパートまでの時間を逆算できるようになった頃だった。そのまま寝てもよかったのに、不規則に止まったり曲がったりする感覚に目を覚ましたのか「もうすぐだね」と目を擦りがら姿勢を正した。

「虎にね、Tシャツ買ったんだ」

「なに、ダサいやつ?」

「んー、ううん、可愛いの。お揃いのパジャマにしようと思って」

「沖縄までいって寝間着買ったのかよ」

「本当はね、なんだろ、見たままの景色とか感覚とか、伝えたかったんだけど…プロジェクターみたいに、こう、目から映像映し出せたらいいのにね」

「なんだそれ」

「そのくらいすごかったんだよ」

「写真より?」

「写真より。今度は一緒に行きたいな」

「もう少し涼しくなったらいいよ」

日差しの強さが本当にすごくて虎だったら溶けてたよと、冗談交じりに笑った蓮に俺も笑い、アパートに到着した。

「部屋まで行けるか」

「うん」と返事をしながらも足元をふらつかせ、なんとかリュックを背負って階段を上るといつから握っていたのか掌から部屋のカギを出して中へと消えた。すでに日付は変わっていて、明日も一日バイトを入れなかったのはやっぱり正解だったなと蓮の計画性を褒めてやりたくなった。
俺が部屋に入るとすでに手洗いを済ませた蓮がパタパタと駆け寄ってきた。

「リュックおろさねぇの」

「おろすよ」

「風呂は?あした─」

荷物をまとめてリビングにおろし、冷蔵庫から余ったチャーハンを取り出そうとしたところで蓮が後ろから抱き付いてきた。Tシャツから剥き出しになった腕は、数日前より確かに黒く焼けている。冷蔵庫を閉めてその手を撫でると「先にシャワー浴びてくるね」と、眠いというより色気を孕んだような穏やかな声が静かに響いた。
それから洗濯物を素早く仕分けてシャワーを済ませ、結局寝ようかとなったのは一時を過ぎてからだった。ほんのりと漂っていた潮の匂いは消えて、いつもの蓮の匂いが布団の中に広がる。

「あ、Tシャツ」

「良いよ明日で」

「…眠かったはずだけど、なんから冴えてきたかも」

疲れすぎた日や修学旅行明け独特の興奮みたいだと小さく笑った蓮は、暗闇の中で俺の顔に触れた。

「ん?」

「ううん、虎だなって」

「はあ?」

「気持ち良い」

「なんだよ急に」

暗くて見えないのが残念だけど、きっと緩みきった顔で笑っているのだろう。鼻先を擦りながら、溶けたような声で「とら」と呼んだ蓮に、たまらなくなってキスをするとたかが四日ぶりのそれに体の奥が熱くなってしまった。

「とら、」

これは、セックスする流れだ、と悟って枕元の電気をつけると、欲情した目が俺を見ていた。

「眠くねぇの」

「…少し。でも、寝れない」

キスをしながら「眠い?寝る?」と聞いてくる蓮に、寝る、なんて答えが出るはずもなく。ゆっくり唇を開くと、その隙間を埋めるように蓮の唇が重なって、やわやわとそこを食んだ。腰を抱くと、既に反応していた下半身同士がやんわりと押し付けられ、すぐにシャツの中に手を滑らせた。







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