不純異性交遊、か。
確かに、生徒たちがそういうことをしていると考えたら心配だ。けれど大人の立場から「やめなさい」と頭ごなしに言うのもどうなんだろう。だって人のことは言えないから。きちんと考えたうえで、好き合っている二人がセックスをするのはごく自然なことであって良いと思うのだ。
もちろん、だからと言って無断外泊やラブホテルに入って良い理由にはならないけれど。

校長の話が終わると一気に気が抜けたような、和やかな空気になった。こういう、長期休暇前の注意ほど意識に残らないことはない。明日からの休みに浮き足だっている十代の彼らには届いていないのだろう。

「蓮くん先生さよならー」

「はい、さよなら。気を付けてね」

「はーい!」

梅雨が明け、もうすっかり夏だ。
ギラギラと照り付ける太陽に目を細めながら校門を出ていく背中を見送った。懐かしい。学生にとっての夏休みなんてあっという間で、眩しく光るシャツにネクタイを締めて、まだ抜けきらない暑さの中気だるげに歩くの虎の背中が思い浮かんだ。
夏休みあっという間だったねと、その背中にこぼした僕に、虎は「まだ暑いのにな」とうんざりしたような声で返した日のことだ。

「そうだね。セミも鳴いてるし」

「……」

額に滲んだ汗を手の甲で拭うとちょうど虎が足を止めてこっちを振り返ったところだった。そんな、三歩前を歩いていた彼の横に並ぶと、汗ばんだ手をとられ少し足早に歩きだした。無表情のまま進む横顔を見つめ、耳の後ろから首筋へ流れる汗にどきりとしたことは内緒だ。けれど、それを察したように繋がれた手が強く握られる。

「とら」

隣り合ったお互いの家、虎は迷わず自宅のドアを開けて僕を招き入れた。汗ばんだというよりは、汗でびしょ濡れになった手もそのままに二階へあがり、虎の部屋に入った。

「と─あっ、」

入るなり、エアコンのスイッチを押してリモコンを落とし、僕をベッドに座らせる。突然動きを止めた体は、内側からじわじわと熱を発しているようでとても暑かった。虎はネクタイを緩めながらベッドに乗り上げ、汗で濡れた僕の額にキスをした。

「とら、待って、汗かいてるから」

「いいから」

「ダメ、虎も…風邪引くよ」

ひゅっと、エアコンの冷たい風が何秒かに一回僕らの髪を揺らしている。緩んだ虎のネクタイに指をかけようとして、すぐにその手を掴まれてしまう。

「蓮」

「ん、」

首筋に虎の鼻先が触れ、呼吸の感触に肩をすぼめると服の上から思い切り噛み付かれた。マズイ、食べられる、なんて馬鹿なことを考えながら、それでも自分の目の前にある虎の首筋に噛み付きたい欲がわく。しっとりと濡れたそこに鼻を押し付け、匂いを吸い込んで余計に体が熱くなってしまった。

「とら、い、ん…いた、い…」

「ああ」

もぞもぞとシャツの裾をスラックスから引っ張り出し、隙間から手を入れた虎は下に着ていたTシャツごと少し乱暴に捲りあげた。その瞬間冷やされた汗が背骨の溝を滑り落ちていくのがわかった。

「すげー汗」

「ん、だから…虎っ、」

「抱くぞ」

「、」

すんすんと耳の裏で鼻をならしながら、大きな手がお腹に触れた。気持ちいい。ぴたりと吸い付く感触がたまらなく気持ちよくて、けれど汗をかいた場所をくんくんされるのはどうしようもなく恥ずかしい。なんとかその胸を押し返してみても、すぐに抱き寄せられ、あっさり押し倒されてしまった。
僕を見下ろす虎の顎には水滴が貯まっていてぽたりとそのまま僕の頬に落ちてきた。

お腹から胸へ、上に滑らせた手でそこを撫で、揉んで唇で食んで、乳首の下にいくつもキスマークを散らす。やっと体を起こした虎はそのまま僕のベルトを緩め、スラックスの前を寛げた。下着を押し上げているそれを掌でやわやわと触りながら「すっげー熱い」と意地悪く言って。

「待って、脱ぐから、」

「腰上げろ」

「ん、」

汗ばんだ足からスラックスを引き抜かれ、けれど片足の先にそれは引っ掛かったまま足の間に虎が入り込む。下着も中途半端に前だけを下げられただけで、そのまま固くなった僕のものを握り混む。

「虎、待って、まだ…」

胸が出るまで捲り上げられたシャツと首元でぐしゃぐしゃになったネクタイが邪魔で、上手く腕も動かせない。どうせ洗濯するんだから、シワが付いたっていい。でも、あちこち中途半端に晒されるのも恥ずかしくて、下着もこのままでは汚れてしまう気がする。
そんな事ばかりに気をとられていたら、ずりずりと体を動かした虎がそれを口に含んだ。

「っ、とら!だ、やめ、虎」

「なに?」

「う、やめて、ダメ、汚いよ」

ただでさえ暑い中一日学校で過ごし、急いで帰ってきたから汗もかいた。汚くないだろ、と舌で裏筋を撫でた虎はそのままじゅるじゅると音をたてて唇で扱いた。
すぐにでも達してしまいそうな快感と、制服を中途半端に脱いだとても背徳的な光景と、耳を犯す卑猥な音に情けない声が漏れていく。下着を邪魔そうに、片方の手で押さえながら僕のものを扱く虎はどんなに嫌がっても離してくれなかった。

「と、らっも…や、だ…いく、から」

「んん」

「はな…はなし、あっ、うぅ…ん、」

虎の口の中に精液を溢すと、虎は満足げに目を細めて体を起こした。

「っ、だめ、出して」

いつもそのまま飲み込んでしまうそれを、いつも以上に恥ずかしくて慌てて自分の両手を差し出した。ここに出せ、というのも変な話で、けれど虎は僕の申し出に一瞬悩んだ後自分の掌に出した。

「待って、ティッシュ…」

「いいよ。蓮、下げて」

「、」

「下着。自分の」

虎に従ってパンツを腿まで下げると、僕の出したものを広げた手がゆっくりお尻に触れた。ぬると、生暖かいものを塗り込むように指が窄まりを撫で、下着に固定されて開かない僕の足をまとめて左に傾ける。
そのまま後ろを慣らされ、挿入するときにローションを少し垂らしてから虎はコンドームをつけた。

「ん、ん…」

「いい?」

「うん…」

「息吐け」

「んん、あっ、」

「れん」

「うっ、んん…とら、ぅあ…」

「はぁ…」

気持ちいい。
エアコンの風が少し冷たいけれど、そのおかげで肌の触れる感覚が暖かくて、たまらなく心地いい。揺れて僕の体を撫でていた虎のネクタイを掴んで、それごとその首に腕を回してしがみついた。虎はそれを受け入れて、顔を寄せてくれた。

「キス、していいの」

「ん、ん…」

「口に出したけど」

「、いい、」

「舌出せ、」

「ふ…、んあ…」

自分の欲を吐き出した虎の口の中は確かにその匂いが少しして、でも舌と舌を擦り付けて吸い付いたキスは頭の中が真っ白になるほど気持ちよくて怖かった。
行為中、キスをするだけで正直イきそうになる。虎の視線と絶対に気持ちよくなると分かっているキスに。自分が ぎゅうぎゅうと締め付けている感覚も分かる。

「とら、とら…」

「ん?」

「イきそう…」

「ん、」

虎のシャツを思いきりくしゃくしゃに掴んで、下着を濡らして、ベッドのシーツも汚して、ぐちゃぐちゃにキスをした。

僕らにも、夢中でセックスをしていた時期がある。
それは、誰より傍に居たいと望んだ意思の形で、触れたいと思う気持ちはそのままお互いに触れることで。やっと気持ちが通じあったという安堵とか、受験へのストレスとか、原因はたくさんあって、けれど、とにかく虎の体温を求めていた。虎の目が僕だけを見ることがたまらなく幸せで、狭い世界で生きていた高校生にとって、それはあまりにも大きかったように思う。

「蓮くん先生ー?」

「、」

「そんな日の当たるとこ立ってたら倒れるよ」

「みんなもこの中自転車で帰るんだから、気を付けてね」

はーい、と元気よく返してくれた数人が自転車に股がり校門を出ていった。

帰ったら、セックスをしよう。
(虎の背中を掻き抱いて)






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