24.3/23(Sat)16:51
3月も終わりが見えていたはずのその日、やっと膨らみ始めた桜の蕾を濡らす冷たい雨が降った。もう暖かくなるのだと疑わなかった僕らは冬物をクローゼットの奥へ、コート類はクリーニングに出してしまった。
暖房をつけた部屋から窓を眺めると、結露した窓に遮光の薄いカーテンがぺたりとくっついていた。
ここ最近、部屋では靴下を履かずに過ごす日が増え、スリッパも新調した。今日は予想外の寒さに素足のつま先がじんわりと悴んでいる。
「りんちゃん」
「わ、危ないよ」
「ごめんなさい」
「あはは、どうしたの」
「夜ご飯の準備?」
「うん、少しだけね」
「…水炊きだ」
「正解」
「いいね、今日寒いもんね」
「もう鍋仕舞いした気でいたけど、食べたいなと思って…どうしよう、水炊きで大丈夫?他のものでも」
土鍋に張った水に沈んだ昆布を前に、遥は「水炊き以外じゃかわいそうだよ」と笑った。切った野菜をバッドに並べ、準備はもうほとんど終わっている。あとは鶏肉にじっくりゆっくり火を通しながら出汁が出るのを待つだけだ。
「終わり?休憩する?」
「うん、終わり」
「手冷たいね」
「今洗ったからね。何かのむ?カフェオレとか…」
「ううん、俺はいいよ」
「そう、じゃあ僕も我慢しようかな」
「え、」
「お腹空かせておかないと」
「この雨じゃ散歩もちょっと大変だね」
「ね、寒いしね」
「もうすぐ4月なのに」
「お花見はもう少し先になるかな」
「あ、駅の向こうの公園、今年もライトアップするんだって」
雨の日の散歩は嫌いじゃない。雨は雨で楽しいし、個人的にはむしろ好きな方だけど。なんだか今は遥に抱き寄せられた体を、そのまま彼に委ねたい気分だった。
「りんちゃん?」
「うん?」
「エプロンとってもいい?」
「あ、そうだった、ありがとう」
腰に巻かれた紐が解かれ僅かな圧迫感がなくなる。外されたエプロンはそのまま遥の手によって棚のフックに引っ掛けられた。それが揺れるのを目の端で捉えた瞬間、腰を抱かれ体が浮いた。
「、遥?」
「ん」
「あ」と思う間もなくシンクの淵に乗せられ、つま先からスリッパが落ちる。触れた遥の鼻先は少し冷たくて、それがなんだかひどく愛おしくて、それから、“キスしてもいい?”と伺うような目に射抜かれ、反射的に顎を持ち上げていた。
「凛太郎、」
「、ん…」
雨の音に紛れて、どこかで小さな子供の笑い声が聞こえる。
長靴を履いて、カッパを着て、飾りのような傘を片手にこの雨の中を歩いているのだろうか。まおが小さかった頃、雨の日に手を繋ぐのが好きだった。濡れてしまうけれど、それさえも楽しかった。そんなことをふと思い出し、重なった唇の端から笑いが漏れた。
「うん?」
「ううん、ふふ、なんだか」
「ん、」
「悪い大人になった気分、だなって」
「え、俺悪いことしてる?」
「あはは、そうじゃないよ、そうじゃないけど…」
遥は出会った頃と変わらず格好良くて、けれど表情はあの頃のまま分かりやすくて可愛くてたまらなく愛しい。歳を重ねるごとに小さな変化が現れて、僕らはそれを見つけあっては共有しあって、たまに自分だけの秘密にして、そうやって積み重ねられてきた今の遥はどこをどう切り取っても大人の男の人だ。僕を抱き寄せてキスをして、このままベッドに行きたいなと上手に目で誘ってくれる。合意するように顔の角度を変え唇の重なりを深くした僕を、遥はしっかり抱きしめ直すとそのまま子供でも抱っこするように抱き上げ、寝室へ向かった。
Reにてメールお返事してます
ゆるゆるっと長くこのサイトを続けてきましたが、拍手やメールでメッセージをもらえることは今も昔も一番嬉しくて感謝の気持ちでいっぱいです;;自分以外の誰かが私と一緒に我が家を見てくれているんだなって思える心強さみたいなものも感じますし、それを伝えるという作業をこのサイトのために時間を割いてしていただけることが本当に嬉しい…拍手コメントはメモでお礼を書いてしまっていますが(全て見ておりますが全てにお返事ができていない場合もあるかと思います…すみません…)、本当に本当に嬉しいです😢
真面目なことを書きつつ、このあとご飯まで遥かと凛太郎は仲良しの時間なんだなって浮ついた気持ちがちらちらしているのでちょっと引っ込めますね(?)
やっと春がきたかと思えば寒の戻りで体調も崩しやすくなっていると思います…皆様どうかお身体ご自愛くださいませ…🙇
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