×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -




Clap





拍手ありがとうございました。
誤字脱字のご報告、コメント等なにかありましたらどうぞ。
(「女性向け同人のネットマナー」を守ってお送りください)

下に行くと、拍手お礼文があります。






拍手お礼文 【五条】【宿儺】【伏黒】【虎杖】

タイトル「口紅、付いちゃったね」でSS4本

【五条悟】
正直、化粧云々のことは僕にはよくわからない。女の子からすれば重大なのだろうけれど、どれを使ったとか今日は何色をだとか、そんなもの興味もない。はずだった。

「あれ。今日のリップ変えた?」
「え。悟くん引くんだけど」
「ひどいな」
「ごめんて。でも、うん。変えた。春だし」

へえ、と適当な相槌を打つ。確かにもうすっかり春なのは知っていた。けれどそうか、春だから彼女の新しい一面が見られたのか。少しだけ得した気分だ。

「悟くん、私になにかついてる?」
「ううん。リップ、似合ってる」
「いや、だからほんと、なに?」

なに、って言われてもなぁ。
彼女は僕を『悟くん』と呼ぶ。それは僕らが幼なじみだからだ。だから僕は、彼女のどんな些細な変化にも気づく。なぜなら僕にとって彼女は、唯一無二だからだ。

「ねえ、甘いにおいもそのリップ?」
「え。そこまで分かるの……」

すす、と彼女が僕から離れていく。
うん、確かに今のは自分でも引くかな。そんなことまでわかってしまうのは、僕が彼女を好きだから。だからもうこれは、致し方ない。

「ね、味見させてよ」
「……は? んっぅ!?」

幼なじみ、同級生、同期、同業者。
僕らの関係はずっと、小さい頃からずっと変わらなかった。それがもどかしくて辛くて、だからもう、こうする他に思いつかなかった。

「ぁ……」
「ん。甘い」

唇をくっつけて彼女の口紅を舐めてやった。彼女の口の周りは口紅でぐちゃぐちゃに汚れてしまって、おかしくなって笑ってしまう。

「な、笑うとこ!?」
「いや。君こそ、第一声それ?」

もっと、罵るとか軽蔑するとか、ビンタするとか。そういうことを予想していただけに、拍子抜けした。

「だっ、て。わたし」
「もしかして君も僕のこと好きだったりする?」
「君『も』?」

分かりにくいのはお互いさまのようだ。僕は玉砕覚悟で行動を起こしたというのに、まるで彼女の気持ちが分からなかった。

「……口紅、付いちゃったね」

彼女が気まずそうに僕の唇を指さす。

「どこ? とって?」
「ん。動かないでね?」

顔を突き出すように彼女に近づければ、僕の唇に触れたのは彼女のハンカチでもましてや指でもなく、ふっくらと柔らかく湿ったそれだった。

「……君ってさぁ」
「仕返しだよ?」
「ほんと、読めない幼なじみだよね」

僕の唇も彼女の唇も、きっと彼女の口紅でぐちゃぐちゃだ。ならばもう、ここは口紅の色が消えてしまうまで、お互いの唇を食べ尽くすのみだ。
彼女との初めてのキスは、そんな鮮烈な味だった。



210418


【宿儺】
彼は不思議なひとで、そしてよく、私たちは人目を忍んで逢瀬を果たす。宿儺と私の間には縛りがある。それが、私は宿儺の動向を誰かに知らせることが出来ないというもの。
その縛りを結んだのは、私が任務で瀕死の傷を負った時だ。私は宿儺の気紛れのお陰で、今こうして生きている。

「宿儺」

逢瀬は決まって夜の三分間。宿儺は虎杖くんとの間にも縛りを結んでいる。だから、三分間。

「小娘……」
「どうかした?」
「……」

こうして人目を忍んで会うのはもう何回目かも分からない。今日の私は少しだけおしゃれをして、化粧もしている。まるでデートにでも赴くようなそれだった。

「ほう」
「な、なに」
「馬子にも衣装だな」
「酷いな――んっ!」

唇には宿儺からもらった紅をさした。『紅』という響きが好きだ。宿儺はリップを『口紅』ではなく『紅』と呼ぶ。だから私は宿儺が生きた時代のことを少しだけ調べた。紅をさす、という言葉はそれで知った。素敵な表現だと思った。

「っぁ、すく、な……」
「よいよい」

この紅は、なにを隠そう宿儺からもらったものだった。前回の逢瀬で突然渡された、次からはそれで来い、その言葉と共に。
だというのに、宿儺はせっかく綺麗にさした私の紅を舐めとって、ぺろり、と舌なめずりをしている。

「……口紅、付いちゃったね」

名残惜しさと寂しさから、私の唇から紅を奪った宿儺の唇に手を伸ばす。しかしその手は宿儺の唇に触れることはなく、私の手は宿儺に握られていた。

「少しずつ返してもらう」
「……? なにを?」
「……俺が貴様になにかを贈ると思ったか?」

そこでハッとして、私は宿儺から目を逸らした。はじめからそのつもりだったに違いない。
少しずつ返してもらう、というのはきっと、紅のことだ。

「わ、私、もう付けてこな……んっぅ!」

有無を言わず宿儺がまた私の唇を奪う。いや、奪われているのは紅だ。
宿儺はきっと、私をからかってたのしんでいる。私がのこのこともらった口紅をさしてきて、どれだけ愉快だっただろう。
それでも。

「言われなくても、最後までちゃんと返す」
「ほう」

ケヒ、ヒヒ、と独特の笑いを漏らしたかと思えば、宿儺はまた、私の唇を甘噛みした。

「まだ残ってるな?」

ああ、本当に趣味が悪い。そんなに返して欲しいなら、こっちから返してやる。
私のほうから宿儺に口付けてやれば、愉しそうに宿儺が唇を引き上げるのがわかった。


210418


【伏黒恵】
悩みに悩んだ挙句、彼女に渡した誕生日プレゼントは口紅だった。彼女に言わせれば「口紅じゃなくてグロス」だそうだが、俺にはその違いが分からない。
けれど分かることもある。彼女の唇を彩るそれが、俺からのプレゼントに変わったということだ。

「あ。伏黒くん」
「……」
「あれ? 私になにかついてる?」

話しかけられるも、どうにも答えられなかった。彼女のふっくらと艶やかな唇に釘付けで、まるで言葉なんて浮かんでこない。
口紅ひとつでこんなにも変わるものなのか。それとも、俺が意識しすぎているだけか。

「伏黒くーん?」
「……悪い」
「え……? んっ!?」

自分で贈っておいてなんだが、これは毒だと思った。彼女の唇は男を惑わす甘い蜜のようで、嫉妬した。
拭ってやれば済むものを、体が勝手に動いていた。
まるで吸い寄せられるかのように、彼女の唇を食む、そしてその艶を色を舐めとった。
独占欲のままに、彼女に塗られた毒を食べて、息するいとますら与えない。ダメだ、全部、全部消してしまわなければ。

「っは、ふしぐろ、く……」
「悪い。その口紅、もう使うな」
「……似合わなかった……?」

不安げに聞く彼女に、どう答えたらいいのか分からなくなる。ありもしない勝手な妄想で嫉妬した、なんて説明できるはずもなく、ただ目を泳がせるばかりだ。

「……口紅、付いちゃったね」

彼女が親指で俺の唇を拭った。その手を咄嗟に握りとり、口紅を拭った親指を口に入れる。最後に柔く甘噛みして、

「俺以外に……オマエの可愛い姿、見せたくない……というか……」
「……! そ、そっか……!」

すべてを察した彼女が、頬を赤く染めている。いつまでもうぶで可愛らしい彼女の、そういうところが心底好きだ。

「俺の前だけにしてくれ」
「……! うん! わかった」

彼女には言えなかったが、彼女があの口紅を使ったらきっとまた俺は、彼女の口紅を取り去りたくなるなのだろう。



210418


【虎杖悠仁】
今欲しいものは? と聞かれて、新色のリップかなぁと答えたのがつい先日のこと。
まさか昨日の今日で本当に私の欲しいものを買ってきてくれるなんて、私の彼氏は末恐ろしい。

「お金払うよ」
「いや、だから言ってんじゃん。プレゼントだって」
「でも、誕生日でもなんでもない日にもらうわけには……」

虎杖悠仁くん。一週間前に私の彼氏になったひと。
七日前までは『虎杖くん』と呼んでいたけど、今は『悠仁くん』と呼んでいる。
そんな悠仁くんがなんの脈絡もなく私にプレゼントをくれるものだから、どう断るか私は悩んでいた。

「やっぱ要らなかった?」
「や……欲しい、けど」
「ならもらってよ」
「でも、なんで?」

これが誕生日やクリスマスならまだわかるのだけれど、なんにもない日に渡されてしまうと、申し訳なさで素直に受け取れない。

「いいから。付けてみなよ」
「ええ、今?」
「今」

なかば強引にリップを渡される。包装を慎重に外して、中から出てきたリップを見れば、自然と頬が緩んだ。可愛い。

「……あれ?」

黒いリップをくるりと一周見渡せば、金色の文字が刻まれている。

「え、私の名前、入れてくれたの?」
「あ、うん。なんか無料だったから。余計だった?」
「えー、嬉しい」

私だけのリップって感じがするし、なにより悠仁くんからもらった世界にひとつだけのものって特別感がある。
嬉しさに任せてリップを開けてクルクルと中身を出して、唇に塗った。うん、伸びもいいし潤う感じもいい。色はどうかな。

「どう?」
「うん。めっちゃ似合ってる」

悠仁くんが褒めてくれたのが嬉しくて、鞄から鏡を探し出す。しかし、ガサガサと鞄を漁る私の手を、悠仁くんが握った。

「悠仁く……ぅんっ!?」

ちゅ、と触れるだけのそれだった、私たちの初めてのキス。
悠仁くんが照れくさそうに人差し指で頬をかいている。

「えっと、その」
「悠仁くん?」
「……ほ、ほら。あれ。なんにもない日にプレゼントを受け取れないって言ってたから……リップの代金」
「……あ、ああ、そっか」
「うん、そう……」

気まずい。
明らかに後付けの言い訳だ。悠仁くんの顔は真っ赤だし、悠仁くんはプレゼントに代金なんて要求するようなひとじゃない。
キスした言い訳だとしても、無理がありすぎる。

「ふふ」

思わず笑えば、悠仁くんがムッとして私を見た。

「餓鬼っぽい言い訳だって思った?」
「ううん、違うの」

私は悠仁くんの頬に手を当てて、親指で唇を撫で付ける。

「口紅、付いちゃったね」
「……! どこ?」
「取ってあげる」

なるべく痛くないように、悠仁くんの唇から色をぬぐい取る。悠仁くんはその間、大人しくされるがままだった。その様がまるで子犬のようで可愛らしい。

「ん。取れた……んぅっ」
「っは。ね、また付いちゃったから取ってよ」

ちゅ、ちゅ、とキスをして、悠仁くんがわざと自分の唇を汚していく。せっかく綺麗にしてあげたのに。甘えただな。仕方ないな。

「もう、キスするならリップ落とすから」
「ダメ! すげぇ似合ってるから落としちゃダメだって」
「えー、でも、このリップ付けてたらまた悠仁くんキスするでしょ?」

笑いあって、キスをして。
リップが消えるまで私たちは唇を重ね合って愛し合った。


210418