拍手ありがとうございます



「燐〜☆」
むぎゅ。
ダイビングアタックしてきた機工人形は燐の身長をゆうに超えている。
つまり、デカイ。しかも細身に見えて意外とがっしりした体格をしている。
いくら丈夫な燐でも支えきれるものではない。
結果、燐は勢いよく後ろに倒れた。
「燐、大丈夫ですか?すみません。あまりに嬉しくって、はしゃいでしまいました、てへ☆」
すぐさま燐の上から飛び退いた人形は満面の笑みで仰臥する燐に手を差し伸べる。
躊躇なくその手を取り強い力で引き起こされながら燐はむくれた様に唇を突き出す。
「てへ☆じゃねぇよ、このアホピエロ」
「怒らないでくださいよ。燐が悪いんですから」
「なんで俺が悪いんだよ」
「燐が私を置いていくからです」
琥珀色の瞳は真なる光を得てきらめく。
その目に凝視されることが苦手な燐は視線を外しながら口ごもった。
だって仕方なかったのだ。
この人形はでかいし、燐に首っ丈で。
何処に行くにもひよこのように付いてくる。
燐に少しでも危害が加えられれば、手がつけられないほどの力で暴れる。
そんなわけでギルドに顔を出す際に燐の機工人形は出入り禁止になっていた。燐が所属しているギルド正十字騎士團は『悪魔』と呼ばれる主を失った機工人形を狩る仕事を請け負う。
機工人形とは魔術師が錬金術で作り出した人間とほとんど違いのない人形だ。
心臓に魔術師の血を魔術文字に変換して刻み込んでいる。
そのため主人である魔術師が死ぬと魔力の供給が途切れて動かなくなるのだが、稀に他者の魔術力を奪取して暴れる人形が現れる。
便利な人形は人間よりも力が強い暴れる人形を壊すのは、やはり機工人形なのだ。
「ところで、仕事はありましたか?」
「ロクなのなかった・・・」
「それは残念でしたね。取り敢えず宿屋に戻りますか?」
「その前に・・」
先程から不穏な視線を感じていた。
大通りの真ん中ででかい白マントの人形が騒いでいるからだと思っていたが、どうやらそういうわけでもないらしい。
「燐、場所を変えましょう。ここでは仕掛けにくいです」
ニコニコと満面の笑みを浮かべている人形に燐は溜息をついた。
「殺すなよ」
「それは相手の出方次第でしょう。久しぶりです」
長い舌で唇の渇きを潤すその仕種が肉食獣の舌なめずりを思わせる。
血を見るのは明らかだった。
「ギルドの上役に怒られるのは俺なんだぞ」
「私は燐が不足していてストレス溜めてます」
原因は燐だと嗤う人形は白いシルクハットのつばをつまむ。
「ギルドに行くとまたお前を置いてくことになる」
「・・・りぃぃぃん」
情けない声を出して今にも泣き出しそうな人形は、殺気が霧散していた。
「取り敢えず行こうか」
「はい☆」
スキップでもしそうな人形に引きずられながら、燐は再び溜息をつく。
なんとなくまた官警に拘束されそうな気がする。
殺気を放つ気配は一つではない。
この商売をしていれば恨みを買うこともある。
燐が義父から受け継いだ人形は加減を知らない。
・・・というか、燐のいうことを聞いてくれない。
半人前の魔術師である自分には高位すぎるのだ人形が。
白い悪魔と呼ばれる人形を使役する半人前の魔術師は、この界隈で有名になりつつある。


2013/10/20

コメント:
秋の新番組見てたら『機工少女は傷付かない』のややちゃんが可愛くて。アレくらい燐に懐いているメフィストって面白いかもと思ったので書いてみた。長らく拍手を変えていなかったので。久々の更新です。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -