面白いんだからいいじゃないか
2013/10/14 22:25

理事長室はなぜかコスプレと言われれば納得してしまいそうな魔導師的なローブに身を包んだひょろりとした青年が立ち竦んでいた。彼は途方に暮れていた。
扉を開けたら、豪奢な設えの一室にピエロのような白い服の男が書類にサインをしていた。大地人にしては垢抜けた物腰の男をまじまじと検分していた青年は、視線を上げた男と目があった。目が合った途端に背筋がぞっとした。頭の奥で危険信号が鳴りっぱなしの状態。『コノオトコハキケンダ』と明滅している。男はつまらなそうに視線を外し、隣りで硬直している黒い人影に話しかけた。

「で、この丸眼鏡の目つきの悪い三白眼の男はなんだ?」
あ、シロエだ。シロエですよ、理事長。
な、な、な、なんで、ここにシロエがっ。
がくんがくんがくん。
「く・・首が痛いですよ、・・・管理人」
は、失礼しました。あまりの状況に興奮してしまいました。
「で、この男はなんですか?」
「あのー・・・僕はなぜここにいるんでしょうか?」
ひゃー、シロエが、シロエが喋ったーっっっ
「そりゃ人間ですから喋るでしょうよ。わかりました、コレは貴様の知り合いということだな」
いやいや、知り合いだなんて。もじもじもじ。
「気色悪いから、そのくねくねするのを止めろ。貴方も突っ立ってないで応接セットの方にどうぞ」
「あ、どーも」
理事長、理事長、どうしましょう。
「何をだ?」
シロエ、なんでここにいるんでしょう?
「それは私がお前に訊きたい事なのだがな」
ぱちん。
理事長・・身体、動かないんですが・・・。うぐぐぐぐ。
「とりあえず、コレは役に立たなそうなので質問いたします」
「はぁ・・・」
「貴方のお名前は?」
「ギルド『記録の地平線』、ギルドマスターのシロエです。ここ、ギルド会館ですか?」
「違います。ここは私立正十字学園理事長室です。私はこの学園の理事長、ヨハン・ファウスト5世と申します」
「ご丁寧にどうも。・・・フェアリーリングを使ったわけでもないのにどこに出たんだ?」
「独り言、丸聞こえですよ。シロエくん」
「はっ・・・失礼しました。あの・・・ここは一体・・・」
「貴方の言葉を測る尺を分かりかねますが、ギルド、ギルマスという単語から類推するにネットゲームでのハンドルですか?」
「はい。MMO『エルダーテイル』・・ご存知ですか?」「私は専らギャルゲと格ゲですので申し訳ない」
「はぁ・・・ここは・・・現実??」
「面白い表現ですね。まるでゲームの中にいたかのようですな」
「そうです。居たんです。ここは日本ですか?」
「はい。日本です。ただし、貴方の居るべき日本ではない」
「・・・それは・・」
「多重次元世界、並列宇宙のひとつです。あなたはこの世界の人間ではない」
「・・そ・・・んな・・」
「お帰りなさい、自分のあるべき世界へ」
ぱちん。
動いたー。首、痛い。
「取り敢えず、たまに呼び出されてみれば、なんなんだ貴様は」
シロエ消えちゃったー。もっとお話したかったのに・・・
「出来もしないことを口に出すな。それよりも、管理人。この落とし前はどうつけるのだ?」
は?なんですか?落とし前って。
「つける気なしだな。よし。いいだろう」
や、待って。理事長、その猛禽類の眼、すごく怖いんですが。
ひゃっ・・・。痛い痛い痛い。
「痛いだけで済ますか、この痴れ者が」
ぱちん。


その日、理事長室からか細く長い悲鳴が聞こえたと燐が言っていた・・・。



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