買い物の帰り、たまたま通りがかった河辺で一羽の鳥がいた。

しかし、違和感を感じて小鳥に近づいてみる。
すると小鳥は釣糸が足に引っ掛かったのか、飛び立てずバタバタと忙しなく翼をはためかせていた。
このまま放っておけば怪我をして飛べなくなってしまう。



エルザは荷物を下ろし、ゆっくりと小鳥の足に絡まった釣糸をほどいていく。

小鳥は怖がって騒ぐかと思ったので慎重に触れたが、静かにされるがままになっていた。
そのお陰か、思いの外早く糸が解けた。



「もう引っ掛かるんじゃないぞ」



掌に乗った小鳥にそう告げると、小鳥は返事でもするかのように軽く親指をつついて飛び立った。

夕空に飛び行く小鳥は、どこまでも真っ直ぐな青色をしていて、ふとあの人の髪を思い出させた。



「ジェラール…」



青空のような、綺麗な髪をした彼は、今どこで何をしているのだろうか。

名前を口にするだけで、胸がきゅうと苦しくなる。

苦しいけれど、嫌ではない。
かえって心地が良いのだ。


名前を口にし続ければ、忘れることも、存在を消すことも出来ない。
でも紡ぎ続ければ、ずっと、ずっと彼を感じて生きることが出来るのだ。

忘れてはいけない、大切な、大切な思い出。
ずっと胸にしまって、大事に大事に鍵をかけて…。



「ジェラール、愛してる」



この想いも一緒に仕舞いたいけれど、仕舞いきれなくて、こうやってたまに吐き出すのだ。


誰にも聞かれず、知られることもない。

自分だけの秘密。



見上げれば、頭上にはまだあの小鳥がいて、丁度頭上あたりを旋回していた。


あの鳥が、この想いを伝えてくれないかな、なんてありもしないことが頭を過って、思わず苦笑した。






  ひとりぼっちの君に告ぐ


   私は貴方を愛しています















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