ジェラールが釈放されて1ヶ月近くがたった。
何事もなく平穏な毎日だが、確かな幸せを感じて過ごす日々。
そんな日々に、エルザは満足していた。
何よりも、彼がいるだけで嬉しいのだ。
満足しないはずがない。
しかし、たまにだがこんなに幸せでいいのだろうか、などと思ってしまうことがある。



「いいのよ。エルザはもっと贅沢して、我儘を言って、ジェラールと一緒にいて。今まで苦労して泣いた分幸せにならなくちゃ」



ルーシィはそう言って、ストローからちゅーとジュースを吸い上げた。
そんなルーシィにエルザは眉根を下げてみせるが、ルーシィはみかねて、呆れ気味に口を開く。



「幸せ過ぎて不安だなんてそれこそ幸せな証拠よ。羨ましい限りだわ」
「そうですよエルザさん。好いた人と一緒に暮らせるなんて夢のようです」
「すっ…!?」


今まで黙っていたジュビアも顔を上げて羨ましそうに頬を膨らませる。



「私なんか、どんなにアタックしても振り向いてすら貰えないのに!」
「ジュビアはアタックが強すぎるのよ。もう少し引いてみたら?押してダメなら引いてみろってね」
「むぅ…ルーシィさんにしてはまともなこと言いますね」
「なによその私がいつもまともじゃないみたいな言い方は…」



目の前で繰り広げられるとんとんと弾む会話。
だがエルザはそこに馴染めずにいた。


ジュビアの言葉が頭をぐるぐる回って占領しているのだ。
「好いた人」
それは、ジェラールのことだとは理解できる。
でも、ジュビアの話を聞く分には、自分がジェラールを好きだということになる。
確かにジェラールは好きだが、なんだがジュビアのいう好きとは違う気がするのは何故だろう。
それに、なんで「好いた人」と聞いただけでこんなに恥ずかしくなるのだ。
分からない。



「って、エルザ〜?固まっちゃってどうかした?」



フリーズ状態のエルザに気付いたルーシィがふるふる彼女の目の前で手を振る。



「ジュビア…」
「なんですか?」



しかしルーシィは無視して、エルザは緊張の面持ちでジュビアに視線を向けた。
眼中にすら入っていないルーシィは置いておいて、ジュビアは小首を傾げて考えた。
なんだろうか。
それに心なしかエルザが挙動不審に見える。



「私はジェラールが好きなのか?」
「………………。」
「………………。」



沈黙。
そして…



『はぁ?』



ルーシィとジュビア二人の声が綺麗に重なった。
思いもよらない質問に二人は顔を見合わせ小声で話し合いを始める。



「(これってまさかの自覚なし!?)」
「(ジュビアてっきり二人は既に恋人同士なんだと思っていました!)」
「(恋人どころか本人好きなこと事態気づいてないんだけどっ!?)」
「(どうしましょう…)」
「(どうするったって、本人自覚がないんじゃ…)」
「(てゆーかエルザさん…自分の顔が赤いことにすら気付いてない?)」
「(うわぁ…ある意味重症…)」



チラチラとエルザを盗み見ながら顔を寄せ合う二人にエルザは不機嫌気に首を傾げる。



本人は、超鈍感で気付いていないが。
二人にはわかっていた。

しかし、それをあっさり教えるわけにもいくまい。
第三者が入ると恋愛はこじれるものだ。
ここは、軽くヒントを出して手助けをするのが最善だろう。

二人は見つめ合い、お互いがっしりと握手を交わしたのだった。



「なんなんだ…」
















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