「エルザ、いつまでそうやってるつもりだ?」
「…………。」


返事をしないエルザにジェラールは深い溜め息を一つ落とした。
そして呆れ顔で一向にそっぽを向いてこちらを見ない彼女の背中に尚も話しかけ続けた。


「いい加減機嫌を直してくれないか?お前にそうされると俺がどうしたら良いか分からなくなる」
「…………。」
「なぁエルザ」
「…………。」


応答なし。
うんともすんとも言わない。


‐‐‐‐‐‐‐


事の発端はつい一時間前に遡る。
ジェラールの家にエルザがいきなり遊びに来たかと思えば
「何か欲しい物は無いか?」と問われ、特に思い付かなかったジェラールは「ない」と答えたのだ。
それでもエルザは引かずに何かしらあるはずだ!!、と更に詰め寄る、がやはりジェラールとしては欲しい物など存在しなかったためきっぱりと「ない」と断言したのだ。
今考えればそれが悪かったのだろう…。
あまりにもはっきりないと答えたものだからエルザがヘソを曲げてしまったのだ。
本音を言えばエルザだけがいればそれ以外に何も望まないのだが、言うタイミングを逃した。
今は何を言っても聞いてくれなさそうだし…。
どうするべきかと頭を悩ませる。
なぜいきなり、
欲しい物は無いか、なのか。
恐らくルーシィ辺りに感化されたのだろう。
恋人には贈り物をするものだとか何とか言って。
あながち間違いでもなさそうな推測をしながらジェラールはちらりと彼女を伺ってみる。
未だ背中しか見せてくれない頑固、というよりも意固地になっている彼女はまだこちらを向く気にはならないようだ。

ふと、緋色の髪が揺れた。
それと同時に肩も震える。

どうしたのだろうか。

ジェラールは心配になって声をかけようとしたが、そんな暇も与えられず、彼女の様子に目を見張った。


「え、エルザ!?」


気付けばひっくひっくといつの間にか目に涙を浮かべ静かに泣いているではないか。
まさか泣き出すとは微塵も思っていなかった。
静かに泣きじゃくってボロボロと目から涙を床に落とす彼女に驚いて、慌てて正面に回って真っ直ぐ前からジェラールは彼女の顔を覗いた。


「エルザ、どうしたんだ?」


逃げるように目を反らして顔を背けようとする彼女の肩を逃げられないように掴んで正面から見据える。
すると観念したのか涙声でエルザが訴えるように涙の訳を話してくれた。
「ジェラァルが、いらないって…何にもいらないって…私にはっ何にも求めてくれないっ…!」
「………」
「私はっ…いつもジェラールにったくさん貰うからお返し、したかった、んだ…でも…ジェラールは何も求めてくれない…」


私には、何も求めてはくれないんだな。
だから、悔しいのか悲しいのか、彼女は泣いているのだとやっと理解した。


「………………」


なんだか、場違いとは思いつつ幸せな気持ちになって笑ってしまった。
すると怪訝な顔でほとんど睨むように真っ赤な目で見上げてくるエルザ。
あぁ…そうか。
彼女は、俺の事で悩んで泣いているのか。
想ってもらっている。
そう考えたら嬉しくて仕方がない。
どうしようもなく彼女が愛おしくてたまらなくなった。
思わず睨み付けてくる彼女を抱き寄せかたく抱き締めてしまう。
いきなりのことで反応出来ないでいるエルザをよそに、ジェラールは彼女に胸の中の幸せを噛み締めるように、語りだした。


「エルザ、俺はね。いらないんじゃないんだ。もう既に欲しいものを持ってるんだよ」
「…?」
「そう。たくさんの幸せや日常を俺にくれる、大切なものを俺はもう持ってるんだよ。だからさっきはいらないって言ったんだ」


“欲しいものは此処にある”


「………え?」
「俺は、もう君を、エルザを手に入れてる。だから他には何もいらないんだよ」
「や、安上がりだぞ!!」


ボッと音がなりそうなくらいな勢いで顔を真っ赤にさせたかと思えば小さくそう呟いたエルザ。
照れ隠しだとわかるその台詞さえ愛しいと感じた。


「俺はお前さえいればいい」


そう、欲しいのは君だけ。
















‐‐‐‐‐‐‐‐‐
後書き
前サイトにて行われた二万打企画にて兎季様にリクエストもらいました
ジェラエルです
相も変わらずジェラエルですが管理人はまだまだジェラエル熱が下がりません( ̄▽ ̄)
そしてただエルザを泣かせたかったんです←

兎季様リクエストありがとうございました
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -