「ジェラァァァァアルゥゥゥゥゥゥウウ!!!!!」



ガスッ…ッ!!


と、鈍い音がギルドの中に響いた。
一瞬にしてできた静寂。

エルザは今しがた目の前で起こった光景に目を見張り呆然としていたが、我を取り戻すと彼を殴った張本人の胸倉を掴みかかった。



「なにをするのだナツッ!!」
「やめろエルザ」
「でもっ…!」
「こうなることは分かっていた」
「ジェ、ラール…」



ジェラールの力強い声に動きが止まった。
後ろを振り返れば少し寂しいような表情をしている彼がいる。

力なくナツの胸倉から手を離したエルザは項垂れて、悔しくて唇を噛み締めた。


何故止める。

そんな感情が心に渦巻いている。


そこへ慌てたようにルーシィがナツとエルザの元へ来た。




「ちょっとナツ、そんないきなり殴らなくても」
「これはエルザを泣かせた分だ。そんでもって!」
「ちょっとナツッ!?」



ルーシィが止めるのも聞かずナツはまたジェラールに殴りかかろうとする。
エルザは反応が一歩遅れてナツを止めることができない。

今の彼は殴られようが何をされようが何の抵抗せず受け入れるだろう。

そう思って、彼が殴られるのをなんとか阻止しようと覚悟した矢先。



「二発目は受けない」



パシッ!

ナツの拳がジェラールの掌によって止められていた。


エルザは驚いて声も出せない。
他の皆も同じようで、ただ黙って二人を見ている。



「一発目は今までの分だと解釈して受けたが…。二発目は喧嘩を吹っかけてきたと判断した」
「フッ…よくわかってんじゃねぇか」



ジリジリジリジリ…。
二人の鋭い視線が交錯する。
いつまでそうしていただろうか。

不意にナツがふにゃっと今までと打って変わって笑顔になった。



「入れよ。俺達のギルドに」
『ようこそ妖精の尻尾へ!!』

「・・・・え?」
「・・・・は?」


ナツの言葉を合図にしたように、ギルドにいた誰もが笑顔で拍手する。


エルザとジェラールは思わず互いの顔を見合わせた。



「ジェラールがいねぇとエルザが悲しむんだから入れよ!」
「てゆうかエルザが元気ないとか有り得ないから。第一誰がナツとグレイの喧嘩を止めるって言うのよ」
「アンタはエルザの傍にいてやんねぇといけねぇんだよ」


ナツ、ルーシィ、グレイの言葉にギルドのメンバーがそうだそうだ!とカラカラ笑う。



「それだけの、理由で・・・入ってもいいのか?」



エルザのために。


たったそれだけ。たったそれだけだけれど、とても幸せな理由で。




「お主はエルザをまた悲しませたいのか」
「そんな事は死んでもしない!」



2階からかかった重圧のある声にとっさに答えて、ジェラールは驚いた。



「マスターマカロフ…」
「死んでも悲しませない、か。ならばこのギルドに入れ。更生するんじゃろ。だったらばここに居んか。エルザの直ぐ傍でその姿をみせんかい」



怒鳴らない、だけれども確かに重みと威圧のある声に、思わず胸が熱くなった。




「あ、ありがとうございます!」




幸せだ。
なんて幸せなんだろうか。

ここの人達は皆、優しくて温かくて、どこまでも真っ直ぐに生きている。
自分もそこの一員になれるのだ。

それも、彼女の直ぐ傍で。



「マスター私からもお礼を言わせて頂きます!本当にありがとうございます!」
「なんじゃ。お前が辛気臭い顔をするのは似合わんしな」



ニカッと笑ってピースをするマカロフに、ジェラールとエルザは顔を見合わせて微笑んだ。










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