「おーい野ばらちゃん」
「………なに?」
「爪噛んでる」
名前を呼ばれ、面倒なので声だけで返事をすると思わぬ指摘に一瞬でハッとした。
またやってしまった…。
「本当に爪噛む癖直んないよねー」
「……………。」
反ノ塚の真っ当な指摘に反論出来ず押し黙る。
癪にさわるが本当のことだから。
映画鑑賞や読み物等をして片手が空いてしまうと、手持ち無沙汰なのか口が寂しいのか、ついつい爪を噛んでしまうのだ。
しかも無意識の内にやっているのでこうやって誰かに言われるか、読みわった後にならないと気づかない。
「あぁ、もう爪がたがた…」
そして気がついた時にはもう遅く、爪は欠けている。
強く噛むわけでも、噛みちぎるわけでもないからそこまで酷くはないが、やはり小さく欠けて不格好になってしまうのだ。
無くしたい癖なのに、なかなか治らない。
「爪きれーなのに勿体ねぇな」
「?」
いつの間荷やら側にやってきていた反ノ塚が、彼女の手をとって爪をなぞる。
一瞬どきりと胸が跳ねたが、野ばら気づかないふりをしてすぐに手を引っ込め何すんのよと睨み付けた。
「私だって嫌よ。この癖」「あ、じゃあさ」
飄々と笑う彼はおもむろに立ち上がり、がさごそとキッチンから何か探して持ってきた。
それを何かと確かめる暇なく
「口開けて?」
「は!?」
意味わかんない、と言う前に口の中に何か入れられた。
固くて表面がツルツルして甘いそれは紛れもなく飴で。
ついでに左手も隣に腰かけた彼に拘束された。
「どう?」
「なにがよ」
「これで爪噛めないっしょ」
確かに、口には飴。
左手は反ノ塚に捕まってるこの状態ではムリだろう。
しかし右手で本を持つためページを捲れない。
「いいよ俺捲るから」
「いちいち捲ってって言うの嫌なんらけろ」
飴のせいで滑舌が上手く回らないが会話に支障はないから別に気にしない。
「大丈夫大丈夫。ちゃんとタイミングよく捲るから」
ほら、と復職の資料を右手に持たせてくる彼。
何故だか珍しく、まぁいいか。
なんて思って、密着した部分から体温が伝わって、柄にもなく心地良いとか思ってしまった。
飴玉の荒療治
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こんな野ばら姉さん可愛いっす
反ノ塚は滑舌回らない姉さんに内心ドキドキしてたらいいよ!
本当は自分の癖だってことは内緒w