目の前にある背中から鼻歌の振動が伝わってくる。その旋律はとても楽しそうで何故かつられてしまいそうになるけれど、この微妙に演歌っぽいメロディはたしか俺の日本海とかいう曲だった気がして自分にはハードルが高すぎた。

「リョーマくん!夜風が気持ち良いね」
「うん」
「しっかり掴まっててね」
 お風呂も入ってカルピンと全力で遊んだからもう寝ようと思っていたのに。それなのに、いきなり押し掛けてきた不二先輩にドライブに誘われ(自転車だけど)夜の街を走っているというのが今の現状。
 ちゃんと髪は乾かさなきゃ駄目だよ、と言われドライヤーの熱風に当てられていたので出発は少し遅れたけれど。
「僕、春って好きなんだ」
「ふぅん」
「自転車漕ぐのも好き」
「へー」
「夜も好き」
「じゃあ今って好きなものだらけじゃん」
「うん、でもね」
 言いながら後ろを向いてきた。優しく笑うから。心臓に悪いったらない。
「ちょ、前見ろよ」
「一番好きなのは君なんだよ。君がいるから今、この瞬間がもっともっと好きになるんだ」
「わかったよ!だから前!」
 大分慣れたとは言っても面と向かって言われる『好き』はまだまだ恥ずかしくて。けどやっぱり嬉しいから。ぎゅっと腕を回して顔を背中に押し付ける事で俺の気持ちを伝える。
 一瞬握られた手が夜なのに熱い。でも、気持ちいい。
「ねぇリョーマくん、キスしたい」
「…後でね」

 俺も同じこと思った、なんて言ってやんない。










 

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