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『空…。』
こんな風に不安になったのは初めてだった。
今までどんなことが起きたって、動じることなどなかった。
親や姉との喧嘩で腹を立てることはあっても、何かを悲しいとか可哀想とか、ましてや不安などという感情は、いつもどこかにしまい込んだように何も感じることなどなかったから。
不安で高鳴る心臓を無理矢理抑えつつ、こちらに背を向けたままの空に右手を伸ばす。
この感情も、伸ばしたこの右手も、その意味を知るのはまだ少し先のこと…。
『…空?』
もう一度空に呼びかけると、少し肩を震わせこちらに振り返った。
『ごめん、少し考え事してた…。』
『そっか…。』
空はさっきまでここにいなかった。
正確に言えば、ここじゃない何かを見ていたのだろう。
また自分の知らない空を見てしまった気がする。
空はもう一度こちらに背を向けると、少しだけ振り返り、おいでと手招きをした。