宿泊研修。修学旅行とは違い、観光地に遊びに行くわけではないが、博物館を訪れたり歴史的建造物を見に街を散策したりして、それぞれレポートを書き、一泊してクラスメイトとの仲を深めて帰るという行事である。基本的に男女二人ずつ、4人一組の班を作って引率なしで動き、スケジュールどおりの時間までに帰ってくるようになっている。

「で、誰と組む?」
「決まってるよね!」

栞が配られ、班行動が必須であると知ったあと、お弁当を食べながら班決めのための作戦会議を開くマイフレンド高橋ちゃんと私であった。ここはどうしても組みたい相手がいた。

「ツッキーと山口くん」
「もちあたぼー」

私達はかたく手を握りあった。私はツッキーと是が非でも一緒の班になりたかった。別にこの研修をきっかけにどうこうなりたいなどという下心があるわけではなく、ただ単純に、ツッキーと組んだら楽しいだろうと思ったのだ。昨日久しぶりに話して思ったのだ、やっぱりツッキーと話すと楽しい、もっとツッキーのことが知りたいと。そしてこれはチャンスだ。

「まあ私は下心あって山口くんと組みたいんだけどね」
「えー!!!」
「バカ。うるさい。まあなんでもいいでしょ、利害が一致してるんだし」
「そうだけどぉぉ……」

高橋ちゃんは虎視眈々と、狙った獲物は逃さない系女子な気がしているので、ターゲットがかぶらなくてよかったなあと若干安心しているくらいだった。高橋ちゃんは神妙な面持ちで、目を光らせて言った。

「もう今から声掛けに行ったほうがいいね」
「えっ早くない?」
「あの二人、絶対人気だよ。月島くんはクールドライなイケメン枠、山口くんは親しみやすいコミュ力枠。速攻行ったほうがいいと思う」
「…………」
「異論ありそうな顔してるけど実際そういう認識なんだから、私に文句言わないでよね」

クールドライなイケメン枠、あの月島が????と思っていたら顔に出ていたらしい。クラスの女子はてんでわかっていないようだ。まあ、わからなくて良いのだが。
とにかく、そうと決まれば善は急げである。あの二人が購買から帰ってきたのを見つけると、お弁当を食べ終わることもなく立ち上がった私達。しかしそううまくはいかなかった。

「月島くん、山口くん、修学旅行の班組まない?」

待ち構えていたように女子が駆け寄り、すでに声をかけられているところだった。嘘でしょ。
あんぐりと口をあけて月島と山口くんを見つめる。こんなことなら昨日の時点で声をかけておくんだった…まあ班行動なんて知らなかったのだから仕方がないことだが。大航海時代ならぬ大後悔時代を迎えて高橋ちゃんと絶望の表情を浮かべていたところ、月島の声が聞こえた。

「悪いんだけど、先約があってさ」

先約というワードにさらなる絶望を抱えた。あいつら確かに人気のようだ。普通にほかの男子が可愛そうになってくる。肩をすくめる高橋ちゃんを心ここにあらずで眺めていると、月島と山口くんがこちらに向かってきた。かと思えば、近くの椅子を引っ張ってきてどかっと座り、言い放った。

「で、組むよね?」
「へっ」

とっくにそう話してましたよねとでも言いたげな表情で私を見下ろす月島は、まさかもうアテがあるなんてことないよね?と続けて言った。そんなわけはないが。

「え……知らないんですけど……え、今向こうの誘い断ってたよね?」
「どうせそっちから言われるだろうってついさっきまで山口と話してたんだよ」
「いきなり違う子から来てびっくりしたけどねー…そして断っちゃった手前、みょうじさんと高橋さんさえよければ組んでほしいんだけど……」

謎の自信に満ちた月島と、苦笑しつつ声を潜めて言う山口くん。高橋ちゃんと私は目を見合わせて、力強く頷いた。

「そのつもりでした!!」
「こちらこそよろしく!」

よかった、と安心したようにこぼす山口くんと、ヨロシクと小さな声で返した月島に二人して照れ笑いした。一方通行のコミュニケーションに思えていたが、案外そうでもなかったらしい。

「いやあ、それにしても、この子から月島くんにうざ絡みしてる絵面ばっかり見てたから、正直うざがってるんじゃないかと思ってたから、ちょっと安心したよ」
「た、高橋ちゃん……」

喜んでいる私にぐさっとくる一言を放つ高橋ちゃん。今それを聞いて、正直うざいよとか言われたら台無しである。さすがに月島もそこまで空気読めないことはないよね……と思いながらハハハと笑っていると、月島はきょとんとして高橋ちゃんを見た。

「うざかったのは否定しないケド」
「あれえおかしいな……ここは否定するところだよツッキー……」
「でもまあ……迷惑じゃなかったから。組んであげてもいいかなって」

月島と目があってどきりとする。ポジティブシンキングすぎてつまりわりと気に入ってたほうだと認識してしまいそうになる。反応に困って、えへへなどと照れ笑いしていると、何笑ってんのと椅子の足を蹴られた。怖い。

「絶対楽しい1泊2日になるよ!」

満面の笑みでガッツポーズをしたところで、まだお昼ごはんを食べ終わっていないことを思い出して昼食を再開したのだった。



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