この寮には、回覧板、なるものがあるらしい。少し驚いたが、まああっても不思議じゃないのかもしれない。寮なのだし掲示板とかを用意すればいいのにと思ったのは私だけなのだろうか。まあ、文句は言うまい。回覧板を渡しに、階段をのぼって一つ上の階へ。
ノックをすると、少し間があってからドアがゆっくりと開いた。

「はい、………えっ」
「あ、回覧板お届けにきました…って、えっ?」

辻新之助くんの部屋へお届けに来たのだが、私と視線があうなりばたんとドアを閉められてしまった。ええええ。私は笑顔のまま固まってしまった。な、なに、私何かしたっけ。辻くんとは話したことはないし、お互い名前だけ知っている状態だが、だからこそ何も身に覚えがない。とりあえず、回覧板どうしよう…と立ち尽くしていると、ぎぃ、と音を立ててドアが再び開いた。今度は少しだけ開いて、顔が半分しか見えない。えっこわ!

「……………あの」
「は、はい!私、もう知ってると思うけど苗字名前です、よろしくね。回覧板届けにきたの」
「…………辻です。その、…………あ、ありがとうございました」

それだけか細い声で言うと、回覧板を瞬時に受け取ってすぐにドアを閉めてしまった。え、何だったんですか。私嫌われてるのかな。首をかしげつつ、階段を降りようとすると、ある男性が階段を上がってくるのと出くわした。この人は、たしか二宮さんだ。クールな印象があり、ちょっと話しかけにくいイメージだ。ぺこりとお辞儀をすると、私がここにいるのが意外だったのか少し驚いた表情で私を見た。

「こんにちは、二宮さん」
「…こんなところでどうした、…苗字だったか」
「はい。えっと、回覧板を辻くんのお部屋にお届けに…」
「ああ…辻に会ったのか。渡せたか?」
「はい、ええと…いちおう」

眉を下げてそう言うと、二宮さんは何かを察したのだろう、ため息を一つついた。

「あいつは女が苦手だ。わかってやってくれ」
「そうなんですか…。大丈夫です、気にしてません」
「ならいいんだが。…辻は俺のチームの隊員で…まあ、直属の部下みたいなもんなんでな」

なぜ二宮さんが辻くんのフォローをするのだろうと少し不思議に思っていると、二宮さんはそれに気づいたのか説明を加えてくれた。知らなかった。というかいまだにボーダーの仕組みがいまいちわかっていないのだが。迅さんや加古さんに聞いてぼんやりわかっているのは、ボーダー隊員は小部隊に分かれていて、チームごとに動いて戦っているということ。二宮さんは小部隊の隊長をしているらしく、想像でしかないがすごく強そうだ。スマートにクールに次々倒してそう。その部下というなら、辻くんもそりゃもう強いんだろうなと一人考えていると、二宮さんが買い物袋からボトルを一本取り出して私に渡してきた。

「俺の部下が失礼な真似をした」
「ええっ、いや、お気になさらず!!」
「辻のことだから、目が合うなりドアを閉めたりほぼ会話できなかったりしたんだろう。よく言って聞かせておく」
「女性が苦手なら仕方ないですよ、少しずつ慣れてくれればいいですし!」
「…とりあえず、受け取ってくれ、恰好がつかん。ただのジュースだ」

そういわれては受け取るほかはない。はい、と言ってしぶしぶ受け取ると、そのジュースはジンジャーエールだった。謎のチョイス。しかしおいしそうだ。ありがとうございます、というと、礼はいいと言ってさっさと部屋にはいってしまった。辻くんに少しだけ申し訳ない気持ちになりながら、ジンジャーエールのふたをあけ、一口飲む。久しぶりに飲んだなあと思いつつ、今度こそ私も階段を降りて自分の部屋に向かった。








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