迅さんに案内してもらった部屋の中は確かに広々使えそうな間取りだった。聞いていたよりも広く感じる。これは嬉しい。嬉しいが寮なのだ。不安すぎる…と青ざめていると、大丈夫大丈夫、楽しい未来が待ってると謎の励ましを受けた。
ダンボールの荷物が届くのは今日の午後。それまでにお隣さんくらいには挨拶をしておこう。もうこうなったからには、ご近所づきあい本気出す。と謎の決意を固めた。
緊張しつつノックをすると、しばらくしてから足音が聞こえ、ガチャリと鍵を開ける音がした。

「ったく誰だこんなときに…って、……どちらさん?」

金髪刈り上げのチャラそうな男性が、薄い長袖一枚に迷彩柄のズボンというラフな格好で出てきた。キョトンと私を見ている。そりゃそうか、寮にはボーダー隊員しかいないはずだし、驚くのも無理はない。一見ヤンキー出てきたと思って身を強張らせたが、気を取り直してぺこっとお辞儀する。

「私、お隣の空き部屋に越してきたので、ご挨拶に来ました。苗字といいます、よろしくお願いします」
「……ああ、隣の空き部屋貸し出してたやつか!うお、マジか。まさか誰か来るとは思ってなかったぜ」

なんだか決まり悪い気持ちになりながら、引きつった笑みをこぼす。私だってこんなところに来るとは思ってませんでした。

「あ、あはは…寮って知らずに手続きしてしまいました…大学から近いので。春から大学生なんです」
「は?アホか!説明はちゃんと聞けよ!てか、大学って三門市立大学か。じゃ俺の後輩だな」
「え!本当ですか!」

ぱっと表情を明るくする。先輩というだけで気持ちが違う。嬉しくなりながら、いろいろお世話になります、と言うと、にやっと笑われた。

「おう、待っとけ。あと二人”先輩”連れてきてやっから」
「えっ」

そう言うなり、扉は開けたまま中に戻ってしまう。友達が二人来ているのだろうか。それより、見た目ヤンキーなのに思ったよりフレンドリーな人だ。よかった、とホッと息を吐く。そういえばお名前を聞いていない、なんて考えつつ中はあまり見ないようにしながら待っていると、さっきの人の後ろから低めの身長の男の人と、対照的なほどがっしりした体格の男の人が歩いて来た。

「待たせてわりーな。俺ら三人とも、三門市立大学三年、ボーダー防衛隊員。俺は諏訪洸太郎、隣だしまあわかんねーことあったら聞いてくれや」
「あの空き部屋に越して来たんだとな。よろしく頼む、同じ寮生の風間だ」
「…困ったことがあればこいつらを頼れ。俺は寮には住んでないからな。大学関係のことなら力になるぞ。木崎だ、よろしく」

三人は全く個性が違うように見えるのに、仲が良さそうだ。苗字名前です、よろしくお願いします、と頭を下げる。ご近所づきあいの極意は、第一印象だ。礼儀正しく挨拶しておかねば。

「…それにしても諏訪の隣部屋か…運が悪かったな」
「何でだよ!悪いこたねーよ!」
「タバコくさい、うるさい、ガラ悪い。最悪だな」
「ざっけんなもう部屋入れてやんねーぞ!」
「何だと。木崎、諏訪は飯はいらないそうだ」
「そうか、一人分減って助かる」
「オイ待て」

…とても仲が良さそうである。私は話についていけず取り残されていたが、噛み付くようにツッコむ諏訪さんに対して無表情でふざける風間さんと木崎さんの会話があまりにおもしろいので、ぷっと吹き出してしまった。すると、それを見た風間さんが諏訪さんに肘でつつく。つつく、という速度ではなかったが。

「…おい、笑われてるぞ諏訪」
「俺かよ。…えーっと、まあ、隣同士仲良くしようや」
「はい。よろしくお願いしますっ」
「おう。あ、もう片方の隣部屋には挨拶したのか?」
「いえ、まだです!この後伺おうと思ってました!」

すると、そうかと言いつつ諏訪さんは頭をぽりぽりとかく。風間さんと木崎さんは表情は変わらないが、あいつか…とボソリと呟いた。

「…まー、気難しい奴だから戸惑うかもしんねーけど、あんま気にしなくていいからな。軽〜く挨拶する程度で終わっとけば」
「…はい…?」

そんなに問題児なのだろうか。脅されたような気分だ。挨拶しに行くの嫌になってきた。じゃーまたな、と部屋に戻ったお三人を見送った。
次はもう一人のお隣さんに挨拶に行くが、先ほどの諏訪さんの言葉を思い出して緊張しつつ、ノックをしてみる。どんな人なのだろう。しばらくしてからドアが開いた。にゅっと首だけだしたお隣さんは、想像していたよりもはるかに若い。高校1年生ほどだろうか。

「お隣の空き部屋に引っ越してきた苗字です。これからよろしくお願いします」
「……どーも。菊地原です」

じとりとしたどこか冷たい視線を浴びる。年下なのはわかるが、ちょっとこわい。なんでこんな部外者がこの寮に、と言わんばかりの視線だ。

「僕、耳いいんで、あんまりうるさくしないでくださいね。せっかく角で隣空き部屋の静かでいい部屋だったんですから」
「あ、はい…気を付けます」

ため息交じりにそう言われ、じゃ、とすぐにドアを閉められた。確かに諏訪さんの言う通り気難しいお隣さんのようだ。せっかくお隣さんになったのだから、少しくらい仲良くなれたらいいのだが。とりあえずできるだけ静かに生活するようにしようと心に留めた。







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