サクラサク、この春。
私は三門市立大学に入学する。
三門市といえば、よくわからないけどとりあえず危険な土地というワードがまず頭に浮かんでくる。ネイバー、だったっけ、異世界の怪物が侵攻してくる場所らしい。それはぼんやりと知ってはいたが、だからといってさびれた街だというわけでもなく、それなりに都会だし、住民も多い。ということは、住めないほど危険なわけではないのだろう。それに、怪物を撃退するための施設もあるらしいし、別に大丈夫でしょ。何より、この大学に行きたくてずっと勉強してたんだから、受かって万々歳だ。ネイバーなるものを見たこともない私は、そんな楽観的な思考に基づいて、遠く離れた地方からこの街に引っ越すことに決めた。

……の、だが。
そんな人生の門出に、18年生きてきて最大にして最悪のミスを犯した。

「ボーダー……隊員寮……?」

馬鹿でかいキャリーケースを手に、建物に書いてある文字を見上げて呆然としていた。
住所は間違ってない。ここに間違いないはず。ということは、まさか私は間違って隊員寮に入居手続きをしてしまったということなのか。いやいや、ないない。入学手続きに時間も手間もかかり、アパート探しを後回しにしていたので手頃なアパートは大体空きがもうなく、そんなときに大学に近くかつまだ新しいアパートがなぜか一室だけギリギリ空いているのを見つけ、ラッキーとばかりにすぐさまその一室に決めた。確かにあまり説明も読まずに決めたような気もする。…が、さすがにこれはないでしょう。不動産屋の手違いに違いない。一度不動産屋に戻ろう、と来た道を振り返ると、スタイリッシュな色付きサングラスを頭にかけたぱっと見イケメンの若い青年が一人、私を見てにこっと笑い、手を振った。えっ私!?

「やあ、はじめまして。あなたが寮の空き部屋の入居者さん?」
「えっ!?いや、あの……なんか手違いみたいで、あはは…違うアパートに来ちゃったみたいなので、不動産屋に戻ります」
「え?違わないと思うよ。鍵もらったでしょ、見せて」

だらだらと変な汗が出始めたのを感じながら、鍵を渡す。そして青年は自分の部屋の鍵をポケットから出す。照らし合わせてみると、そっくりだ。さらにはボーダーと彫ってあるのを示された。
……マジですか。

「隊員寮だけど、一部屋だけずっと空いてたから、一般向けにそこだけ貸し出すことになってたんだ。やっと入居者が現れたっていうから、どんな人かと思ってたんだけど、いい人そうでよかったよ」
「………ちょ、ちょっと待ってください。じゃあ私、本当に、間違って入居手続きしちゃったんですね?」
「そうなるね」
「うそーーーっ!!」

はじめて大声を上げた。青年は少し驚いているが、そんなことは気にしていられない。
なんてこった。とんでもないことをやらかしてしまった。ちょっと前の私をぶん殴りたい。私の華の大学生活どうしてくれる。頭が真っ白になった私の目の前で手を振り、大丈夫?と声をかけてくれる。全然大丈夫じゃないです。

「ど……どうしよう………」
「まあまあ、そんなに気を落とさなくても。一般の人向けに貸し出してたんだから、何も問題ないよ。綺麗だし、部屋大きいし、住んでる隊員たちもいいやつばっかりだから、ね」

ポンポンと肩を叩かれる。そう言われても…。かと言って、引越しし直すなんて元気もお金もない。ここに住むしか道はないのだ。

「住めば都って言うし、さ。慣れたら楽しいよ、一人暮らしよりにぎやかだよ」
「…そうかもしれませんが……」

あー涙出そう。しかし今更泣いたところでどうにもならない。この鍵は違うアパートの鍵にはならないのだ。もう開き直るしかない。鍵を握りしめ、顔を上げた。

「…騒いですいません、もう大丈夫です。寮の一室、お借りします」

半ばヤケになりながらそう言うと、青年はにっこり笑った。

「じゃ、部屋まで案内してあげるよ。おれは迅悠一、この寮に住んでるボーダーの防衛隊員だ。以後よろしく」
「…苗字名前です。よろしくお願いします」

はたしてこれからどうなることやら。先行き不安だが、華の女子大生、うんと楽しんでやるんだから!







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