今日は春の流星群が見えると聞いて夜中、マグカップにミルクティーを淹れてベランダに出た。わりと星を見るのは趣味で、流星群のときはいつも上を見上げていつまでだって眺められる人だった。今日はどれくらい眺めようかと思っていると、隣のベランダから人が出てくる音がした。

「こんばんは」
「うおっ、ビビった。…よう、珍しいな。」

諏訪さんが煙草を吸いに外に出てきたのだった。そうだった、煙草吸う人だった。

「どうしたんだ、いつも出てこねえだろ?」
「今夜は流星群が見れるらしいので」
「流星群ねえ、そういうの好きなのか?ロマンチックな奴」
「星好きなんですよ。詳しいですよ、たぶん諏訪さんより」
「バカにしてんのか。俺だって多少はわかるわ」
「オリオン座くらいでしょう?」
「…あと北斗七星も」
「ふふ、だと思った」

くすくすと笑ってマグカップに口をつけた。星を眺めるときはいつもミルクティーだと決まっていた。
諏訪さんが煙草の煙を吐いたのが風にのってこちらへやってきたが、そんなに不快には感じなかった。

「あ、やべ。煙草嫌じゃねえか?」
「気にしませんよ」
「…そか。わりいな」

ちょっと申し訳なさそうにしているのが伝わってきた。部屋にこの前入ったときは煙草の匂いは全くしなかった。ということはいつもベランダに出て吸っているのだろう。私が嫌と言えば、諏訪さんが吸うところがなくなってしまうところだった。

「この前はカレー会ありがとうございました、本当に楽しかったです!」
「そりゃよかった。木崎のカレーうめえだろ」
「はい、とても!」
「また今度するときは呼んでやるよ」
「やった!ありがとうございます!」

カレー会のお礼を言うと諏訪さんはにっと笑った。ルーは濃厚で、大きめのじゃがいもやにんじんとよく合っていたし、カツもさくさくで風間さんが絶賛するのもわかるくらい美味しかった。イコさんだけナスカレーにしてもらっていて、うまいうまいとかきこんでいたのが印象深い。次呼んでもらえるのなら、今度はシフォンケーキくらい焼いて持って行こう。

「そういやさ」
「はい?」
「お前、菊地原とはどうなんだ?ちょっとは打ち解けたか?」

思い出したように菊地原くんの話をする。聞こえていたらどうするんだと思ったが、あいつは今日は確か防衛任務だったからいねえよと言われた。学生なのにこんな夜中まで、すごいなあ。たしか菊地原くんのチームの隊長が風間さんだったはず。だから知っているのか。

「なんとですね、ちょっと仲良くなりました。たぶん」
「マジか。何があった?」
「えーっと、鼻歌にクレームつけられた流れでCD借りて」
「ごめん意味わかんねえわ」
「とにかく、菊地原くんの好きなミュージシャンのCD借りたんですよ。そしたらハマっちゃって。おススメあるんで、ちょっと聞いてみてください。イヤホン持ってくるので!」
「おう。…前から思ってたけどお前コミュ力高えよな」
「諏訪さんほどじゃないですよ。待っててください、イヤホンとってきますね。あ、諏訪さんミルクティー飲みます?」
「お、サンキュー。頼むわ」

ばたばたと中へ戻り、新しいマグカップに保温していたお湯でミルクティーを作り、イヤホンを掴んでベランダへ戻ると、諏訪さんは煙草をくわえて星を見上げていた。その横顔が驚くほど綺麗、だというか、ちょっと意外なほどかっこよかったので、ぼーっと見ていると、空を見上げて煙を吐いた諏訪さんが突然おわっといきなり声を上げた。

「おい、苗字!星!流れたぞ!…って、いんじゃねえか!声かけろよビビんだろうが!」
「…あ、すいません、ちょっとぼーっとしてて。流れ星見たんですか?よかったですね!」
「おう、初めて見たかもしんねー。テンション上がるわ。たまには星見んのもいいもんだな」

そう言って屈託のない笑顔を向けてくるものだから、私まで嬉しくなって微笑んだ。諏訪さんのお隣でよかったなあ、なんて思った。

「イヤホンとってきましたよ、どうぞ、この曲!CMソングにもなってるから聞いたことあるかも。菊地原くんのお気に入りだそうで」
「ほー。…ふんふん。結構いいな」
「こーこはーどこーなんだろうね〜どこに行くんだろうね〜…」
「歌うなさすがに近所迷惑だわ!」

流星群を見にベランダに出たはずが、星そっちのけでイヤホンを片耳ずつ分けて聴いていた。たまにはこんな夜も悪くない。







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