Oh, bother!2

麦わらの一味と隻眼の女





蒼き日々と幸福


さて、それじゃあ仕事を始めなければ。こんなに溜まりに溜まっているのだ、これはしばらくカンヅメかな。なんて考えることも日常が戻ってきたと実感できて、それさえも今は嬉しくて、にやけてしまう。


「……何笑ってんの、ユナちゃん」
「え?ふふ、仕事頑張らなくちゃなって。さっそく始める…前に、コーヒーでも淹れましょうか」
「なんか機嫌いいね」
「ええ、久しぶりにクザンさんとお仕事ですから」
「…嬉しいこと言ってくれんじゃないの」


うふふ、と笑みを抑えきれないままにそわそわしながらコーヒーを淹れる。クザンさんはいつものようにデスクチェアに深くこしかけているが、いつものアイマスクはポケットに封印して穏やかな笑みを浮かべている。
コーヒーの香りが部屋に満ちると、なんだか色々と脳裏に浮かんでは消えていく情景。何だろう、涙腺が緩くなったようだ。初めてひとりが怖いと、生きて帰ってこれてよかったと、こんなにも感じたからだろうか。


「どうぞ、」
「どーもね。…あらら…どしたの。泣いてる?」


コーヒーを受け取ったクザンさんは表情を変えて私の顔を覗き込む。ぱたりと書類に落ちた雫。慌てて拭って、微笑む。


「………ふふ、なんか、思い出しちゃって」
「…麦わらたちのこと?」
「それもですけど、クザンさんに出会った日のことから、走馬灯みたいに」
「あらら、演技でもないこと言わないの。…ま、そーだわな、この期間大変だったろ。…やっと安心したからかね」
「…はい、…」


あの日。突然酒場にやってきたクザンさんに出会って、大きく変わった。あれが全ての始まりだった。


「最初はあんなに嫌がってたのにね」
「だってイヤでしたもん、ほとんど誘拐ですよ。拉致ですよ」
「まあまあ。結果オーライでしょ。ユナちゃんなんか、俺の名前間違えたじゃん」
「あれ、そうでしたっけ」
「とぼけちゃって」


そうだ、そんなこともあったか。連れてこられて最初の頃は、本当にイヤがっていて、政府の言いなりになるくらいなら眼なんていらないとさえ思った。そんなの間違いだったってことに、やっと気がついた。
クザンさんにはあれから、失礼なことばかり言って、我儘も言ったし、ついには喧嘩までした。でも、こんなにあたたかなところに連れてきてもらえたのは、全てクザンさんのおかげなんだ。
むくむくと湧いてきた気持ちを言葉にしたくて、コーヒーをゆっくりと味わうクザンさんに声をかける。


「クザンさん、好きですよ」


その瞬間勢いよくコーヒーを吹き出したクザンさんの真下にはもちろん書類が待ち受けていて、私はこの後のセンゴクさんのゲンコツを覚悟した。まあいいか、なんて考えてしまうんだ。今日だけは特別。
「………それ、殺傷能力あるな」と言うクザンさんは珍しく顔を赤くしている。こんな日々が愛しくて、愛おしくてたまらない。たったこれだけの時間で、大好きなものがうんと増えた。この海軍、あの海賊船、そしてクザンさん。


「これからもずっと、おそばにいさせてくださいね」
「……手放すわけないでしょ」


伝えきれないくらいの感謝と愛を、ゆっくり、ゆっくり時間をかけて、伝えていけたらいい。まだまだこの愛しい日々は、始まったばかりなんだから。



fin.



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