Oh, bother!2

麦わらの一味と隻眼の女





愛しいひとよ


どうしてクザンさんがこんなところに、なんて考えている余裕はなかった。あんなに会いたかったクザンさんが、ここにいる。それだけが頭を占めて、じわりと涙が滲む。


「本当にユナちゃんだよね?幻じゃねェよな?」
「わ、私のセリフです、……本当にクザンさんなんですか…?」


声が震えるのが自分でも分かる。だって、こんなところにクザンさんがいるはずはないのだ。そう思っているのはクザンさんも同じようで、私を抱きしめる腕に力がこもっている。身長差がありすぎて不恰好だが、ゆっくりと私も手をまわす。


「…ちょっと、混乱してるんだけど。とにかく…どこも無事?怪我はない?」
「………は、い」


よかった、と心底ホッとしたように息を吐き出すクザンさんの心臓の音が聞こえる。どくどくと鳴る少し早いリズム。もしかしたら自分の心臓の音かもしれない。それくらい、出逢えたことに驚いていたし、緊張もしていた。それ以上に、涙が出るくらい嬉しくて。クザンさんも同じ気持ちなんだろうかと、心臓の音を聴きながら思った。


「…聞きたいことも言いたいことも、たくさんあるんだけど、…とりあえず、」
「…はい」
「会いたかったよ、本当に」
「わ、私もですっ……!!」


もう、二度と会えないかもしれないと何度も思った。空まで飛んで行ってしまって、帰ることが本当に出来るのだろうかとずっと不安だった。
ずっと、会いたかった。
これ以上ないくらいキツく抱きすくめられ、苦しいのも厭わずに私も抱きつく。みんながじっと見ているのも忘れて。…忘れて。いや忘れちゃだめなやつ!


「あっ、み、皆さん!これは、えーっと」
「…あ、その他大勢、いたの」
「遅ェよ!!そして誰だよ!!」


慌てて振り向き真っ赤になる私を抱きしめたまま、皆がいることにさも今気づいたかのようにするクザンさんにウソップさんがキレのあるツッコミを入れる。そして今度はサンジさんがクザンさんに突っかかった。


「てんめェ、どこの誰だ!!名を名乗れェ!!一体ユナちゃんの何なんだ!!」
「この方は、ですね…!」
「何、うるさいんだけど。感動の再会を邪魔しないでくんない?今堪能してるから。久しぶりのユナちゃんを堪能してるから」
「と、とりあえず、一旦離れましょう!」
「やだ」
「やだじゃなくて…!」
「体が離れてくれねェの」


いつにも増してワガママなクザンさんから離れようとするが、がっちりとホールドされている。どうしたものかと考えたときだった。ロビンさんがその場に崩れ落ち、尻もちをついた。


「え?」
「ロビン!?」
「ハァ…ハァ…!!」


ロビンさんは今まで見たこともないくらい取り乱していて、顔は真っ青、息も荒く、目を見開いて私の頭上のクザンさんを見つめていた。異様なほどのそのロビンさんの狼狽えように、ゾロさんは刀に手を添え、ウソップさんはパチンコを取り出す。


「あらら……コリャいい女になったな…ニコ・ロビン」


頭上からそう言う声が聞こえてぎょっとする。


「え!?クザンさん、ロビンさんを知ってるんですか!?」
「…昔、ちょっとなァ…」
「誰なんだてめェは!!」
「…海兵よ…海軍本部”大将”青キジ」
「…私が海軍本部でお世話になっていた人です。私はこの方の秘書もどきです」
「「”大将”!?!?」」


ロビンさんの震える声と私の言いにくそうにする声が続く。皆の驚く声が重なった。驚くのも無理はない。大将といえば、海軍という大きな組織のトップだ。その三人しかいない大将という肩書きを持つ人がこんなところにいて、その上私をひしと抱きしめているのだから。


「大将なんてなんでそんな奴がここにいるんだよ!!」
「ちょっくら散歩に」
「散歩!?相変わらずまたサボってたんですか?」
「ユナちゃんがいないから仕事する気にもならなくてよ」


そう言われては怒ることもできない。そのやりとりを聞いていたウソップさんがまじまじと私を見る。


「じゃあユナは大将のお気に入りってことか…!?めちゃくちゃすげェ奴じゃねェか!!」
「そうでもないですけど…」
「まあ早ェ話…お前らを取っ捕まえる気はねェから安心しろ。アラバスタ事後消えたニコ・ロビンの消息を確認しに来ただけだ…予想通りお前達と一緒にいたわけだが…そしたらなぜか全力で捜索してる行方不明のユナちゃんがいたわけだ。愛しのユナちゃんに会えたからもう俺は帰ってもいい」
「やる気がねェのかユナが好きなだけなのかもうわかんねェよ」


クザンさんが私の頭に顎を乗せ、寄りかかりながらだるそうにそう言う。私は必死にその体重を支えている。そこでサンジさんが再度詰め寄った。


「そこだよ!!ユナちゃんとてめェは何なんだ!!一見保護者だが…まさかこっここここいびっ」
「落ち着けサンジ」


真っ青になって動揺を隠せないサンジさんの肩をウソップさんが掴んでなだめる。痛いところをつかれ、返事に戸惑いながらも否定しようとすれば、ゾロさんが呆れたようにため息をついた。


「あのな…ちったァ考えろエロコック。何歳差だと思ってんだよ、ユナは俺たちと同い年くれェだぞ」


ゾロさんがサンジさんに言うのを聞いてぱちくりとする。同い年、ということは、18くらいか。私そんなに童顔かなあ、と僅かながらショックを受けつつ、首を振った。


「…あの、ゾロさん。私皆さんより年上ですからね?」
「は!?」


え、そんなに驚くことか。まあこの性格だし、大人びた顔でないのは自覚している。それに若く見えたなら良いけど、とポジティブ精神でいる。


「嘘だろ、年上!?」
「すみません落ち着きのある大人じゃなくて」
「まあどっちにしろ年齢差とか関係ないから」


さらりと漏らしたクザンさんの顎にジャンプして頭突きをかました。恥ずかしいんだよこっちは…!!久しぶりのクザンさんについていけてないからね!!頭突きの効果はあまりないようだったが。それを聞いたサンジさんがまた絶望に染まったような表情をした。


「じゃあそういうことなのか!?」
「ち、違いますって!まだ!!」
「あらら…”まだ”?」
「あ、…!!違います!」


クザンさんのペースに乗せられている。これは非常に悪い。にやにやするクザンさんの下で一人わたわたしていると、クザンさんは勝手に話をすすめる。


「ニコ・ロビンのことは本部には報告くらいはしようと思う。賞金首が一人加わったらトータルバウンティが変わってくるもんな…ユナちゃんが海賊船に乗ってたことは伏せとく。……そこらへんに倒れてたってことにでもしとくか」
「テキトーだなオイ」


これでこそいつものクザンさんだ。相変わらずのクザンさん節に苦笑すると、いきなりルフィさんが拳を振り回しつつ叫んだ。


「ゴムゴムのォー!!!」
「ちょっと待てルフィ!!スト〜〜ップ!!」
「ルフィさん!?」


クザンさんに向かって攻撃しようとしたルフィさんを、慌ててウソップさんとサンジさんが止める。


「話せお前ら!何だよ!!」
「こっちからふっかけてどうすんだ!」
「相手は最強の海兵だぞ!!」
「それが何だ!だったらロビンとユナを黙って渡すのか!!ぶっ飛ばしてやる!!」
「いやだから、何もしねェって言ってるじゃねェか…それ以前にユナちゃんはウチのだし…」


喧嘩腰の強気すぎるルフィさんは色々と勘違いをしているようだ。クザンさんが若干引き気味なのが分かる。出て行けというルフィさんにため息まじりに頷く。


「じゃあわかった…帰るがその前に…あんた」


クザンさんがトンジットさんを指差した。トンジットさんはいきなり話題を振られて驚いている。


「話は大方聞いてた…すぐに移住の準備をしなさい。要するに、3つ先の島へ行きたい、引き潮を待ち馬で移動したいがその馬が足に怪我を負っちまったってんだろ」
「それがわかってんなら今は移住なんてできねェのわかるだろ」
「大丈夫だ」
「…確かに…その男なら…それが出来るわ」


クザンさんが考えていることが私にも分からないで、皆と同じように怪訝に瞬きするばかりだ。そんな中、未だ立ち上がれないロビンさんが静かに確信を持った声で言うのだった。



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