奪還成功
三人は今までと明らかに動きが違った。喧嘩していたさっきまでとは打って変わって連携プレーを繰り出し、凶器を使うのを逆手にとって、逆に敵を自らの凶器の餌食にしていく。形勢はいつの間にか逆転し、ついに。
『ゴ〜〜〜〜ル!!!!』
「………嘘」
信じられない。瞬きさえ忘れて立ち尽くしている間に、試合終了の笛が鳴った。
麦わらチーム大勝利、とアナウンスが流れ、オヤビンが悔しがっているのを見て、やっと勝ったと実感が湧いてきた。
「………勝った…!」
「んぎ〜〜〜〜!!何てこった!!」
脱力して座り込む。なんて人たちだろう。本当に勝ってくれた。ハンデもズルも物ともせず。こんなすごい戦いを目の当たりにしては、しばらく立てそうにない。
そんな私を置いて、取り引きが始まる。そこでナミさんが提案したアイデアが盛大なブーイングを受けるのを、ステージの上からぼーっと眺めていた。
「ユナ!!!」
いきなり名前を呼ばれて肩が跳ねる。ハッとして顔を上げると、ルフィさんが満面の笑みを浮かべていた。
「戻って来い!!!」
じわ、と涙が浮かぶ。それを拭って、立ち上がった。
「はいッ!!!」
すぐさまステージから飛び降りようとしたが、自分がつけていたフォクシー海賊団のマスクにはたと気がついた。こんなもの、もう必要ない。
「これお返ししますッ!」
「…くっそォ…せっかくの拒絶の能力者がァ〜!」
悔しそうなオヤビンに向かってマスクを叩きつけ、べっと舌を出してやる。そして今度こそ、勢いよくステージから飛び降りた。
ステージから降りた私を、みんなが笑って待ってくれていた。一気に安心して、へにゃりと心から笑う。
「……ただいま戻りました」
「にっしっし!おかえり!!」
ルフィさんが満面の笑みを浮かべて私の頭をがしがしと撫でる、それに続いてナミさんが抱きついてきた。
「ユナ!!大丈夫だった!?何もされてないわよね?」
「はい、…でも、こわかった、です…!」
「よしよし!もー、あいつらハラハラさせるんだから…!」
ナミさんに背中をさすられ、ぐすぐすと鼻をすする。そしてハッとしてゾロさんとサンジさん、チョッパーさんを見る。そこかしこに傷を作り、血で汚れた顔を見てまた涙腺が緩む。
「私のせいで、危ない目に合わせてしまって…たくさん怪我させてしまって、本当にごめんなさい…!!」
「え!?ユナちゃんのせいじゃねェよ、それにこんなのへっちゃらさ!ユナちゃんを取り戻せて良かった」
サンジさんが私の頭に手を置き、ゆっくりと撫でる。耐えきれずにぶわ、と涙が溢れる。
「な、何で泣くんだ!?どっか痛えのか?大丈夫か!?」
チョッパーさんが慌てて私を心配そうに見上げるので、首を振って、私は微笑んだ。
「…奪い返してくれて、ありがとうございます…!!」
三人は笑って、おうと応えた。こんな船に居候できて、なんて幸せ者なんだろう。
第3回戦コンバットを始めるまでしばらくかかる。選手の準備、そして”フィールドメイク”をしているらしい。この間に、応急処置だけでも、と思い、チョッパーさんのリュックを借りる。船医はチョッパーさんだが、そのチョッパーさんも傷だらけなので、私にやらせてくださいと言ったのだった。
「チョッパーさん、すごく勇敢でした!かっこよかったですよ、すごく!」
「本当かー!?う、嬉しくねェぞコノヤロウ!!」
右手…いや右前足に包帯を巻きながらそう言うと、くねくねと左前足を動かす。言っていることとは裏腹に、態度はすごく嬉しそうだが。可愛いな。
「でも、俺の”診断”に時間がかかっちまってさ」
「スコープ?」
「ああ、相手の弱点を見つけることができる技なんだけどな、あいつらの弱点を探してたんだ!それで、あいつらの巨大な凶器を逆に利用してやろうという作戦を思いついたんだ」
「じゃあ、チョッパーさんの作戦だったわけですか。頭いいですね…!」
「そっそんなことねェよコンニャロー!」
足をバタつかせて喜ぶチョッパーさんだった。後半、いきなり動きが変わったのはチョッパーさんがアイデアをだしたからだったのか。
チョッパーさんの手当が終わると、次はサンジさんだ。
「サンジさんも怪我がひどいですね…。まずは額、ガーゼあてますよ」
「ああ、頼むよ。ありがとう」
額を晒すために、サラサラな金髪の前髪を除ける。消毒してからガーゼを当てると、至近距離でサンジさんの目と目があった。
「…ユナちゃんのために、頑張ったんだぜ」
サンジさんの柔らかな眼差しと声を間近で受けて、少し面喰らう。サンジさんたらし発動中…!!サンジさんにこんなセリフを言われて、どうも思わない女はいないと思う。さすがに照れる。
「あ、ありがとうございます。かっこよかったです、あんなデカいやつら相手に蹴り飛ばして!」
「見ててくれたのか。嬉しいな」
「もちろん見てましたよ。ひやひやしましたが…!」
「不安にしちまってごめんな」
「あ、う、いえ」
しどろもどろになる私を見つめて、顔真っ赤、と指摘するサンジさんは一歩上というか、小慣れている感がハンパない。
「…あんまりからかわないでください」
「ん?からかってなんかないさ。あんまり可愛いプリンセスだから」
「ほら、またそうやって!たらしですか!!」
「たらしって…ヒドイな。ユナちゃんは、その、なんだ。…特別だよ」
「…!!」
もう、なんか勝てる気がしない。苦手だ、こういうのは。言い返すのも諦めて、手早く包帯を巻いていると、隣から不機嫌そうな低い声が聞こえた。
「……オイ、こっちはまだかよ」
ゾロさんがじろりと私を見ていた。慌ててサンジさんの手当てを済ませる。ゾロさんが待っていることを忘れてた。
「ぞ、ゾロさん!今終わりますから!すみませんお待たせして!」
「チッ、とんだ邪魔者が…」
「なんだと?エロコック」
「ああもう、いい加減喧嘩はやめてくださいよ。試合中も喧嘩ばっかり!仲良くできないんですか!?」
「ユナちゃん、そればっかりは」
「無理だな」
「…もういいですよ…」
こんなところでだけ息ぴったりなふたりにため息をつき、今度はゾロさんの手当てを急ぐ。もう慣れたもので、腕にするすると包帯を巻き、顔の汚れを拭き取ってガーゼを当てる。
「痛みますか?我慢してくださいね」
「………」
「?どうしました?」
「俺にはねェのかよ」
「何がですか」
「……チョッパーにも、アイツにも言ってたろ」
何のことだかさっぱりわからない。首をかしげていたが、もしかして。やっと言わんとしていることを理解し、くす、と笑ってしまった。
「かっこよかったですよ、ゾロさん」
「……フン。そうかよ」
「褒めてほしいならそう言えばいいのに。素直じゃないんですから」
「そんなんじゃねェよ!…ったく」
変なところで照れ屋だなあ。クスクスと笑って手当をすませた。みんな包帯だらけになってしまったが、仕方ないか。すると、サンジさんが立ち上がって、リュックに道具をしまった私に手を差し出した。
「さ、コンバットが始まるぜ。行こうか。お手をどうぞ、プリンセス?」
「……ど、どうも」
「じゃあな、マリモくん。先に行ってるぜ」
サンジさんが私の手を滑らかな動作で取り、歩こうとする際に振り向いてゾロさんを一瞥した。ゾロさんとサンジさんの視線の間に火花が散っているのが見えた気がしたが、気のせいに違いない。
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