神解け
上層の巨大樹の元へ倒れた皆をなんとか運び終わり(と言っても私が運んだのはチョッパーさんだけなのだが)、雲行きが怪しくなってきた空を仰ぎ見る。雷雲のような黒く分厚い雲が空を覆っている。
「ロビンさん、一体…これは…」
「エネルの仕業よ…じきに大破壊を始めるつもりね」
「そんな…。…アレは?」
「エネルの舟じゃないかしら…あの舟にエネルが乗っていると思うわ」
重たく、暗い空にぽっかりと浮かんだ異質な舟。大きな舟はゆっくりと、ゆっくりと巨大樹を廻って何処かへ向かっている。あれに、エネルが。
「ルフィさんたちは無事でしょうか」
「まさかあの舟に乗ってるということはないでしょうけど…」
ルフィさんがもし負けていたら、と考えて首を振る。不吉なことを考えてはいけない。不安になるだけだ。信じるしかないのだ。
そんなとき、後ろから声が聞こえた。
「ユナーー!ロビーン!!」
「え」
「この声はルフィさ、えっ!?」
振り向くとアイサちゃんと空の騎士の鳥がこっちに飛んできていた。ロビンさんがとっさに手を生やして受け止める。
ルフィさんはというと、手に大きな光り輝く球体をつけて巨大樹を登り始めた。
ロビンさんはアイサちゃんが怖がって叫ぶのを気にも止めずにルフィさんに声をかける。
「その腕の黄金は何?」
「やっぱり黄金ですかあれ!?」
「ロビン!!この蔓のてっぺんに黄金の鐘があるんだな!?」
ルフィさんはこちらの話を聞いていないほど必死な表情だ。”黄金の鐘”とはそんなに大切なものなのだろうか。私には分からないが、そんな表情をしていた。
「エネルはその鐘を狙ってるんだな!?」
「…鐘楼があるとすれば…そこしかないわ…。だけどもう…」
ロビンさんが言い終わらないうちに、巨大樹を勢い良く登り始めた。黄金の玉はあまりに大きく重そうなのに、歯を食いしばり上へとどんどん登って行く。その姿をぽかんと眺めていたが、大切なことを思い出して慌ててアイサちゃんに話しかけた。
「アイサちゃん、ナミさんはどこに!?」
「え、ナミならあの舟に…」
「まさかあの舟に一人取り残されてるんですか!?」
「あれ!でも、空から”声”が一つしか聞こえない」
アイサちゃんが舟を見上げて首を傾げていると、ブイーンと聞き覚えのある音が近づいてきた。この音は、ナミさんのウェイバーの音だ。
「いた!!アイサ!良かった、無事なのね!?」
「ナミさんっ!!」「ナミ!!」
アイサちゃんと二人でナミさんに飛びつく。分かったから!と言って頭を撫でてくれた。ナミさんが無事で本当に安心した。
ナミさんのウェイバーにはサンジさんを抱えたウソップさんも乗っていた。ゾロさんたちのようにボロボロのサンジさんは意識がないようだ。
「サンジさんまでやられたんですか!?生きてますよね…!?」
「ああ、何とかな!俺たちは勇敢にもナミを助けに舟に乗り込んだんだよ。おれ様も危ねえところだったぜ…!済んでのところで雷の攻撃をかわし、」
「舟に乗り込んだんですか!なんて無茶を…無事だったから良かったものの!」
「せめて最後まで言わせろよ!!」
ウソップさんの語りを遮ってしまったが反省はしていない。後半から聞く必要なさそうだったし。
そのときだった。空から一閃の稲妻が落ちた。それを合図にしたかのように、空島全域に雷がいくつもいくつも落ちていく。光とともに雷鳴が轟き、雲が揺れている。地獄絵図だ。足に力が入らなくなったところをウソップさんが支えてくれた。
「オイしっかりしろ!……にしてもすごい光景だ!!」
「ありがとうございます、……生きた心地がしません…」
「俺もだ…!!早く脱出しねェと、ここだって危ねェぞ!!」
と言ったそばから、すぐ近くにいかづちが落ちる。その振動と爆風によろめいて倒れる。支えてくれていたはずのウソップさんは爆風に転がりながら叫びをあげた。
「ギャァァァ!!なんてでっけェいかづち…!!ここにいちゃ空のチリになっちまう!!」
「キャー!!」
「みんな!船へ急いで!!私もルフィを連れてすぐに行くから!!」
「よ!よよよし!わかった!!」
ナミさんがウェイバーを起動させ、ものすごいスピードで巨大樹を登って行く。あのルフィさんに今から追いつくだろうか。
「急げ、ユナ!ロビン!こいつらをなんとか船まで運び出すん……!?」
気がつけば、倒れていたシャンディアの戦士が立ち上がり、地獄と化した空を見つめていた。ゾロさんや空の騎士も轟音のせいか、目を覚ましていた。私は誰よりも先にゾロさんに駆け寄る。
「ゾロさんっ、分かりますか…!私です!」
「ゲホ、………お前、」
「無事蛇のお腹から出てきました!」
「…っとに、アホか」
アホかと言いつつ、安心したように小さく笑ったのに私は気がついた。
体を起こそうとするのを手伝いながら、今の状況を手短に説明した。
「……にしてもこりゃすげェ」
「感心してる場合じゃありませんよ!!」
「分かってるがよ」
すぐ近くにまたいかづちが落ちた。悲鳴を上げてゾロさんに飛びつくように身を寄せてしまった。すみませんと言いつつ体を離そうとするが、震えが止まらずなかなか体が言うことをきかない。足に力が入らない。早く船まで戻らないといけないのに。
「ったく…落ち着け」
「落ち着いていられません、すぐにここを出なくちゃ…!」
「その状態で動けんのかよ」
「う、…大丈夫です」
「意地はってもしょうがねェだろ、それに……」
「それに?」
「ルフィは、脱出なんて考えてねェだろ」
「それってどういう…」
ゾロさんはそれきり黙ってしまった。脱出を考えていない?どういうことだ。この島と心中する気なんてないだろうし、まさか、今からでもエネルを倒そうなんて考えてないよね。こうなってしまっては何もかも遅いように思える。とりあえず落ち着こうと深呼吸をひとつして、雷の鳴り止まない空を見上げる。
「ん?……あれは何……?」
「あ?」
指し示す方には、雷雲が球状になっていくのが見えた。どんどん丸く、大きくなっていく。まさかアレが落ちてくる?そんな、まさか。嘘でしょう、と掠れた声が漏れた。
「落ちる……」
ロビンさんがそう、呟いた。
バリバリッ!!!!
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