たしぎちゃんと昼食
食堂はとてもにぎやかで、いろんな海兵の人たちがそれぞれ食事をとっていた。たしぎちゃんと座った私は、カレーを頼んでみた。海軍のカレーってなんか憧れのイメージだと思う。一度は食べてみたかった。予想よりも美味しくて、すごく満足した。しかしボリューミーで食べるのに苦労した。私がカレーにした理由を聞いたたしぎちゃんは、声を立てて笑った。
食べている間もあちらこちらから視線を感じる。じろじろというよりはチラッチラッという感じなのだが、ちょっと食べづらい。私の左眼のことは上官から聞いているのだろう、物珍しいのは分かるがもうちょっと自粛して欲しいものだ。
そんなところへ、葉巻をくわえて上着の下は上半身裸というなかなか刺激的な格好の男性がやってきた。何か書類をたしぎちゃんに差し出した。
「たしぎィ、これやっとけ」
「あ、はい!スモーカーさん!」
「………」
「なんだてめ、………ああ、例の奴か」
私が呆然と見つめていると、ぎろりと睨んできた。怖いよ本当に海兵さん?というかなぜ裸なんですか。そこ突っ込んじゃいけないとこなんですか。そして葉巻二本ってどんだけ中毒なんですか。とりあえず煙たいんですけど。
それよりも、この方がたしぎちゃんが言っていた人なのだと一発でわかった。
「…ほんと、たしぎちゃんが言ってたとおりの方ですね」
「あァ”?」
「ちょ、ユナちゃん!?」
慌てるたしぎちゃんだが、あれ、私これ言っちゃダメだったかな。スモーカーさんは一気に不機嫌そうな笑みになり、ニヤリとしてたしぎちゃんを見下ろす。何て言ったか教えた方がよさそうだな。
「何て言ったんだ、たしぎ。上司の陰口かァ?度胸あんじゃねェか」
「え!いや、あの!陰口なんかじゃなくて…!!」
「海兵らしさは欠片もないのに、正義感に溢れる素晴らしい海兵だそうです」
「ウワアアア言わないでくださいい!!」
「か、代わりに言ってあげたんですよ!」
ガクンガクンと肩を揺らされる。誤解とこうとしただけなのにー!どうですか、わかってくれましたよねスモーカーさん。しかしスモーカーさんは予想とは違う反応で、眉間にしわを寄せていた。あれ。もしかしてこれって。
「………ベラベラ喋ってんじゃねェよくそが」
「す、すいません…??」
「…照れてます?」
「誰が照れるか!!」
やっぱり照れてますね。ちゃんとたしぎちゃんの言うとおり根は良い人のようだ。スモーカーさんは私をまた睨んだが、もう慣れましたとばかりにけろりとしているとため息を吐いた。
「……ったく、こんな生意気な娘だとは聞いてなかったぞ」
「気分悪くされたらすいません。こういう性格なもので」
「……ったく。たしぎ、その書類、明日中だぞ」
「は、はいっ。了解です!」
すたすたと去って行くその背中には、でかでかと正義と書いてあった。その背中を見つめていると、たしぎちゃんが感心したようにユナちゃんってすごく勇気がありますね、と言った。思ったことを言っただけなんだけどなあ。
「あなたが”ユナ”?」
今度は美人な女の人が近寄ってきた。次は何だ。ピンクの髪を揺らして、私を見下ろす。かっこいい、スタイル抜群。
「ヒナ大佐!」
「ごきげんようたしぎちゃん。…さっきの見てたわよ。あのスモーカー君と言い合いするなんて、ずいぶん度胸があるのね。ヒナ感心」
昨日から何度も褒められて(?)いるが、いや本当、言い返してるだけだから。本当はこれ怒られるところなんじゃないだろうか。
「失礼ばっかり言ってすみません」
「謝ることないわよ。そのくらいがちょうど良いのよ」
「そうなんですか」
「ええ。ユナ、歓迎するわよ。仲良くやりましょう」
「あ、それが、まだ今後のことは話し合いの途中で…」
「あら、そうなの?ヒナ意外。ここも案外、慣れたら楽しいわよ」
「…そうみたいですね」
くす、と笑う。にぎやかな食堂。確かに、個性あふれる海兵さんたちは優しい人たちばかりのようだ。でも。でも、私は、政府を許せないし許してはいけない。ぐ、と唇を噛んだ。
「まあ、あまり気を負わないでいいわ。マイペースに行きましょう」
「…ありがとうございます」
じゃあねと踵を返したヒナさんはウインクをしていった。美人のウインクって…殺傷能力あるんだなあ、とドキドキする胸に手を当てながら思った。
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